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第二部 絆ぐ伝説
第七話二三章 新しき王
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〝賢者〟たちの住み処であった天界。
その一角で、ロウワンに抱きかかえられながら、ルドヴィクスは最後の時を過ごしていた。
「〝賢者〟を倒したのはあなただ、ルドヴィクス卿。見事な武勲だった。あなたはローラシアを、この世界そのものを救った英雄だ」
すでに冷えきったルドヴィクスの体を抱きかかえながら、ロウワンは優しく語りかけた。その横に立つ野伏もまた、真摯な眼差しをルドヴィクスに向けながら静かにうなずいた。
「ははは……」
ルドヴィクスは弱々しく笑った。それは、かの人の生涯、最後の笑いだった。
「……英雄、か。柄じゃないな。おれはそんな立派な人間じゃない。ただのボンボンなんだよ。貴族の家に生まれ、奴隷たちを鞭打ち、やりたい放題やって、女にモテるために軍事訓練の真似事をしていただけの、本当にただのボンボンなんだよ」
「……ルドヴィクス卿」
「英雄とか、勇者とか、そんな風に呼ばれるような大層な人間じゃない。でも、ロウワン卿。そんなおれでも今回ばかりは意地を張ったんだ。あなたの言葉のおかげで」
「おれの言葉?」
「覚えているか? メルクリウスの乱のとき、叫んだだろう。『脅されて言うことを聞いていれば一生、脅される! 自分の未来を守りたければ、いくら脅しても無駄だという気概を見せつけろ!』って、そう言っただろう?」
「ああ、覚えている。おれはたしかにそう言った」
「その言葉が支えだったんだ。おれの親や弟、妹たち。おれの家族が脅されながら生きる必要のないようにって、それだけだったんだ。おれは家族のために意地を張ったんだ。ローラシアとか、世界とか、そんな大層なもののためじゃない」
「それで、いいんだ」
ロウワンは心からの思いを込めてそう語りかけた。
「誰もが自分の身近な人たちを守る。それがつながることで、この世界は守られていくんだ」
「……はは。そうだな。おれは家族のために〝賢者〟たちと戦った。そして、〝賢者〟たちを倒した。これでもう、おれの家族は脅されながら生きる必要はなくなった。そうだよな?」
「そうだ。その通りだ、ルドヴィクス卿。誰かに脅されて生きるなんてそんな世界、決して来ない。おれたちが絶対に来させない」
「それでこそ、だ。ロウワン卿。それでこそ、おれも死ぬ甲斐がある。ロウワン卿。おれの家族を……どうか、頼む」
「……わかった」
その言葉を聞いて――。
ルドヴィクスは目を閉じた。その表情は穏やかだったが、
ふいに、ルドヴィクスの目が見開いた。その表情が恐怖に歪んだ。
「いやだ! 死にたくない! おれは消え去りたくなんかない! 誰を犠牲にしても生きて、この世にいたいんだ!」
それは、物語のなかの勇者や英雄たちとはちがう、血の通った生身の人間の生々しい叫び。しかし、その叫びを聞いてもロウワンにも、野伏にも、どうすることもできない。ロウワンにできることはただひとつ、ルドヴィクスを抱きしめ、寄り添うことだけ。唇を噛みしめ、涙を流しながらただただルドヴィクスの体を抱きしめていた。その横では野伏が目を閉じて、黙祷を捧げていた。
……それから、どれぐらいの時が立っただろう。ふいに、その場に似つかわしくない脳天気なほどの声がした。
「なんだ。もう全部、終わってるのか。せっかく、切り札を用意して戻ってきたのに」
「行者……」
そこにいたのは、血のように紅い唇にあるかなしかのかすかな微笑みを湛えた、なまめかしい少年、空狩りの行者だった。
行者の声も、言葉も、ルドヴィクスの死んだばかりのこの場所においては不謹慎なものだったろう。しかし、ロウワンにとってはこの際、この脳天気さが救いだった。
「切り札、とは?」
野伏が尋ねた。
行者は右手の手のひらを開いて見せた。
「これだよ」
