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第二章
可及的速やかな行動
結果からいえば厨房は綺麗になった。
その代償として俺は明日筋肉痛が確実となった。
掃除というものを舐めていた。畑中陽一の記憶があるから、多少は楽ができると思っていたのに、全く違っていた。
彼の記憶では何かを吹き掛けたら汚れはそう苦労もせず取れていた。けれどここは違う。水しかないのだ。だから力技だ。
こんなにも腕を酷使したのは生まれて初めてだった。
「ゴードン、間に合いそうか」
息も切れ切れに問い掛けると。同じように肩で息をしているゴードンが親指を上げた。
「もちろんだぜフィル様……。あとはエルダー様に任せて、俺は仕込みだ」
「そうか、それならよかった」
ほっと息を吐いて表情を緩めた。
エルダーたちの予想通り、今日ここへリュシアンがやってくる。リオルとラナは授業を受けていてこの場にはいないが、代わりにエルダーが見事な手捌きで厨房の中を飾り付けていた。
「すごいな。これなら誰が来ても問題ない」
「お褒めいただき光栄です。フィリアス様にそう言っていただけると自信が持てますな」
「大袈裟だ。でも本当にすごい。フォークナーもきっと俺と同じことを言うと思う」
普段は実用性だけを追求した空間が、今は花や布で飾り立てられて立派な立食会場となっている。
時間がない中、それでもこだわったのだとわかる仕立て具合に素直に感心した。
「うまくいくといいな」
そう呟くと、仕込みを始めているゴードンが俺を見た。
「フィル様もいろよ、立食会」
その言葉に驚くことはなかった。きっとそう言ってくれるだろうと思っていたから。だから俺は予定通り首を横に振った。
「ダメだ。俺は館にいるよ。どの道フォークナーの前じゃ厨房に入れないし」
「あんまり気にしなくてもいい気がするんだけどなぁ、それ」
「ゴードンは領主の言葉を軽く捉えすぎだぞ」
納得がいかない様子のゴードンに笑うと、飾り付けを終えたエルダーが「ごもっとも」と深く頷いた。
「ですが、ゴードンの言うことも一理あります。これに至ってはフィリアス様ではなく、リュシアン様の問題にはなりますが」
意味がわからず首を傾げていると、エルダーが柔らかく笑った。
「今日に至るまで、さまざまなピースがあったはずです。それを繋ぎ合わせると、違った答えが見えてきますぞ」
「……? 謎掛けか?」
「似たようなものです。さて、食事の時間が来る前に一度入浴をしましょう。そのままではいけません」
「ん?」
「ゴードン、あとは頼みましたよ。さあフィリアス様、可及的速やかに館に戻りましょう」
「え、ぁ、待て、待ってくれエルダー。俺は行かないぞ。行かないって言ったからな!」
俺の言葉にエルダーが適当に相槌を打っているのがわかる。
この感じを俺は前にも体験した。エルダーがこうなっている時は、大抵俺にとってよくないことが起こる。できれば逃げたいのに、悲しいかな俺の立場がそれを許してくれない。
その代償として俺は明日筋肉痛が確実となった。
掃除というものを舐めていた。畑中陽一の記憶があるから、多少は楽ができると思っていたのに、全く違っていた。
彼の記憶では何かを吹き掛けたら汚れはそう苦労もせず取れていた。けれどここは違う。水しかないのだ。だから力技だ。
こんなにも腕を酷使したのは生まれて初めてだった。
「ゴードン、間に合いそうか」
息も切れ切れに問い掛けると。同じように肩で息をしているゴードンが親指を上げた。
「もちろんだぜフィル様……。あとはエルダー様に任せて、俺は仕込みだ」
「そうか、それならよかった」
ほっと息を吐いて表情を緩めた。
エルダーたちの予想通り、今日ここへリュシアンがやってくる。リオルとラナは授業を受けていてこの場にはいないが、代わりにエルダーが見事な手捌きで厨房の中を飾り付けていた。
「すごいな。これなら誰が来ても問題ない」
「お褒めいただき光栄です。フィリアス様にそう言っていただけると自信が持てますな」
「大袈裟だ。でも本当にすごい。フォークナーもきっと俺と同じことを言うと思う」
普段は実用性だけを追求した空間が、今は花や布で飾り立てられて立派な立食会場となっている。
時間がない中、それでもこだわったのだとわかる仕立て具合に素直に感心した。
「うまくいくといいな」
そう呟くと、仕込みを始めているゴードンが俺を見た。
「フィル様もいろよ、立食会」
その言葉に驚くことはなかった。きっとそう言ってくれるだろうと思っていたから。だから俺は予定通り首を横に振った。
「ダメだ。俺は館にいるよ。どの道フォークナーの前じゃ厨房に入れないし」
「あんまり気にしなくてもいい気がするんだけどなぁ、それ」
「ゴードンは領主の言葉を軽く捉えすぎだぞ」
納得がいかない様子のゴードンに笑うと、飾り付けを終えたエルダーが「ごもっとも」と深く頷いた。
「ですが、ゴードンの言うことも一理あります。これに至ってはフィリアス様ではなく、リュシアン様の問題にはなりますが」
意味がわからず首を傾げていると、エルダーが柔らかく笑った。
「今日に至るまで、さまざまなピースがあったはずです。それを繋ぎ合わせると、違った答えが見えてきますぞ」
「……? 謎掛けか?」
「似たようなものです。さて、食事の時間が来る前に一度入浴をしましょう。そのままではいけません」
「ん?」
「ゴードン、あとは頼みましたよ。さあフィリアス様、可及的速やかに館に戻りましょう」
「え、ぁ、待て、待ってくれエルダー。俺は行かないぞ。行かないって言ったからな!」
俺の言葉にエルダーが適当に相槌を打っているのがわかる。
この感じを俺は前にも体験した。エルダーがこうなっている時は、大抵俺にとってよくないことが起こる。できれば逃げたいのに、悲しいかな俺の立場がそれを許してくれない。
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