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五章 一肌、脱ぎます!
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「うわあっ、おっきい菜っ葉ですねえ」
朝食が終わったあと、ほだかは畑に出向く真のあとをチョコチョコついてきた。あたり一面に広がるつぼみをつけたコマツナの苗を見て感嘆の声をあげる。ネコの目のようにコロコロかわるその表情がまた、生まれてはじめて『菜っ葉』というものを見た子どものように興味津々に輝いている。その手にはしっかりと商売道具のカメラが握られている。
「こんなおっきい菜っ葉、はじめて見ました。特別な菜っ葉なんですか?」
ほだか本人や両親がなんと言おうと、真自身はほだかを弟子にとった覚えなどないし、その気もない。とは言え、尋ねられれば答えないわけにもいかない。そもそも、自分の職業に興味をもち、感心してもらえればやはり、嬉しい。
真はなにやら校外学習にやってきた小学生を相手にするような気分になって『講義』をした。自慢そうに胸をそらしたその姿は誠司や、冬菜が見れば思わず吹きだしたことだろう。
「なんの変哲もない普通のコマツナだよ。その辺のスーパーで売っているものとなにもかわりない」
「そうなんですか? でも、こんなおっきいコマツナ、見たことありませんよ? まるで、白菜みたいです」
ほだかは目を丸くして驚いている。こうも素直に反応してくれるとやはり、嬉しくなる。真は得意気につづけた。
「これが、コマツナ本来の大きさなんだよ。スーパーに卸しているコマツナは、まだ成長途中の小さいものだ。つぼみをつけるまで育てればこの大きさになる。コマツナだけじゃない。他の菜っ葉類やキュウリ、ニンジン、キャベツと言った野菜もいまではみんな、小さいうちに収穫して売っている。本来の野菜はスーパーで売っている品よりずっと大きいんだ」
「へえ、そうなんですか。知りませんでした。でも、なんで小さいうちに収穫するんです? 大きく、立派に育ててから収穫した方が高く売れるんじゃありません?」
「それはまあ、現代の核家族ではあんまり大きいと食べきれなくて扱いにくいから。小ぶりな方が時代に合っているんだ。農家にしても、大きく育てるより小さいうちに収穫して、新しい種を蒔いて、小さいうちに収穫して、また種を蒔いて……と、どんどん回転させた方が稼げるから」
「なるほど」
ほだかは感心してうなずいた。
真は『ほう』と、溜め息をついた。
「でも、農家としては複雑だけどな。味という点では小さいうちよりやっぱり、しっかり、大きく育った品のほうが味わいがある。若いうちはコマツナも、ホウレンソウも、その他も、みんな同じような味だけど、成長しきればそれぞれの味の個性がちゃんと出てくる。キュウリだってそうだ。緑色のキュウリはまだ若い、未熟なもので、完熟するとウリみたいに大きくなって、黄色になる。これがまた、緑のキュウリとはちがった味わいがあって、うまいんだ」
「へえ、そうなんですか。知りませんでした。てっきり、キュウリって緑色だと思ってました」
「農家以外はそうだろうな。いや、いまどき、農家だってそう思ってるかもな。みんな、早いうちに収穫してしまうから。でも、やっぱり、農家としてはしっかり育った完熟野菜を食べてもらいたいんだけどな」
真は残念そうにそう言ったが、現実はなかなかそうはいかない。完熟野菜はその分、日持ちしなくなるからスーパーからきらわれる。それこそ、直売所をもつか、自分たちでファーマーズ・レストランを開くかしないことには完熟野菜など食べてもらえないご時世だ。
「なるほど。農家さんも大変なんですね」
それを知れただけでも、真さんに弟子入りしてよかったです。
ほだかは神妙な面持ちでそううなずいた。
――いや、弟子になんてしてないけど。
真はそう思ったが、口に出しては言えなかった。こうも真剣に反応してくれるとやはり、嬉しい。冷水をぶっかけるような真似はとても出来ない。
