【完結】婚約破棄を言い渡した王子は悪役令嬢の兄に執着される

白(しろ)

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第三章

米を炊く

 東にあるアサヒの国からの食材が届けられたのは、それから程なくのことだった。
 厨房のテーブルに並べられた食材を見て、俺とゴードンは静かに気分を高揚させていた。
 ゴードンは料理人としての好奇心から、俺は畑中陽一の記憶で見た食材がそのまま目の前にあることへの興奮だった。

「うおおお……っ、すげえ、これなんだ、木か⁉︎」
「待てゴードン、それは魚を乾燥させたものらしい」
「魚⁉︎ これが⁉︎ 下手すりゃ鈍器だぞ!」
「これはキノコらしい」
「キノコ! この石がか⁉︎」
「それでこれはフルーツだ」
「これが⁉︎」

 アサヒの国から渡された、各材料の説明が書かれた紙を読む。
 ゴードンの疑問に答えるように口にだすおかげか、いつもより内容が早く頭に浸透していくようだった。

「はー……ダシねぇ。俺らでいう野菜の皮煮出すみたいなもんか」
「それに近いんじゃないか? 全くわからないが」
「とりあえず考えるよりも動いた方が早えな。なんか作ってみますか、フィル様」
「わかった」
「フィリアス様は刃物も火器も厳禁です」

 厳しいゴードンの言葉に苦笑する。あの夜の庭園での話以来、俺には本格的な禁止令が出てしまった。なんとか皿洗いはできるけれど、その際はエルダーに念入りに手に軟膏を塗られるようになってしまった。
 おかげで俺の手は以前と同じような滑らかさを取り戻しつつある。

「男なんだから傷の一つや二ついいじゃんかよ。なあフィル様」
「ゴードン、あなたが良くともリュシアン様がお許しになりませんぞ」
「リュシアンは本当に心配性だな」
「おう、それに過保護だ」

 ぎろりとエルダーがゴードンを睨み、そそくさと調理の準備を始める。どんな風に調理するのか見たくてゴードンの後ろに行くと、後ろからエルダーの咳払いが聞こえた。

「大丈夫、ここなら怪我しない」

 どうやらリュシアンは俺が怪我をすることがとても嫌らしい。
 確かに監視対象といっても王族だから、血が一滴でも垂れるとまずいのかもしれない。

「えーっと、まずどれからやりゃいいんだ?」
「ゴードン、いいだろうか。やってほしいものがあるんだ」
「お! なんだなんだいつでもいいぜ」

 新しいおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせているゴードンに思わず笑みが浮かぶ。自分よりずっと年上なんだというのを忘れさせてくれる気さくさが嬉しいなと思った。

「コメをな、炊いてみてほしいんだ」
「おお? どれだ」

 不思議そうな顔をしているゴードンに、テーブルから米を取ってくる。親切に炊き方まで書かれている紙があるからか、それを読みかせるとゴードンは「わかった」と胸を叩いた。
 頭の中には畑中陽一が米を炊いている姿があるけれど、彼が使っているのは何やらよくわからない箱だ。あの世界には、俺の頭では理解できないものが多すぎる。
 だがさすが料理人であるゴードンには勝手がわかったらしい。

「──よし、開けるぜ」
「ああ」

 あれから少し時間が経ち、米が炊き上がったようだ。
 鍋の蓋を持つゴードンの手が緊張で震えている。けれどそれは俺も同じだ。ゴードンが指に力を入れ、そっと蓋を開く。
 途端に立ち上る湯気と広がるほのかな甘い香りに目を丸くした。

「おお、これがコメか……!」
「ほおこれはなかなか、光沢のある食材ですな」
「で、フィル様。これをどうすんだ?」

 ゴードンの問いに俺は頷いた。

「握ろうと思う」

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