17 / 141
第一章
知らなかった一面
今まで野菜しか見ていなかったのと、初日のエルダーの言葉を思い出して首を傾げる。
「フルーツはマーケットに買いに行っているんじゃなかったのか?」
「九割はな。でも残りはここからだ。まあここも俺が無理言って作らせたんだけどよ」
ガハハ、と豪快に笑ったゴードンは俺の方から腕を離し、先を歩き始める。それを追いながら進むと、食卓にもよく並ぶ果物や、まだ実もなっていない木が見えた。
「これだ。緑の丸いのが見えるか? これがこの木の実だ。今日はこれに袋をかけていく」
「袋?」
「おう。虫から守ったり、あとは見た目もよくなる。皮に傷が付きにくくなるからな」
説明を受けながら、渡された道具を使って袋をかけていく。
始めは手こずったが何度かやるうちに慣れてきて、作業の速度も上がり始めた。その頃だ、近い場所で作業していたゴードンが話し掛けてきたのは。
「リュシアン様に怒られたんだろ」
声は明るい。楽しんでいるような響きさえある。
「まあここであんたのこと叱れるのなんて、あの人しかいねえものなぁ」
それに何も答えずただ手を動かす。そんな俺を見てゴードンが笑った気がした。
「あの人は人一倍ご家族のことを大事にされてるからな、そりゃフィル様への当たりも厳しくはなる」
「……」
「でもあんたのことを心底憎んでるわけじゃないと思うんだ」
「それはないだろう」
「食い気味じゃねえか」
「だってリュシアンは、俺の名前も呼びたくないって……」
袋をかけていた作業の手が止まる。
それまで思い出さなくて済んでいた昨日の記憶や、ここに来た時の記憶が蘇って視線が下を向く。
「まあそりゃ、そうだろ。あの人がどんだけご家族のこと溺愛してるかあんた知らねえのか」
「……?」
顔を上げて首を傾げる。
リュシアンと溺愛という言葉がまるで違う言語みたいに噛み合わないからだ。
「ロザリア様なんて公爵家で唯一の娘様だからな。それはそれは可愛がってらっしゃるんだわ。多分ロザリア様が望めば、リュシアン様は拳くらいのダイヤだって調達してくる」
「……あのリュシアンが?」
そんなもの無駄だと一刀両断してしまいそうなリュシアンが?
「おう。ドレスだってなぁ、ちょっとでも肌の出てるのが多いと血相変えるからな。お前の美しさは誇りだがなんとかってロザリア様を言いくるめてドレスを着替えさせたことだって何回あるか」
「それは本当に俺の知っているリュシアンなのか」
「おー、公爵家じゃ当然の話だなこれは」
俺の頭の中には常に睨んでくるか冷笑を浮かべているか、それか真顔かのリュシアンしかいない。出てくる言葉だっていつも鋭利な刃物のようだ。
そんな男の口から美しいなんて、人を褒める言葉が出てくるのが信じられなかった。
「蝶よ花よと育てられ、目に入れても痛くないってくらい可愛がってる妹をコケにされたんじゃ、そりゃあお兄ちゃんは大激怒だわな」
「……」
「でもあんたはそれ反省してんだろ?」
やや遅れて頷くと、ゴードンはまた豪快に笑った。
「反省できてるなら大丈夫だ」
懐の深さを感じさせる言葉に下唇を噛んだ。
「どうして、許せるんだ。俺は公爵家の人間を蔑ろにしたのに」
「許す許さねえは俺の問題じゃねえなぁ。そもそも俺はここに来る前のフィル様を知らねえからなんとも言えねぇが」
同じく作業の手を止めたゴードンがこちらを見た。
皺が深く刻まれた目元の奥には、優しい光を湛えた瞳があった。
「あんたは悪い人じゃねえからな。時間は掛かるかもしれねえが、いつかはリュシアン様も優しくなってくれるさ」
それは無理だろうと咄嗟に思ったが、それよりもまた目の奥が熱くなってしまった。
「! おおおい泣くな⁉︎ 泣くなよ! 俺ぁ多分あんたを泣かせたらまずい気がするんだ! 泣くな! 泣き止め!」
大焦りしているゴードンの声が聞こえているのに、目から涙が止まらなかった。
「フルーツはマーケットに買いに行っているんじゃなかったのか?」
