50 / 141
第三章
米を炊く
東にあるアサヒの国からの食材が届けられたのは、それから程なくのことだった。
厨房のテーブルに並べられた食材を見て、俺とゴードンは静かに気分を高揚させていた。
ゴードンは料理人としての好奇心から、俺は畑中陽一の記憶で見た食材がそのまま目の前にあることへの興奮だった。
「うおおお……っ、すげえ、これなんだ、木か⁉︎」
「待てゴードン、それは魚を乾燥させたものらしい」
「魚⁉︎ これが⁉︎ 下手すりゃ鈍器だぞ!」
「これはキノコらしい」
「キノコ! この石がか⁉︎」
「それでこれはフルーツだ」
「これが⁉︎」
アサヒの国から渡された、各材料の説明が書かれた紙を読む。
ゴードンの疑問に答えるように口にだすおかげか、いつもより内容が早く頭に浸透していくようだった。
「はー……ダシねぇ。俺らでいう野菜の皮煮出すみたいなもんか」
「それに近いんじゃないか? 全くわからないが」
「とりあえず考えるよりも動いた方が早えな。なんか作ってみますか、フィル様」
「わかった」
「フィリアス様は刃物も火器も厳禁です」
厳しいゴードンの言葉に苦笑する。あの夜の庭園での話以来、俺には本格的な禁止令が出てしまった。なんとか皿洗いはできるけれど、その際はエルダーに念入りに手に軟膏を塗られるようになってしまった。
おかげで俺の手は以前と同じような滑らかさを取り戻しつつある。
「男なんだから傷の一つや二ついいじゃんかよ。なあフィル様」
「ゴードン、あなたが良くともリュシアン様がお許しになりませんぞ」
「リュシアンは本当に心配性だな」
「おう、それに過保護だ」
ぎろりとエルダーがゴードンを睨み、そそくさと調理の準備を始める。どんな風に調理するのか見たくてゴードンの後ろに行くと、後ろからエルダーの咳払いが聞こえた。
「大丈夫、ここなら怪我しない」
どうやらリュシアンは俺が怪我をすることがとても嫌らしい。
確かに監視対象といっても王族だから、血が一滴でも垂れるとまずいのかもしれない。
「えーっと、まずどれからやりゃいいんだ?」
「ゴードン、いいだろうか。やってほしいものがあるんだ」
「お! なんだなんだいつでもいいぜ」
新しいおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせているゴードンに思わず笑みが浮かぶ。自分よりずっと年上なんだというのを忘れさせてくれる気さくさが嬉しいなと思った。
「コメをな、炊いてみてほしいんだ」
「おお? どれだ」
不思議そうな顔をしているゴードンに、テーブルから米を取ってくる。親切に炊き方まで書かれている紙があるからか、それを読みかせるとゴードンは「わかった」と胸を叩いた。
頭の中には畑中陽一が米を炊いている姿があるけれど、彼が使っているのは何やらよくわからない箱だ。あの世界には、俺の頭では理解できないものが多すぎる。
だがさすが料理人であるゴードンには勝手がわかったらしい。
「──よし、開けるぜ」
「ああ」
あれから少し時間が経ち、米が炊き上がったようだ。
鍋の蓋を持つゴードンの手が緊張で震えている。けれどそれは俺も同じだ。ゴードンが指に力を入れ、そっと蓋を開く。
途端に立ち上る湯気と広がるほのかな甘い香りに目を丸くした。
「おお、これがコメか……!」
「ほおこれはなかなか、光沢のある食材ですな」
「で、フィル様。これをどうすんだ?」
ゴードンの問いに俺は頷いた。
「握ろうと思う」
厨房のテーブルに並べられた食材を見て、俺とゴードンは静かに気分を高揚させていた。
ゴードンは料理人としての好奇心から、俺は畑中陽一の記憶で見た食材がそのまま目の前にあることへの興奮だった。
「うおおお……っ、すげえ、これなんだ、木か⁉︎」
「待てゴードン、それは魚を乾燥させたものらしい」
「魚⁉︎ これが⁉︎ 下手すりゃ鈍器だぞ!」
「これはキノコらしい」
「キノコ! この石がか⁉︎」
「それでこれはフルーツだ」
「これが⁉︎」
アサヒの国から渡された、各材料の説明が書かれた紙を読む。
ゴードンの疑問に答えるように口にだすおかげか、いつもより内容が早く頭に浸透していくようだった。
「はー……ダシねぇ。俺らでいう野菜の皮煮出すみたいなもんか」
「それに近いんじゃないか? 全くわからないが」
「とりあえず考えるよりも動いた方が早えな。なんか作ってみますか、フィル様」
「わかった」
「フィリアス様は刃物も火器も厳禁です」
厳しいゴードンの言葉に苦笑する。あの夜の庭園での話以来、俺には本格的な禁止令が出てしまった。なんとか皿洗いはできるけれど、その際はエルダーに念入りに手に軟膏を塗られるようになってしまった。
おかげで俺の手は以前と同じような滑らかさを取り戻しつつある。
「男なんだから傷の一つや二ついいじゃんかよ。なあフィル様」
「ゴードン、あなたが良くともリュシアン様がお許しになりませんぞ」
「リュシアンは本当に心配性だな」
「おう、それに過保護だ」
ぎろりとエルダーがゴードンを睨み、そそくさと調理の準備を始める。どんな風に調理するのか見たくてゴードンの後ろに行くと、後ろからエルダーの咳払いが聞こえた。
「大丈夫、ここなら怪我しない」
どうやらリュシアンは俺が怪我をすることがとても嫌らしい。
確かに監視対象といっても王族だから、血が一滴でも垂れるとまずいのかもしれない。
「えーっと、まずどれからやりゃいいんだ?」
「ゴードン、いいだろうか。やってほしいものがあるんだ」
「お! なんだなんだいつでもいいぜ」
新しいおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせているゴードンに思わず笑みが浮かぶ。自分よりずっと年上なんだというのを忘れさせてくれる気さくさが嬉しいなと思った。
「コメをな、炊いてみてほしいんだ」
「おお? どれだ」
不思議そうな顔をしているゴードンに、テーブルから米を取ってくる。親切に炊き方まで書かれている紙があるからか、それを読みかせるとゴードンは「わかった」と胸を叩いた。
頭の中には畑中陽一が米を炊いている姿があるけれど、彼が使っているのは何やらよくわからない箱だ。あの世界には、俺の頭では理解できないものが多すぎる。
だがさすが料理人であるゴードンには勝手がわかったらしい。
「──よし、開けるぜ」
「ああ」
あれから少し時間が経ち、米が炊き上がったようだ。
鍋の蓋を持つゴードンの手が緊張で震えている。けれどそれは俺も同じだ。ゴードンが指に力を入れ、そっと蓋を開く。
途端に立ち上る湯気と広がるほのかな甘い香りに目を丸くした。
「おお、これがコメか……!」
「ほおこれはなかなか、光沢のある食材ですな」
「で、フィル様。これをどうすんだ?」
ゴードンの問いに俺は頷いた。
「握ろうと思う」
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
3/7 完結しました!
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います