そう言う行者の手のひらの上。そこには、ひとつの小さなキノコがあった。
「キノコ?」
「ただのキノコではないよ。木に寄生するキノコだ。そのキノコに、僕とメリッサで少々、細工を施してね。強烈な寄生種に作り替えたんだ」
行者は、そう言ってから片目をつぶって、笑いかけた。
「あ、メリッサは無事だよ。心配しないで。ちゃんと、無傷のまま〝ブレスト〟に預けてきたからね」
手は出していないから心配しないで、と、行者はわざわざ付け加えた。この雰囲気のなかでそんな軽口をたたけるところが、行者という存在の貴重な点だった。
行者はロウワンにそう告げてから、世界樹に近づいた。ロウワンによって根元を斬り落とされ、天界の床に転がっている世界樹へと。
その場にしゃがみ込み、幹と斬りわけられた根にそっと手をふれる。そして、納得したような表情をした。
「思った通りだ。根はまだ生きているね。このままだと、この根から新しい芽を伸ばしかねない」
「なんだって⁉ 〝賢者〟たちが蘇るって言うのか⁉ そんなことをさせるわけにはいかない。なんとしても、防がないと……」
もし、〝賢者〟たちが蘇ることになったら、ルドヴィクスはいったい、なんのために死んだのか。
ルドヴィクスの死を無意味なものにすることは、ロウワンには耐えられなかった。
行者はいつも通りの、脳天気なほどの軽やかな口調で言った。
「そのための、これだよ」
と、斬りわけられた根の上に、もってきたキノコを置いた。すると――。
「うわっ!」
ロウワンが思わず声をあげて後ずさるほどの勢いで、キノコが爆発的に成長をはじめた。増えはじめた。手のひらにおさまる程度の小さなキノコだったのに、たちまち一家族がそのなかで快適に暮らせそうなほどの巨大なキノコになった。しかも、そのまわりから次からつぎへと新しいキノコをはやし、天界のいたるところをキノコに森にかえていく。
「これは……」
さしもの野伏がそう言ったきり、口を閉ざしたほどの、それはすさまじい光景だった。
ニコリ、と、行者が笑った。それは、自分のイタズラのネタを自慢するイタズラッ子の表情そのものだった。
「僕とメリッサで細工をしたと言ったろう? 寄生キノコの『木に寄生する』という天命に手を加えてね。寄生した木のすべてを吸い尽くして自分の養分にかえ、爆発的に繁殖する寄生種にしたんだ。このキノコが〝賢者〟たちの木に蓄えられた千年の妄執のすべてを吸い取り、浄化してくれる。あ、〝賢者〟たちの妄執がこのキノコに乗り移って蘇る……なんていう心配はしなくていいよ。僕もメリッサも、その可能性を見落とすほど間抜けではないからね」
行者がそう言っている間にもキノコたちはどんどん増えていく。やがて、天界のいたるところがキノコに覆われた。数百年にわたって〝賢者〟たちの潜みつづけたその空間はいま、キノコの楽園となったのだ。
〝賢者〟たちの死によって、化け物たちは統制を失った。生きとし生けるものを求めて歩きつづける化け物ではなく、なにをしていいかもわからずにその場に立ち尽くす木偶人形の群れに過ぎなくなった。
数としてはなお数万の個体がいたので、すべてを狩り尽くすのには相応の時間がかかる。それでも、それはもはや『戦闘』ではなく、単なる『作業』。命の危険のない時間の問題に過ぎなかった。
〝ブレスト〟、プリンス、ボーラ、ヴァレリ。それらの指揮官たちによって掃討作戦が行われるなか、ロウワンはルドヴィクスの遺体をもって、野戦病院を訪れていた。ルドヴィクスの妹セシリアに、兄の遺体を返すために。
「……ルドヴィクス兄さま」
兄の遺体を目の当たりにしても、セシリアは取り乱すどころか、うろたえる素振りさえ見せなかった。静かに、淡々と、『兄の死』という現実に向き合っていた。あるいは、それは、心のなかであまりにも多くの感情が渦巻いているせいで、心が麻痺してしまい、静かに見えていただけかも知れない。
「ごめん、セシル」
いまだにセシリアを少年と信じているロウワンは、男装の少女に向かって男性名で呼びかけた。
