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一六章 オーストラリアのザリガニは化け物か!
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「さあ! そうと決まったら張り切りますよ」
ほだかは、かの人らしく両拳を握りしめて力強く宣言した。ただまっすぐに前を見据えるキラキラした瞳がとにかく目にまぶしい。
「まずは、栽培する作物を決めないとですね。師匠! なにかお勧めはありますか?」
ほだかは瞳をキラキラさせたまま真に尋ねた。その無邪気な信頼振りに気圧されながら、真は答えた。こんなときこそ農業の先輩としての威厳の見せ所。気圧されていてどうする!
「そうだな。まず、池のまわりだけど、池のまわりはどうしても土壌水分が多くなる。だから、普通の野菜は向かない。もともと、水辺に生えるような植物、たとえば、セリなんかがお勧めだな」
「セリって言うと、春の七草のひとつですよね?」
「そうだ。七草のなかでは一番おいしいとも言われるな。古くから利用されてきた野草だから需要はあるし、多年草だから長く利用できる。花も白くて小さいのがたくさん咲くから見栄えがするし、収穫時期以外はニワトリを放しておけば、適当に刈り込んでくれるだろう。やはり、セリがお勧めだな」
「う~ん。でも……」
と、ほだかは腕組みして首をひねった。
「多年草って言うのが引っかかるんですよねえ。冬になって枯れた葉や草のなかから新しい生命が芽吹く……っていうのを、演出したいんで」
「だったら、タネツケバナだな。あれは越年草だからその目的にピッタリだ」
「タネツケバナはクレソンに似た味わいだしな。それなら、うちもほしい」
貴がそう言ったので販売先も確保出来た。
「世界を写せし神の御業の主として言うなら……」
と、伊吹が口をはさんだ。
「天へと至る階段にはまず、大地を覆うはびこる緑を用意し、継いで未来を孕みし直立せり卵、そして、神に挑む反逆の塔を建てるのが栄えある世界を築く根本法則だな」
「最初にまずツル植物を植えて、それから徐々に丈の高い植物を植えていく。そう言えばすむところを、なんでわざわざ七面倒くさい言い方をするんだ?」
白馬がいまさらなことをツッコんだ。
小首をひねって答えたのは真である。
「ツル性というとカボチャかな。カボチャは花も大きくてきれいだから見栄えがするし。他に花のきれいな野菜というとオクラとか、エンドウだな」
「一番後ろにはミニトマトを並べたいんですよねえ。きっと、緑のなかに真っ赤なルビーみたいな小さな実がいくつもついて絵になると思うんですよ」
「カボチャを育てるなら……」と、貴。
「茎葉や幼果を売ってほしいな。なかなか手に入らなくて困っているんだ」
「えっ? カボチャって茎葉も食べられるんですか?」
ほだかは驚いて目をパチクリさせた。
貴と真がつづけて答えた。
「カボチャの茎はベトナムでは高級食材だ。もちろん、実も食べるが、茎も、葉も、成熟していない小さな実も全部、食べる」
「日本でも戦時中の食べ物の少ない時代には、カボチャやサツマイモは実を主食として、茎葉を野菜として食べていたそうだ」
「サツマイモも茎葉を食べられるんですか⁉ 知りませんでした」
ほだかは、かの人らしく、大きく開いた口元に手を当てて両目を思いきり丸くして驚いて見せた。
「戦時中と言えば……その頃の日本は、サツマイモから採った油で戦おうとしていたらしいな」
「サツマイモから採った油で⁉」
貴の言葉に、ほだかはさらに驚いた。
真が農家らしく、作物に関する豆知識を披露した。
「まあ、いまで言うバイオエタノールだから。実は、そのためにサツマイモの品種改良が進められて、種類がめちゃくちゃ増えたんだそうだ」
「ふわあ」
「しかし、植物から採った油で戦争しようなんて、当時の日本はなにを考えていたんだか」
「まあ、日本人って言うのはそういうものだから」と、白馬。
「機械より人の力に頼りがちなんだ。各国がレーダーの開発に躍起になっていた時代、日本軍は兵士の視力を鍛えることで、いち早く敵爆撃機の接近に気付けるようにしていたそうだし。火薬の原料として、地方の子どもたちにヨモギを集めさせていたそうだし」
そりゃ勝てんわ。
と、その場にいる全員が日本の敗戦に納得したのだった。
「ところで……」
貴が尋ねた。
「池ではなにを育てるんだ? おれとしてはハスとかスイレンを栽培してほしいんだが」