「九割はな。でも残りはここからだ。まあここも俺が無理言って作らせたんだけどよ」
ガハハ、と豪快に笑ったゴードンは俺の方から腕を離し、先を歩き始める。それを追いながら進むと、食卓にもよく並ぶ果物や、まだ実もなっていない木が見えた。
「これだ。緑の丸いのが見えるか? これがこの木の実だ。今日はこれに袋をかけていく」
「袋?」
「おう。虫から守ったり、あとは見た目もよくなる。皮に傷が付きにくくなるからな」
説明を受けながら、渡された道具を使って袋をかけていく。
始めは手こずったが何度かやるうちに慣れてきて、作業の速度も上がり始めた。その頃だ、近い場所で作業していたゴードンが話し掛けてきたのは。
「リュシアン様に怒られたんだろ」
声は明るい。楽しんでいるような響きさえある。
「まあここであんたのこと叱れるのなんて、あの人しかいねえものなぁ」
それに何も答えずただ手を動かす。そんな俺を見てゴードンが笑った気がした。
「あの人は人一倍ご家族のことを大事にされてるからな、そりゃフィル様への当たりも厳しくはなる」
「……」
「でもあんたのことを心底憎んでるわけじゃないと思うんだ」
「それはないだろう」
「食い気味じゃねえか」
「だってリュシアンは、俺の名前も呼びたくないって……」
袋をかけていた作業の手が止まる。
それまで思い出さなくて済んでいた昨日の記憶や、ここに来た時の記憶が蘇って視線が下を向く。
「まあそりゃ、そうだろ。あの人がどんだけご家族のこと溺愛してるかあんた知らねえのか」
「……?」
顔を上げて首を傾げる。
リュシアンと溺愛という言葉がまるで違う言語みたいに噛み合わないからだ。
「ロザリア様なんて公爵家で唯一の娘様だからな。それはそれは可愛がってらっしゃるんだわ。多分ロザリア様が望めば、リュシアン様は拳くらいのダイヤだって調達してくる」
「……あのリュシアンが?」
そんなもの無駄だと一刀両断してしまいそうなリュシアンが?
「おう。ドレスだってなぁ、ちょっとでも肌の出てるのが多いと血相変えるからな。お前の美しさは誇りだがなんとかってロザリア様を言いくるめてドレスを着替えさせたことだって何回あるか」
「それは本当に俺の知っているリュシアンなのか」
「おー、公爵家じゃ当然の話だなこれは」
俺の頭の中には常に睨んでくるか冷笑を浮かべているか、それか真顔かのリュシアンしかいない。出てくる言葉だっていつも鋭利な刃物のようだ。
そんな男の口から美しいなんて、人を褒める言葉が出てくるのが信じられなかった。
「蝶よ花よと育てられ、目に入れても痛くないってくらい可愛がってる妹をコケにされたんじゃ、そりゃあお兄ちゃんは大激怒だわな」
「……」
「でもあんたはそれ反省してんだろ?」
やや遅れて頷くと、ゴードンはまた豪快に笑った。
「反省できてるなら大丈夫だ」
懐の深さを感じさせる言葉に下唇を噛んだ。
「どうして、許せるんだ。俺は公爵家の人間を蔑ろにしたのに」
「許す許さねえは俺の問題じゃねえなぁ。そもそも俺はここに来る前のフィル様を知らねえからなんとも言えねぇが」
同じく作業の手を止めたゴードンがこちらを見た。
皺が深く刻まれた目元の奥には、優しい光を湛えた瞳があった。
「あんたは悪い人じゃねえからな。時間は掛かるかもしれねえが、いつかはリュシアン様も優しくなってくれるさ」
それは無理だろうと咄嗟に思ったが、それよりもまた目の奥が熱くなってしまった。
「! おおおい泣くな⁉︎ 泣くなよ! 俺ぁ多分あんたを泣かせたらまずい気がするんだ! 泣くな! 泣き止め!」
大焦りしているゴードンの声が聞こえているのに、目から涙が止まらなかった。
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
3/7 完結しました!
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。