「おれが至らないばかりに、君の大切な兄上をふたりも死なせてしまった。本当にごめん」
そう言って、頭をさげる。だが――。
セシリアの態度はあくまでも毅然としていた。キッ、と、力のこもった視線でロウワンを見据えた。
「謝らないでください。ルドヴィクス兄さまも、アルバート兄さまも、騎士として、ローラシアの軍人として、己の使命と矜持とに殉じたのです。それを謝るなど、ふたりの覚悟に対する侮辱というものです」
そう言われて、ロウワンはすっと頬を赤くした。恥じ入ったための赤面だった。
「たしかに、そうだ。すまない」
ロウワンは改めてセシリアに頭をさげた。
セシリアはルドヴィクスの遺体に近づいた。腹に大穴を開け、もう動くことも、話すこともない、硬直し、冷え切ったその体へと。
「……ルドヴィクス兄さま」
そう言いながら、その胸にそっと手を置いた。
「どうか、安心してお眠りください。ライン公国は滅びません。わたしが新しい大公となって蘇らせます」
「大公? 君が?」
ロウワンはさすがに驚いて目を丸くした。
セシリアは覚悟を決めた表情でうなずいた。
「そうです。誰もが自分の望む暮らしを作れる世界。それが、都市網社会でしたね」
「そう。その通りだ」
「だったら、わたしが王となり、国を興してもいいはずです。〝ブレスト〟提督から多くのことを教わりました。いまも、この世界のいたるところで多くの女性たちが苦しんでいると。理不尽な暴力と権力によって、人としてあるまじき生を強いられていると。だから、わたしはそんな女性たちが安心して暮らせる国を作ります。新しい大公となって『安心の国ライン』を作りあげます」
「よく言った」
セシリアのその覚悟に――。
ロウワンは力強くうなずいた。
「君の言うとおりだ。誰もが自分の望む暮らしを作りあげることができる。誰もが自らの国を作り、王となれる。それが、都市網社会。君にその覚悟があるのなら、君はすでに王だ。その覚悟をもって、王としてこの世界に起つことだ。君の望む未来は、君自身の手で作るんだ」
「はい」
ロウワンの言葉に、セシリアは力の限りにうなずいた。
またひとり。
未来を担う若き王が、ここに生まれた。
その一角で、ロウワンに抱きかかえられながら、ルドヴィクスは最後の時を過ごしていた。
「〝賢者〟を倒したのはあなただ、ルドヴィクス卿。見事な武勲だった。あなたはローラシアを、この世界そのものを救った英雄だ」
すでに冷えきったルドヴィクスの体を抱きかかえながら、ロウワンは優しく語りかけた。その横に立つ野伏もまた、真摯な眼差しをルドヴィクスに向けながら静かにうなずいた。
「ははは……」
ルドヴィクスは弱々しく笑った。それは、かの人の生涯、最後の笑いだった。
「……英雄、か。柄じゃないな。おれはそんな立派な人間じゃない。ただのボンボンなんだよ。貴族の家に生まれ、奴隷たちを鞭打ち、やりたい放題やって、女にモテるために軍事訓練の真似事をしていただけの、本当にただのボンボンなんだよ」
「……ルドヴィクス卿」
「英雄とか、勇者とか、そんな風に呼ばれるような大層な人間じゃない。でも、ロウワン卿。そんなおれでも今回ばかりは意地を張ったんだ。あなたの言葉のおかげで」
「おれの言葉?」
「覚えているか? メルクリウスの乱のとき、叫んだだろう。『脅されて言うことを聞いていれば一生、脅される! 自分の未来を守りたければ、いくら脅しても無駄だという気概を見せつけろ!』って、そう言っただろう?」
「ああ、覚えている。おれはたしかにそう言った」
「その言葉が支えだったんだ。おれの親や弟、妹たち。おれの家族が脅されながら生きる必要のないようにって、それだけだったんだ。おれは家族のために意地を張ったんだ。ローラシアとか、世界とか、そんな大層なもののためじゃない」
「それで、いいんだ」
ロウワンは心からの思いを込めてそう語りかけた。
「誰もが自分の身近な人たちを守る。それがつながることで、この世界は守られていくんだ」