――そう言えば、美咲は畑や農業には全然、興味なかったっけ。
真はいくらかの胸の痛みと共に自分を捨てて金持ちに走った『元恋人』のことを思い出した。いや、美咲からすればあくまでも『保険』として手元においていただけで、真剣に付き合っていたわけではないのだから『捨てた』という感情もないのだろう。
とは言え『嘘』でも八年も付き合ったのだし、真のほうは本気で結婚するつもりでいたから両親に紹介もしたし、家業の説明もした。しかし、美咲は畑を見ても軽く一瞥しただけでなんの興味も関心も示さなかった。『ふうん』とばかりに見回してそれで終わり、である。
まあ、美咲は大学時代から普通に就職活動をしていたし、仮に『良い相手』が見つかることなく真と結婚することになったとしても農業には一切、関わることはなかっただろう。畑のことはすべて真に任せ、自分は別の仕事をしていたにちがいない。
それはそれで、別に責めるようなことでもない。いまどき『一家そろって農業一筋!』などと言う家のほうが少ないのだし、真にしても『農業に従事する』ことを結婚の条件にしていたわけではない。『美咲が結婚してくれる』と言うだけで天にものぼる心地だったから、なんらかの条件をつけるなんて、畏れ多くてとても出来なかった。
――でも、もし、あのまま結婚していたら……その後、職場で『良い相手』を見つけて離婚されていたかもな。
別れを告げたときの美咲の態度を思うと、考えすぎだとはとても思えない。それをもって、
――傷の浅いうちに捨てられて、まだ良かったのかもな。
と、思うのはさすがにつらすぎたが。
「どの菜っ葉もいっぱい、つぼみつけてますねえ」
すぐそばでほだかの声がした。真は驚いて飛びあがった。気がついてみると、ほだかがぴったり密着していた。それこそ、服と服がふれあうほどの距離だ。
「な、なんだなんだ、近すぎだろ!」
真は真っ赤になって怒鳴った。
ほだかはケロッとした様子で答えた。
「だって、仕方ないじゃないですか。せっかくの作物を踏むわけにはいかないし、その間のせまい通路を歩くしかないんですから。どうしたってくっつきますよ」
いやまあ、それは確かにそうなのだが……。
「おれは仕事中だぞ! そんなにくっつかれてたら邪魔だ」
「あたしだって、仕事中ですよ」
と、ほだかはカメラを手に胸を張る。『ふん!』とばかりに鼻息を慣らす表情が年頃の少女と言うより、やんちゃな少年のよう。
「なんたって、カメラマンなんですから」
「カメラマン志望だろ」
「ちゃんと、稼いでますよ。自分の撮った写真をブログに載せて」
「あ、ああ、そうなのか……」
確かに、いまは誰でもそれができる時代ではあった。
「ちょっとまて! と言うことはまさか、うちの畑の写真をブログに載せる気か⁉」
「もちろんです」
「おれは許可していないぞ!」
「お父さんと、お母さんの許可はもらいましたよ」
「なっ……!」
「うちの畑の宣伝になるって喜んでくれましたよ。この畑の名義はあくまでもお父さん。そのお父さんが許可している以上、真さんはなにも言えませんよねえ」
「ぐっ……」
ほだかは口元に手を当ててニマニマ笑う。小悪魔というか、メスガキというか、普段は元気いっぱいの小学生、と言う印象なのに、こんな表情をしてみると途端に妖しい雰囲気になる。
――女は怖い。
思わず、心に唸る真であった。
とにかく、ほだかの言うとおり、畑の経営者はあくまでも父親の誠司。真は息子とはいえ従業員。経営者が認めている以上、一介の従業員が反対できるわけもない。
真はなにも言えず、見回りの仕事に戻った。そのあとをカメラを手にしたほだかがチョコチョコついてくる。相変わらず、『密着』と言っていいぐらい距離が近い。
「つぼみもふくらんでるし、もう少ししたら一面、お花畑になるんでしょうねえ。良い写真が撮れそうです。楽しみです」
「……そんなことにはならない」
真はせいぜい不機嫌な口調で言った。
「花が咲く前に全部、収穫するからな」
「えっ⁉ 花を咲かせないんですか?」
