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第六章
感情が暴れだす
「ゴードンとはなんのお話を?」
「、あー……、その、なんでも」
「リュシアン様のことですかな?」
そう問いかけられた時、ちょうど裏口の扉が閉まった。風が吹いて木々が揺れ、葉の擦れ合う音がする。
振り返ったエルダーの表情は読めなくて、けれど漂う緊張感に思わず足を止めた。
「嘘が吐けないお方ですね。……どこで誰が聞いているやもわかりません。あまり、リュシアン様のことはお話しされない方がよろしいかと」
「……エルダーにもか?」
「館の中で、私にだけなら問題ないでしょう。けれどそれ以外はお控えを」
「どうして、と聞いてもいいのか」
その問いにエルダーは黙り、また前を向いて歩きだす。
もしかしたら館に着けば何か話してくれるかもしれないと思い足を前に動かし、無言のまま館に入り扉が閉まった。
エルダーはまだ無言だ。もしかして何も話すつもりはないのかもしれないと思い、少しばかり気落ちしそうになった時前方から溜息が聞こえた。
「フィリアス様は、素直な方ですからな……」
「? そ、その、すまない?」
「いいのです。そこがあなた様の素晴らしいところなのです。ですが、ううん」
エルダーが額に手を添えて俯き、心から難しそうに唸った。
「……失礼を承知で申し上げるのであれば、フィリアス様は貴族らしくないのです」
「む、向いていないとは思っている」
「そういうことです」
「?」
何がなんだかさっぱりわからない。けれどエルダーは満足したように頷いているし、もうその雰囲気から話は終わったのだと察することもできてしまった。
俺が貴族に向いていないから、話せないことがある?
一応自分の中でそう結論付けたもののすっきりはしていない。自分の中でそれが答えだと結び付いていないからだ。
けれどこれ以上食い下がってもエルダーは何も答えてくれない気がした。
「俺が貴族らしかったら、話してくれたのか?」
少し離れたエルダーの背中に問い掛けると、彼は立ち止まって俺を見た。表情は先程外で見た時よりもずっと穏やかで、笑みすら浮かべているように思う。
「フィリアス様が貴族らしかったなら、リュシアン様はあのように訪れはしません」
その言葉の真意はわからない。決定的なことを全て避けて答えているから。けれどそれが悪い意味とはとても思えなくて目を丸くしていると、エルダーが「おっと」と軽く咳払いした。
「失礼。独り言です。独り言。いけませんな、歳を取ると独り言が多くて」
髭を撫でつつ、けれどもどこか楽しそうな雰囲気に胸の内にあった不安が溶けていくような感覚がした。
エルダーは再び軽く咳払いをする。
「さて本日でございますが、夜はいつも通りリュシアン様とお食事となっております」
「ああ、わかった」
リュシアンとの食事だけは毎日欠かさず行っている。
随分と偏食も治って、もう食べられないメニューはないのではと思う程だ。初めてリュシアンが肉料理を完食した時も本当は手放しに喜びたかったが、空気がそれを許さなかった。
この冷たい空気も、一体いつまで続くのだろうか。
リュシアンが俺を気に掛けてくれているのはわかっているけれど、あの空気と視線の冷たさはなかなか辛いものがある。
会えるのは嬉しいけれど、辛さが増すという矛盾が苦しい。
前のように笑って食事をしたい。けれど何も知らされていない今、俺はただこの状況を耐えるしかないのだろう。
「それと」
一度言葉が区切られて心臓が跳ねる。
「独り言ですが、お部屋の鍵は掛けずにおられた方がよろしいかと」
「……わかった」
苦しいと嬉しいが同時に胸の中で暴れだす。
会えるだけで嬉しいと、触ってもらえるだけで満足だと思っていたのに、回数が増えるたびにどんどん欲深くなっていく。
食事の最中も気を抜くと「どうして何も教えてくれないんだ」と言ってしまいそうになる。
だがそれを言ってしまえば、リュシアンを困らせることになるとわかっていた。
今きっとこの屋敷の内部で何かが起きている。
けれどそれを部外者であり公爵家を辱めた俺に話すわけにはいかない。俺が首を突っ込んでいい話ではないとわかっている。
