我が家のベランダ菜園物語

藍条森也

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その八一

警告! ナメクジ大量発生!

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 ふと、思い立って夜のプランターの様子を確認した。
 懐中電灯で照らしてみたのだがなんと! ナメクジがウヨウヨいた。
 その姿を見て思わず『火の鳥 未来編』を思い出してしまった。
 あの物語のなかでは、地球の再生を委ねられた主人公マサトが海に有機物をまいた結果、ナメクジが知能を発達させて文明を築きあげるという歴史が生まれていた。
 まあ、それを思い出すぐらい、ナメクジがいたわけだ。
 いままでナメクジを見たことなんてないのに、ベランダくんだりまでどこからやって来たんだが、本当に。
 せっかく蒔いたシカクマメがなかなか発芽しないと思っていたが、こいつらが発芽前に食ってしまっていたわけか。とすると、ダンゴムシがシカクマメの種に群がっていたのは、ナメクジたちがそのするどい歯で堅い表皮を削り、柔らかい場所がむき出しになったからなのかも知れない。
 とりあえず、何匹かはつまんで駆除したが、そんなことでどうにかなるはずもない。養分及びダンゴムシの食糧として置いてある枯れ葉の下、土のなか、目に見えない場所にウジャウジャいるはずだ。目につくナメクジを何匹か取りのぞいても仕方がないので、効率的な駆除方法を検索することにした。
 そうしたらビビった。
 ナメクジには広東充血線虫という寄生虫がついていて、こいつが人体に入ると死に至ることもあるという。
 素手でつまんじゃったよ、おい。
 まあ、すぐに抗菌石鹸で何度も洗ったし、ナメクジの這った跡のある野菜なんてもちろん、食べてはいないけど……とりあえず、いまのところは無事である。
 なにしろ、生き物任せの栽培法で色々な生き物がいるのに慣れているから警戒心も薄いんだよなあ。ついつい素手で触れてしまう。やはり、小なりとはいえ野性動物に素手でさわるのは危険だな。以後、注意しよう。
 まあ、とにかく、せっかくの野菜を食い荒らす上にそんなヤバい寄生虫までもっているとなれば放っておくわけにはいかない。即刻、駆除しなければ。
 と言うわけで、まずは駆除方法を検索。れっきとした食用の菜園なので毒物は使いたくないのだが……そう思っていたらお勧めの薬剤があった。
 リン酸第二鉄なる成分を使ったもので、これを食べるとナメクジの内臓に異変が生じ、なにも食べられなくなって餓死するのだという。毒ではないし、自然に存在する成分だから食用の菜園にも安心して使えるとのこと。
 それなら、ぜひ使ってみたい……とは思ったが、いまは夜。買いに行けるわけでもない。なので、とりあえずできることをやってみた。
 まずは、インスタントコーヒーを薄めてスプレーで吹きかけた。
 ナメクジはカフェインの匂いをきらうので忌避効果があるのだという。そう言えば、以前にはお茶を淹れたあとのお茶っ葉を腐葉土がわりにプランターに蒔いていたんだよなあ。入れすぎで窒素過多になるのが怖くて、やめていたのだが……ひょっとして、そのおかげでいままでナメクジが寄りつかなかったのか?
 だとしても、予防効果はあっても、すでに居着いているナメクジを追い払うほどの効果はないだろう。
 まあ、気休めである。
 インスタントコーヒーを吹きかけてしばらくしてから様子を見たが案の定、ナメクジたちは元気に活動していた。
 次は熱湯。
 実のところ、これが一番、手っ取り早くて、(人間にとって)安全な方法。以前、アリがプランターのなかに巣を作ったときには、熱湯をまくことで姿が見えなくなった。なので、今回もジョウロに湯気を立てる熱湯を入れてまいてみた。うまく行けば翌朝にはナメクジの死体が転がっていることだろう。
 でっ、翌朝。
 ナメクジの死体があったかというと――。
 ひとつもなかった。
 いくら熱湯をかけたといっても跡形もなく溶けてしまうはずはないし、一晩のうちに死体が分解するはずもない。熱湯では死なずに、プランターのなかのねぐらに帰ったと言うことなのだろう。残念である。
 とにかく、夜が明けたのでさっそく薬剤を買いに行った。残念ながら、動画で紹介されていた薬剤はなかったが、同じくリン酸第二鉄を使った別の薬剤があったのでそれを買ってきてプランターの上にバラまいた。
 さてさて、果たして効果はあるのか。
 これでだめならあとは、夜なよな懐中電灯で照らしながらつまみとる(今度はちゃんとピンセットを使う!)ぐらいしかできることがないのだが……。
 人間の知恵(薬剤)と野性の生命力(ナメクジ)、どちらが勝つ⁉
 一日や二日で目立った効果が出るはずもないので、結果がわかるのはしばらくあとのことになるだろう。
 要注目!
 である。
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