「……はは。そうだな。おれは家族のために〝賢者〟たちと戦った。そして、〝賢者〟たちを倒した。これでもう、おれの家族は脅されながら生きる必要はなくなった。そうだよな?」
「そうだ。その通りだ、ルドヴィクス卿。誰かに脅されて生きるなんてそんな世界、決して来ない。おれたちが絶対に来させない」
「それでこそ、だ。ロウワン卿。それでこそ、おれも死ぬ甲斐がある。ロウワン卿。おれの家族を……どうか、頼む」
「……わかった」
その言葉を聞いて――。
ルドヴィクスは目を閉じた。その表情は穏やかだったが、
ふいに、ルドヴィクスの目が見開いた。その表情が恐怖に歪んだ。
「いやだ! 死にたくない! おれは消え去りたくなんかない! 誰を犠牲にしても生きて、この世にいたいんだ!」
それは、物語のなかの勇者や英雄たちとはちがう、血の通った生身の人間の生々しい叫び。しかし、その叫びを聞いてもロウワンにも、野伏にも、どうすることもできない。ロウワンにできることはただひとつ、ルドヴィクスを抱きしめ、寄り添うことだけ。唇を噛みしめ、涙を流しながらただただルドヴィクスの体を抱きしめていた。その横では野伏が目を閉じて、黙祷を捧げていた。
……それから、どれぐらいの時が立っただろう。ふいに、その場に似つかわしくない脳天気なほどの声がした。
「なんだ。もう全部、終わってるのか。せっかく、切り札を用意して戻ってきたのに」
「行者……」
そこにいたのは、血のように紅い唇にあるかなしかのかすかな微笑みを湛えた、なまめかしい少年、空狩りの行者だった。
行者の声も、言葉も、ルドヴィクスの死んだばかりのこの場所においては不謹慎なものだったろう。しかし、ロウワンにとってはこの際、この脳天気さが救いだった。
「切り札、とは?」
野伏が尋ねた。
行者は右手の手のひらを開いて見せた。
「これだよ」
そう言う行者の手のひらの上。そこには、ひとつの小さなキノコがあった。
「キノコ?」
「ただのキノコではないよ。木に寄生するキノコだ。そのキノコに、僕とメリッサで少々、細工を施してね。強烈な寄生種に作り替えたんだ」
行者は、そう言ってから片目をつぶって、笑いかけた。
「あ、メリッサは無事だよ。心配しないで。ちゃんと、無傷のまま〝ブレスト〟に預けてきたからね」
手は出していないから心配しないで、と、行者はわざわざ付け加えた。この雰囲気のなかでそんな軽口をたたけるところが、行者という存在の貴重な点だった。
行者はロウワンにそう告げてから、世界樹に近づいた。ロウワンによって根元を斬り落とされ、天界の床に転がっている世界樹へと。
その場にしゃがみ込み、幹と斬りわけられた根にそっと手をふれる。そして、納得したような表情をした。
「思った通りだ。根はまだ生きているね。このままだと、この根から新しい芽を伸ばしかねない」
「なんだって⁉ 〝賢者〟たちが蘇るって言うのか⁉ そんなことをさせるわけにはいかない。なんとしても、防がないと……」
もし、〝賢者〟たちが蘇ることになったら、ルドヴィクスはいったい、なんのために死んだのか。
ルドヴィクスの死を無意味なものにすることは、ロウワンには耐えられなかった。
行者はいつも通りの、脳天気なほどの軽やかな口調で言った。
「そのための、これだよ」
と、斬りわけられた根の上に、もってきたキノコを置いた。すると――。
「うわっ!」
ロウワンが思わず声をあげて後ずさるほどの勢いで、キノコが爆発的に成長をはじめた。増えはじめた。手のひらにおさまる程度の小さなキノコだったのに、たちまち一家族がそのなかで快適に暮らせそうなほどの巨大なキノコになった。しかも、そのまわりから次からつぎへと新しいキノコをはやし、天界のいたるところをキノコに森にかえていく。
「これは……」
さしもの野伏がそう言ったきり、口を閉ざしたほどの、それはすさまじい光景だった。
ニコリ、と、行者が笑った。それは、自分のイタズラのネタを自慢するイタズラッ子の表情そのものだった。