それでも何もわからないまま、リュシアンに対する気持ちが膨らむこの状況だけは苦しい。何か一つでもいいから答えがほしい。そう思った。
「、あー……、その、なんでも」
「リュシアン様のことですかな?」
そう問いかけられた時、ちょうど裏口の扉が閉まった。風が吹いて木々が揺れ、葉の擦れ合う音がする。
振り返ったエルダーの表情は読めなくて、けれど漂う緊張感に思わず足を止めた。
「嘘が吐けないお方ですね。……どこで誰が聞いているやもわかりません。あまり、リュシアン様のことはお話しされない方がよろしいかと」
「……エルダーにもか?」
「館の中で、私にだけなら問題ないでしょう。けれどそれ以外はお控えを」
「どうして、と聞いてもいいのか」
その問いにエルダーは黙り、また前を向いて歩きだす。
もしかしたら館に着けば何か話してくれるかもしれないと思い足を前に動かし、無言のまま館に入り扉が閉まった。
エルダーはまだ無言だ。もしかして何も話すつもりはないのかもしれないと思い、少しばかり気落ちしそうになった時前方から溜息が聞こえた。
「フィリアス様は、素直な方ですからな……」
「? そ、その、すまない?」
「いいのです。そこがあなた様の素晴らしいところなのです。ですが、ううん」
エルダーが額に手を添えて俯き、心から難しそうに唸った。
「……失礼を承知で申し上げるのであれば、フィリアス様は貴族らしくないのです」
「む、向いていないとは思っている」
「そういうことです」
「?」
何がなんだかさっぱりわからない。けれどエルダーは満足したように頷いているし、もうその雰囲気から話は終わったのだと察することもできてしまった。
俺が貴族に向いていないから、話せないことがある?
一応自分の中でそう結論付けたもののすっきりはしていない。自分の中でそれが答えだと結び付いていないからだ。
けれどこれ以上食い下がってもエルダーは何も答えてくれない気がした。
「俺が貴族らしかったら、話してくれたのか?」
少し離れたエルダーの背中に問い掛けると、彼は立ち止まって俺を見た。表情は先程外で見た時よりもずっと穏やかで、笑みすら浮かべているように思う。
「フィリアス様が貴族らしかったなら、リュシアン様はあのように訪れはしません」
その言葉の真意はわからない。決定的なことを全て避けて答えているから。けれどそれが悪い意味とはとても思えなくて目を丸くしていると、エルダーが「おっと」と軽く咳払いした。
「失礼。独り言です。独り言。いけませんな、歳を取ると独り言が多くて」
髭を撫でつつ、けれどもどこか楽しそうな雰囲気に胸の内にあった不安が溶けていくような感覚がした。
エルダーは再び軽く咳払いをする。
「さて本日でございますが、夜はいつも通りリュシアン様とお食事となっております」
「ああ、わかった」
リュシアンとの食事だけは毎日欠かさず行っている。
随分と偏食も治って、もう食べられないメニューはないのではと思う程だ。初めてリュシアンが肉料理を完食した時も本当は手放しに喜びたかったが、空気がそれを許さなかった。
この冷たい空気も、一体いつまで続くのだろうか。
リュシアンが俺を気に掛けてくれているのはわかっているけれど、あの空気と視線の冷たさはなかなか辛いものがある。
会えるのは嬉しいけれど、辛さが増すという矛盾が苦しい。
前のように笑って食事をしたい。けれど何も知らされていない今、俺はただこの状況を耐えるしかないのだろう。
「それと」
一度言葉が区切られて心臓が跳ねる。
「独り言ですが、お部屋の鍵は掛けずにおられた方がよろしいかと」
「……わかった」
苦しいと嬉しいが同時に胸の中で暴れだす。
会えるだけで嬉しいと、触ってもらえるだけで満足だと思っていたのに、回数が増えるたびにどんどん欲深くなっていく。
食事の最中も気を抜くと「どうして何も教えてくれないんだ」と言ってしまいそうになる。
だがそれを言ってしまえば、リュシアンを困らせることになるとわかっていた。
今きっとこの屋敷の内部で何かが起きている。
けれどそれを部外者であり公爵家を辱めた俺に話すわけにはいかない。俺が首を突っ込んでいい話ではないとわかっている。
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