「当たり前だ。菜花として収穫しているんだ。花が咲いたら商品価値がなくなる」
「でも、テレビのニュースとかで一面の菜の花畑ってよく見ますよ?」
「ああいうのは観光用の花畑か、油をとるための場所だ。油を採るためには花を咲かせて、種をつけなきゃいけないからな」
真はそう言いながらつぼみをいっぱいつけたコマツナの苗をひきぬいた。
「あれ? とっちゃうんですか?」
「葉っぱに虫食いの跡があるからな」
「菜花って、つぼみを食べるためのものでしょう? それなのに、葉っぱの虫食いが関係あるんですか?」
「スーパーの基準は厳しいんだ。形や大きさがそろっていないと引き取ってもらえない」
「なるほど。スーパーで見かける野菜ってどれもこれも同じような形、同じような大きさだし、虫食いの跡もありませんけど、農家の人が選んでるからだったんですね」
「そうだ。もちろん、いまは品種改良も進んで形や大きさがそろった作物を収穫出来るようにはなっている。それでも、工業製品じゃないんだ。どうしたって規格外は出る。それは、出荷前に全部、取り除かなくちゃならない」
「なるほど。で、取り除いた分はどうするんです?」
「ニワトリの餌にしたり、畑にすき込んで肥料にしたり……」
「もったいないじゃないですか⁉ 規格外だって、ちゃんと食べられるんでしょう?」
「当たり前だ。見た目はちがっても味も、栄養も、かわりない。それでも、スーパーに買いとってもらっている身としては、スーパーの基準に従うしかない」
栽培費用も無駄になるし、なにより、丹精込めて育てた作物が無駄になるのは胸が痛む。完熟野菜を食べてもらえないことと並んで農家の大きな悩みの種だ。
「……わかりました」
と、ほだかがやけに神妙な面持ちでうなずいた。
「ここは、あたしが一肌、脱ぎます!」
「ぬ、脱ぐって……」
その言葉に――。
真は一瞬、たじろいだ。一八歳美少女の『脱ぐ』という言葉に過剰反応してしまうのは――。
彼女に捨てられたばかりの独身男としては致し方ない。
ほだかはそんな真の気も知らず、『ドン!』とばかりに胸を叩いて見せた。
「天育館出身者に、最強スキル『人脈』あり! 真さんの、いえ、農家さんの悩み、このあたしが解決してみせます!」
朝食が終わったあと、ほだかは畑に出向く真のあとをチョコチョコついてきた。あたり一面に広がるつぼみをつけたコマツナの苗を見て感嘆の声をあげる。ネコの目のようにコロコロかわるその表情がまた、生まれてはじめて『菜っ葉』というものを見た子どものように興味津々に輝いている。その手にはしっかりと商売道具のカメラが握られている。
「こんなおっきい菜っ葉、はじめて見ました。特別な菜っ葉なんですか?」
ほだか本人や両親がなんと言おうと、真自身はほだかを弟子にとった覚えなどないし、その気もない。とは言え、尋ねられれば答えないわけにもいかない。そもそも、自分の職業に興味をもち、感心してもらえればやはり、嬉しい。
真はなにやら校外学習にやってきた小学生を相手にするような気分になって『講義』をした。自慢そうに胸をそらしたその姿は誠司や、冬菜が見れば思わず吹きだしたことだろう。
「なんの変哲もない普通のコマツナだよ。その辺のスーパーで売っているものとなにもかわりない」
「そうなんですか? でも、こんなおっきいコマツナ、見たことありませんよ? まるで、白菜みたいです」
ほだかは目を丸くして驚いている。こうも素直に反応してくれるとやはり、嬉しくなる。真は得意気につづけた。
「これが、コマツナ本来の大きさなんだよ。スーパーに卸しているコマツナは、まだ成長途中の小さいものだ。つぼみをつけるまで育てればこの大きさになる。コマツナだけじゃない。他の菜っ葉類やキュウリ、ニンジン、キャベツと言った野菜もいまではみんな、小さいうちに収穫して売っている。本来の野菜はスーパーで売っている品よりずっと大きいんだ」
「へえ、そうなんですか。知りませんでした。でも、なんで小さいうちに収穫するんです? 大きく、立派に育ててから収穫した方が高く売れるんじゃありません?」
