我が家のベランダ菜園物語

藍条森也

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その3

本当は恐ろしいテントウムシの生態

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 テントウムシ。
 小さくて、まん丸で、赤い甲羅のまぶしいテントウムシ。
 この小さくてかわいい昆虫が実はけっこう獰猛な肉食性で、植物に付くアブラムシを食べてくれる『生きた農薬』として優秀であることを知っている人はけっこう多いのではないだろうか。
 では、このことはご存じだろうか。テントウムシの生き様はけっこう怖い、と言うことを。
 前述の通り、テントウムシはアブラムシを食べる『生きた農薬』なので、我が家のベランダ菜園にも毎年まいとし必ずやってくる。そのツヤツヤした赤い甲羅を輝かせ、キュウリやトマトの葉っぱの上を歩いている。そして、あっという間に増えていく。葉っぱの上に(親とは似ても似つかない姿の)幼虫たちがウジャウジャとひしめき出す。
 ここで不思議なことがひとつ。
 幼虫の大きさが全然ちがう。
 もうすぐ蛹になるぐらい大きな幼虫もいれば、生まれたてのような小さい幼虫まで、様々な大きさの幼虫が一緒にいる。
 何で、そんなことになるのか。
 栄養状態が成長を左右するのか、それとも、そもそも親がちがうのか。生まれた時期がちがうから大きさがちがうのか。その辺りはわからない。本人(本虫?)たちに聞いてもきっと、答えてくれないだろう。答えてくれればうれしいが。
 さて、この通り、テントウムシの幼虫たちは成長のちがうもの同士、一緒にいる。そのため、異なる生育ステージが同時に観察できる。すでに蛹になっている幼虫もいれば、まだまだ本当に小さい幼虫もいる。そして、実はここで、ある恐ろしい出来事が起きることがある。
 それは何か。
 共食いである。
 すでに蛹になった幼虫の腹に、別の幼虫が頭を突っ込み、むさぼり食っているのだ。はじめて見るとなかなかにショッキングな光景である。
 見ていて感じるのだが、どうやらこの手の小さな虫たちは目も鼻もきかないらしい。手当たり次第にうろついて偶然、口に当たったものを食う。そういう生態らしいのだ。なので偶然、蛹にぶつかった幼虫は(きょうだいかも知れないのもかまわず)その蛹をむさぼり食ってしまう。蛹にしてみれば身動きひとつとれないまったくの無防備の状態を(それも、きょうだいかも知れない相手に)食われて死んでしまうのだから、かなり怖い。蛹になるのも命がけなのだ。
 実はテントウムシの幼虫というやつ、けっこう共食いするらしい。アブラムシのビッシリ付いたニンジンの葉。そこにテントウムシがやってくる。食料となるアブラムシがたくさんいるのでどんどん増える。葉っぱ中、テントウムシの幼虫だらけになる。やがて、アブラムシは消えてなくなる。すると――。
 どうしたものか、テントウムシの幼虫たちもきれいさっぱり消えてしまう。あとにのこるのは朝日を浴びて緑に輝くニンジンの葉っぱだけ。
 あれだけいたアブラムシも、テントウムシの幼虫も、きれいさっぱりいなくなっている。これはやはり、食料であるアブラムシを食べ尽くした後、幼虫同士が共食いしているのだろう。ある幼虫が他の幼虫を食い、また他の幼虫と食い・食われ、消えていく。最後の一匹になるまで食らい合いはつづく。
 正真正銘のデスゲーム。
 そして、最後に残ったチャンピオンもまた、飢えに苦しみ、死んでいく。あとには何も残らない。
 見た目はかわいいテントウムシもやはり、厳しい大自然の掟のなかで生きているのである。
 合唱。
                         終 
 
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