「ハスとスイレンってちがうんですか?」
「全然、ちがう。ハスは茎を長く伸ばして花をつけるが、スイレンは水面に花を咲かせる。ほら、これだよ」
と、貴は自分のスマホを取り出して、ほだかに画像を見せた。
「へえ。なんか、似たような名前だから同じ花の別名かと思ってました」
「まあ、どっちも『蓮』の字がつくしな」
「それで、どうしてハスやスイレンがほしいんだ」と、真。
「ハスもスイレンも花がきれいだからな。店のテーブルに水盆をおいて、その上に葉と花を浮かせたら絵になるんじゃないかと思うんだ」
「生け花でもやってるのか?」
「店に花を飾るのは当然だからな。よりよい飾りができるよう、生け花も学んでいる」
「なるほど。さすが、プロだな」
真は素直に感心した。
「だけど、ハスというのは面白い植物なんだね」
自分のスマホでハスについて調べていた白馬が声をあげた。
「『捨てるところがない植物』らしいよ。ほら」
「へえ。ハスの花ってお茶になるのか。それは、おれも知らなかったな」と、真。
「花の終わったあとも面白いですねえ。まるで、ハチの巣をおっきくしたみたい」
ほだかが画像を見ながらそう言った。
スマホ画面のなかには花びらがすべて散った跡、丸い花托の表面にいくつも穴が開き、そのなかに実がつまっている画像が表示されている。
「昔の人もそう思ったみたいだな。ハスの古名は『はちす』。これは、ハチの巣から来たものらしい」
「これは……素晴らしい」
ハスの花の終わったあとの花托の姿を見ながら、伊吹が中二病患者らしい異様に興奮した目で言い出した。
「……宝の眠る、人知れぬ洞窟。そのなかに立ち並び、侵入者に向かって実を撃ちだし、宝を守る怪植物。これが群生している姿はぜひ、絵にしたい」
「まあ、せっかく五つの区画を用意するんだ。一種類にしぼらず、いろいろと栽培してみるのがいいだろう」
「そうですね」
真の言葉にほだかがうなずいた。多くの作物を同時に育てるのは大変だが、そこは気力・体力・根性でカバーする所存である。
「せっかく、池があるなら……」と、貴。
「ザリガニも育ててくれないかな? 日本ではなかなか手に入らなくて」
「ザリガニ? アメリカザリガニか? いや、日本で食用と言ったらウチダザリガニだったか」
真が言った。ザリガニに関しては専門外でうろ覚えなのであまり自信はない。
貴は首を横に振った。
「いや。ウチダザリガニも確かにうまいらしいけど、おれのほしいのはオーストラリアのマロンだ」
「マロン? クリ?」
ほだかが目を丸くした。
貴は重ねて首を横に振った。
「そのマロンじゃない。オーストラリアのザリガニだ。大きくて、青く美しい姿をしているから観賞用として人気だそうだが、食べてもめっぽううまいらしい。ほら、これだよ」
貴は自分のスマホにマロンの姿を表示してみんなに見せた。それを見た皆の表情が一斉にかわった。
「うわっ、すごい。こんな大きいザリガニがいるんだ」
比較のために並べられている日本のザリガニと比べると優に三倍は大きそうだ。
「……オーストラリアのザリガニは化け物か!」
「……確かに、見事な青だな。これはちょっと食べる気になれないが」
伊吹が叫ぶと、真も重ねて言った。
貴が説明した。
「茹でると真っ赤になるから問題ない。ほら」
と、実験のために茹でる前と、茹でたあとを比べた画像を見せた。そこでは確かに、茹でる前の青い殻が茹でた途端、嘘のように真っ赤になった画像があった。
「だけど、これ、日本で養殖できるのか? 生きたまま輸入するにはいろいろ面倒な手続きが必要らしいけど」
こちらも自分のスマホであれこれ検索していた白馬が言った。
真は首をひねった。
「おれも外国の生き物を輸入したことはないからなあ。その辺の決まりとかは見当もつかないな。やっぱり、日本のザリガニが無難なんじゃないか?」
「ウチダザリガニはウチダザリガニで特定外来生物に指定されている。と言うより、アメリカザリガニ以外の外国産ザリガニはすべて特定外来生物だ。生きたままよそに運ぶと犯罪になる」
「……きちんと手続きをすれば養殖できるのかも知れないが、面倒そう、と言うところだな。やはり、ザリガニを扱うならアメリカザリガニしかないんじゃないか?」
「アメリカザリガニか……」
真の言葉に貴は悩ましげに腕を組み、首をひねった。
「……確かに、アメリカザリガニも中華では定番だし、寄生虫にさえ気をつければ使えるんだが。なにぶん、小さすぎるからなあ。中華でも『ほとんど殻!』という状態になるそうだし。やはり、本格的な食材とするにはマロン級の大きさがないと」