「それはまあ、現代の核家族ではあんまり大きいと食べきれなくて扱いにくいから。小ぶりな方が時代に合っているんだ。農家にしても、大きく育てるより小さいうちに収穫して、新しい種を蒔いて、小さいうちに収穫して、また種を蒔いて……と、どんどん回転させた方が稼げるから」
「なるほど」
ほだかは感心してうなずいた。
真は『ほう』と、溜め息をついた。
「でも、農家としては複雑だけどな。味という点では小さいうちよりやっぱり、しっかり、大きく育った品のほうが味わいがある。若いうちはコマツナも、ホウレンソウも、その他も、みんな同じような味だけど、成長しきればそれぞれの味の個性がちゃんと出てくる。キュウリだってそうだ。緑色のキュウリはまだ若い、未熟なもので、完熟するとウリみたいに大きくなって、黄色になる。これがまた、緑のキュウリとはちがった味わいがあって、うまいんだ」
「へえ、そうなんですか。知りませんでした。てっきり、キュウリって緑色だと思ってました」
「農家以外はそうだろうな。いや、いまどき、農家だってそう思ってるかもな。みんな、早いうちに収穫してしまうから。でも、やっぱり、農家としてはしっかり育った完熟野菜を食べてもらいたいんだけどな」
真は残念そうにそう言ったが、現実はなかなかそうはいかない。完熟野菜はその分、日持ちしなくなるからスーパーからきらわれる。それこそ、直売所をもつか、自分たちでファーマーズ・レストランを開くかしないことには完熟野菜など食べてもらえないご時世だ。
「なるほど。農家さんも大変なんですね」
それを知れただけでも、真さんに弟子入りしてよかったです。
ほだかは神妙な面持ちでそううなずいた。
――いや、弟子になんてしてないけど。
真はそう思ったが、口に出しては言えなかった。こうも真剣に反応してくれるとやはり、嬉しい。冷水をぶっかけるような真似はとても出来ない。
――そう言えば、美咲は畑や農業には全然、興味なかったっけ。
真はいくらかの胸の痛みと共に自分を捨てて金持ちに走った『元恋人』のことを思い出した。いや、美咲からすればあくまでも『保険』として手元においていただけで、真剣に付き合っていたわけではないのだから『捨てた』という感情もないのだろう。
とは言え『嘘』でも八年も付き合ったのだし、真のほうは本気で結婚するつもりでいたから両親に紹介もしたし、家業の説明もした。しかし、美咲は畑を見ても軽く一瞥しただけでなんの興味も関心も示さなかった。『ふうん』とばかりに見回してそれで終わり、である。
まあ、美咲は大学時代から普通に就職活動をしていたし、仮に『良い相手』が見つかることなく真と結婚することになったとしても農業には一切、関わることはなかっただろう。畑のことはすべて真に任せ、自分は別の仕事をしていたにちがいない。
それはそれで、別に責めるようなことでもない。いまどき『一家そろって農業一筋!』などと言う家のほうが少ないのだし、真にしても『農業に従事する』ことを結婚の条件にしていたわけではない。『美咲が結婚してくれる』と言うだけで天にものぼる心地だったから、なんらかの条件をつけるなんて、畏れ多くてとても出来なかった。
――でも、もし、あのまま結婚していたら……その後、職場で『良い相手』を見つけて離婚されていたかもな。
別れを告げたときの美咲の態度を思うと、考えすぎだとはとても思えない。それをもって、
――傷の浅いうちに捨てられて、まだ良かったのかもな。
と、思うのはさすがにつらすぎたが。
「どの菜っ葉もいっぱい、つぼみつけてますねえ」
すぐそばでほだかの声がした。真は驚いて飛びあがった。気がついてみると、ほだかがぴったり密着していた。それこそ、服と服がふれあうほどの距離だ。
「な、なんだなんだ、近すぎだろ!」
真は真っ赤になって怒鳴った。
ほだかはケロッとした様子で答えた。
「だって、仕方ないじゃないですか。せっかくの作物を踏むわけにはいかないし、その間のせまい通路を歩くしかないんですから。どうしたってくっつきますよ」
いやまあ、それは確かにそうなのだが……。