「僕とメリッサで細工をしたと言ったろう? 寄生キノコの『木に寄生する』という天命に手を加えてね。寄生した木のすべてを吸い尽くして自分の養分にかえ、爆発的に繁殖する寄生種にしたんだ。このキノコが〝賢者〟たちの木に蓄えられた千年の妄執のすべてを吸い取り、浄化してくれる。あ、〝賢者〟たちの妄執がこのキノコに乗り移って蘇る……なんていう心配はしなくていいよ。僕もメリッサも、その可能性を見落とすほど間抜けではないからね」
行者がそう言っている間にもキノコたちはどんどん増えていく。やがて、天界のいたるところがキノコに覆われた。数百年にわたって〝賢者〟たちの潜みつづけたその空間はいま、キノコの楽園となったのだ。
〝賢者〟たちの死によって、化け物たちは統制を失った。生きとし生けるものを求めて歩きつづける化け物ではなく、なにをしていいかもわからずにその場に立ち尽くす木偶人形の群れに過ぎなくなった。
数としてはなお数万の個体がいたので、すべてを狩り尽くすのには相応の時間がかかる。それでも、それはもはや『戦闘』ではなく、単なる『作業』。命の危険のない時間の問題に過ぎなかった。
〝ブレスト〟、プリンス、ボーラ、ヴァレリ。それらの指揮官たちによって掃討作戦が行われるなか、ロウワンはルドヴィクスの遺体をもって、野戦病院を訪れていた。ルドヴィクスの妹セシリアに、兄の遺体を返すために。
「……ルドヴィクス兄さま」
兄の遺体を目の当たりにしても、セシリアは取り乱すどころか、うろたえる素振りさえ見せなかった。静かに、淡々と、『兄の死』という現実に向き合っていた。あるいは、それは、心のなかであまりにも多くの感情が渦巻いているせいで、心が麻痺してしまい、静かに見えていただけかも知れない。
「ごめん、セシル」
いまだにセシリアを少年と信じているロウワンは、男装の少女に向かって男性名で呼びかけた。
「おれが至らないばかりに、君の大切な兄上をふたりも死なせてしまった。本当にごめん」
そう言って、頭をさげる。だが――。
セシリアの態度はあくまでも毅然としていた。キッ、と、力のこもった視線でロウワンを見据えた。
「謝らないでください。ルドヴィクス兄さまも、アルバート兄さまも、騎士として、ローラシアの軍人として、己の使命と矜持とに殉じたのです。それを謝るなど、ふたりの覚悟に対する侮辱というものです」
そう言われて、ロウワンはすっと頬を赤くした。恥じ入ったための赤面だった。
「たしかに、そうだ。すまない」
ロウワンは改めてセシリアに頭をさげた。
セシリアはルドヴィクスの遺体に近づいた。腹に大穴を開け、もう動くことも、話すこともない、硬直し、冷え切ったその体へと。
「……ルドヴィクス兄さま」
そう言いながら、その胸にそっと手を置いた。
「どうか、安心してお眠りください。ライン公国は滅びません。わたしが新しい大公となって蘇らせます」
「大公? 君が?」
ロウワンはさすがに驚いて目を丸くした。
セシリアは覚悟を決めた表情でうなずいた。
「そうです。誰もが自分の望む暮らしを作れる世界。それが、都市網社会でしたね」
「そう。その通りだ」
「だったら、わたしが王となり、国を興してもいいはずです。〝ブレスト〟提督から多くのことを教わりました。いまも、この世界のいたるところで多くの女性たちが苦しんでいると。理不尽な暴力と権力によって、人としてあるまじき生を強いられていると。だから、わたしはそんな女性たちが安心して暮らせる国を作ります。新しい大公となって『安心の国ライン』を作りあげます」
「よく言った」
セシリアのその覚悟に――。
ロウワンは力強くうなずいた。
「君の言うとおりだ。誰もが自分の望む暮らしを作りあげることができる。誰もが自らの国を作り、王となれる。それが、都市網社会。君にその覚悟があるのなら、君はすでに王だ。その覚悟をもって、王としてこの世界に起つことだ。君の望む未来は、君自身の手で作るんだ」
「はい」
ロウワンの言葉に、セシリアは力の限りにうなずいた。
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