「だから、そのマロンは特定外来生物なんだけどね」
「そうだ! いいことがあります。アメリカザリガニしか養殖できないなら、アメリカザリガニをおっきく育てればいいんですよ。餌をたっぷりあげて、大きなもの同士を掛け合わせて、おっきな系統を作りあげて……」
「いや、さすがにアメリカザリガニを三倍サイズにまで品種改良するのは無理があると思うんだけど……」
白馬の言葉にやけに熱く反論したのは伊吹だった。
「……いや。三倍。挑戦すべきだ」
たちまち、喧々囂々の議論をはじめたほだかたちを見て、真はふと思った。
――こんなふうに農業について熱く語り合える仲間が出来るなんて、ほんの一ヶ月前まで想像も出来なかったな。
同世代の農家の子どもの知り合いがいないわけではない。しかし、みんな、農業を捨てて都会に出てしまった。真はひとり残って先祖代々の畑を守ってきたのだ。
真はほだかを見た。相変わらず目をキラキラさせて、頬を紅潮させて、自分の未来をまっすぐに見据えながら熱く語っている。その姿を見ているうち、真の胸に熱いものが込みあげてきた。
――すべてはほだかのおかげ。ほだかがうちに来てくれたことからはじまった。感謝しなくちゃな。
今度、お礼をしておかなくちゃな。
真はつくづくとそう思った。
ほだかは、かの人らしく両拳を握りしめて力強く宣言した。ただまっすぐに前を見据えるキラキラした瞳がとにかく目にまぶしい。
「まずは、栽培する作物を決めないとですね。師匠! なにかお勧めはありますか?」
ほだかは瞳をキラキラさせたまま真に尋ねた。その無邪気な信頼振りに気圧されながら、真は答えた。こんなときこそ農業の先輩としての威厳の見せ所。気圧されていてどうする!
「そうだな。まず、池のまわりだけど、池のまわりはどうしても土壌水分が多くなる。だから、普通の野菜は向かない。もともと、水辺に生えるような植物、たとえば、セリなんかがお勧めだな」
「セリって言うと、春の七草のひとつですよね?」
「そうだ。七草のなかでは一番おいしいとも言われるな。古くから利用されてきた野草だから需要はあるし、多年草だから長く利用できる。花も白くて小さいのがたくさん咲くから見栄えがするし、収穫時期以外はニワトリを放しておけば、適当に刈り込んでくれるだろう。やはり、セリがお勧めだな」
「う~ん。でも……」
と、ほだかは腕組みして首をひねった。
「多年草って言うのが引っかかるんですよねえ。冬になって枯れた葉や草のなかから新しい生命が芽吹く……っていうのを、演出したいんで」
「だったら、タネツケバナだな。あれは越年草だからその目的にピッタリだ」
「タネツケバナはクレソンに似た味わいだしな。それなら、うちもほしい」
貴がそう言ったので販売先も確保出来た。
「世界を写せし神の御業の主として言うなら……」
と、伊吹が口をはさんだ。
「天へと至る階段にはまず、大地を覆うはびこる緑を用意し、継いで未来を孕みし直立せり卵、そして、神に挑む反逆の塔を建てるのが栄えある世界を築く根本法則だな」
「最初にまずツル植物を植えて、それから徐々に丈の高い植物を植えていく。そう言えばすむところを、なんでわざわざ七面倒くさい言い方をするんだ?」
白馬がいまさらなことをツッコんだ。
小首をひねって答えたのは真である。
「ツル性というとカボチャかな。カボチャは花も大きくてきれいだから見栄えがするし。他に花のきれいな野菜というとオクラとか、エンドウだな」
「一番後ろにはミニトマトを並べたいんですよねえ。きっと、緑のなかに真っ赤なルビーみたいな小さな実がいくつもついて絵になると思うんですよ」
「カボチャを育てるなら……」と、貴。
「茎葉や幼果を売ってほしいな。なかなか手に入らなくて困っているんだ」
「えっ? カボチャって茎葉も食べられるんですか?」
ほだかは驚いて目をパチクリさせた。
貴と真がつづけて答えた。
「カボチャの茎はベトナムでは高級食材だ。もちろん、実も食べるが、茎も、葉も、成熟していない小さな実も全部、食べる」
「日本でも戦時中の食べ物の少ない時代には、カボチャやサツマイモは実を主食として、茎葉を野菜として食べていたそうだ」
「サツマイモも茎葉を食べられるんですか⁉ 知りませんでした」
ほだかは、かの人らしく、大きく開いた口元に手を当てて両目を思いきり丸くして驚いて見せた。
「戦時中と言えば……その頃の日本は、サツマイモから採った油で戦おうとしていたらしいな」
「サツマイモから採った油で⁉」