「おれは仕事中だぞ! そんなにくっつかれてたら邪魔だ」
「あたしだって、仕事中ですよ」
と、ほだかはカメラを手に胸を張る。『ふん!』とばかりに鼻息を慣らす表情が年頃の少女と言うより、やんちゃな少年のよう。
「なんたって、カメラマンなんですから」
「カメラマン志望だろ」
「ちゃんと、稼いでますよ。自分の撮った写真をブログに載せて」
「あ、ああ、そうなのか……」
確かに、いまは誰でもそれができる時代ではあった。
「ちょっとまて! と言うことはまさか、うちの畑の写真をブログに載せる気か⁉」
「もちろんです」
「おれは許可していないぞ!」
「お父さんと、お母さんの許可はもらいましたよ」
「なっ……!」
「うちの畑の宣伝になるって喜んでくれましたよ。この畑の名義はあくまでもお父さん。そのお父さんが許可している以上、真さんはなにも言えませんよねえ」
「ぐっ……」
ほだかは口元に手を当ててニマニマ笑う。小悪魔というか、メスガキというか、普段は元気いっぱいの小学生、と言う印象なのに、こんな表情をしてみると途端に妖しい雰囲気になる。
――女は怖い。
思わず、心に唸る真であった。
とにかく、ほだかの言うとおり、畑の経営者はあくまでも父親の誠司。真は息子とはいえ従業員。経営者が認めている以上、一介の従業員が反対できるわけもない。
真はなにも言えず、見回りの仕事に戻った。そのあとをカメラを手にしたほだかがチョコチョコついてくる。相変わらず、『密着』と言っていいぐらい距離が近い。
「つぼみもふくらんでるし、もう少ししたら一面、お花畑になるんでしょうねえ。良い写真が撮れそうです。楽しみです」
「……そんなことにはならない」
真はせいぜい不機嫌な口調で言った。
「花が咲く前に全部、収穫するからな」
「えっ⁉ 花を咲かせないんですか?」
「当たり前だ。菜花として収穫しているんだ。花が咲いたら商品価値がなくなる」
「でも、テレビのニュースとかで一面の菜の花畑ってよく見ますよ?」
「ああいうのは観光用の花畑か、油をとるための場所だ。油を採るためには花を咲かせて、種をつけなきゃいけないからな」
真はそう言いながらつぼみをいっぱいつけたコマツナの苗をひきぬいた。
「あれ? とっちゃうんですか?」
「葉っぱに虫食いの跡があるからな」
「菜花って、つぼみを食べるためのものでしょう? それなのに、葉っぱの虫食いが関係あるんですか?」
「スーパーの基準は厳しいんだ。形や大きさがそろっていないと引き取ってもらえない」
「なるほど。スーパーで見かける野菜ってどれもこれも同じような形、同じような大きさだし、虫食いの跡もありませんけど、農家の人が選んでるからだったんですね」
「そうだ。もちろん、いまは品種改良も進んで形や大きさがそろった作物を収穫出来るようにはなっている。それでも、工業製品じゃないんだ。どうしたって規格外は出る。それは、出荷前に全部、取り除かなくちゃならない」
「なるほど。で、取り除いた分はどうするんです?」
「ニワトリの餌にしたり、畑にすき込んで肥料にしたり……」
「もったいないじゃないですか⁉ 規格外だって、ちゃんと食べられるんでしょう?」
「当たり前だ。見た目はちがっても味も、栄養も、かわりない。それでも、スーパーに買いとってもらっている身としては、スーパーの基準に従うしかない」
栽培費用も無駄になるし、なにより、丹精込めて育てた作物が無駄になるのは胸が痛む。完熟野菜を食べてもらえないことと並んで農家の大きな悩みの種だ。
「……わかりました」
と、ほだかがやけに神妙な面持ちでうなずいた。
「ここは、あたしが一肌、脱ぎます!」
「ぬ、脱ぐって……」
その言葉に――。
真は一瞬、たじろいだ。一八歳美少女の『脱ぐ』という言葉に過剰反応してしまうのは――。
彼女に捨てられたばかりの独身男としては致し方ない。
ほだかはそんな真の気も知らず、『ドン!』とばかりに胸を叩いて見せた。
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