貴の言葉に、ほだかはさらに驚いた。
真が農家らしく、作物に関する豆知識を披露した。
「まあ、いまで言うバイオエタノールだから。実は、そのためにサツマイモの品種改良が進められて、種類がめちゃくちゃ増えたんだそうだ」
「ふわあ」
「しかし、植物から採った油で戦争しようなんて、当時の日本はなにを考えていたんだか」
「まあ、日本人って言うのはそういうものだから」と、白馬。
「機械より人の力に頼りがちなんだ。各国がレーダーの開発に躍起になっていた時代、日本軍は兵士の視力を鍛えることで、いち早く敵爆撃機の接近に気付けるようにしていたそうだし。火薬の原料として、地方の子どもたちにヨモギを集めさせていたそうだし」
そりゃ勝てんわ。
と、その場にいる全員が日本の敗戦に納得したのだった。
「ところで……」
貴が尋ねた。
「池ではなにを育てるんだ? おれとしてはハスとかスイレンを栽培してほしいんだが」
「ハスとスイレンってちがうんですか?」
「全然、ちがう。ハスは茎を長く伸ばして花をつけるが、スイレンは水面に花を咲かせる。ほら、これだよ」
と、貴は自分のスマホを取り出して、ほだかに画像を見せた。
「へえ。なんか、似たような名前だから同じ花の別名かと思ってました」
「まあ、どっちも『蓮』の字がつくしな」
「それで、どうしてハスやスイレンがほしいんだ」と、真。
「ハスもスイレンも花がきれいだからな。店のテーブルに水盆をおいて、その上に葉と花を浮かせたら絵になるんじゃないかと思うんだ」
「生け花でもやってるのか?」
「店に花を飾るのは当然だからな。よりよい飾りができるよう、生け花も学んでいる」
「なるほど。さすが、プロだな」
真は素直に感心した。
「だけど、ハスというのは面白い植物なんだね」
自分のスマホでハスについて調べていた白馬が声をあげた。
「『捨てるところがない植物』らしいよ。ほら」
「へえ。ハスの花ってお茶になるのか。それは、おれも知らなかったな」と、真。
「花の終わったあとも面白いですねえ。まるで、ハチの巣をおっきくしたみたい」
ほだかが画像を見ながらそう言った。
スマホ画面のなかには花びらがすべて散った跡、丸い花托の表面にいくつも穴が開き、そのなかに実がつまっている画像が表示されている。
「昔の人もそう思ったみたいだな。ハスの古名は『はちす』。これは、ハチの巣から来たものらしい」
「これは……素晴らしい」
ハスの花の終わったあとの花托の姿を見ながら、伊吹が中二病患者らしい異様に興奮した目で言い出した。
「……宝の眠る、人知れぬ洞窟。そのなかに立ち並び、侵入者に向かって実を撃ちだし、宝を守る怪植物。これが群生している姿はぜひ、絵にしたい」
「まあ、せっかく五つの区画を用意するんだ。一種類にしぼらず、いろいろと栽培してみるのがいいだろう」
「そうですね」
真の言葉にほだかがうなずいた。多くの作物を同時に育てるのは大変だが、そこは気力・体力・根性でカバーする所存である。
「せっかく、池があるなら……」と、貴。
「ザリガニも育ててくれないかな? 日本ではなかなか手に入らなくて」
「ザリガニ? アメリカザリガニか? いや、日本で食用と言ったらウチダザリガニだったか」
真が言った。ザリガニに関しては専門外でうろ覚えなのであまり自信はない。
貴は首を横に振った。
「いや。ウチダザリガニも確かにうまいらしいけど、おれのほしいのはオーストラリアのマロンだ」
「マロン? クリ?」
ほだかが目を丸くした。
貴は重ねて首を横に振った。
「そのマロンじゃない。オーストラリアのザリガニだ。大きくて、青く美しい姿をしているから観賞用として人気だそうだが、食べてもめっぽううまいらしい。ほら、これだよ」
貴は自分のスマホにマロンの姿を表示してみんなに見せた。それを見た皆の表情が一斉にかわった。
「うわっ、すごい。こんな大きいザリガニがいるんだ」
比較のために並べられている日本のザリガニと比べると優に三倍は大きそうだ。
「……オーストラリアのザリガニは化け物か!」
「……確かに、見事な青だな。これはちょっと食べる気になれないが」
伊吹が叫ぶと、真も重ねて言った。
貴が説明した。
「茹でると真っ赤になるから問題ない。ほら」
と、実験のために茹でる前と、茹でたあとを比べた画像を見せた。そこでは確かに、茹でる前の青い殻が茹でた途端、嘘のように真っ赤になった画像があった。
「だけど、これ、日本で養殖できるのか? 生きたまま輸入するにはいろいろ面倒な手続きが必要らしいけど」
こちらも自分のスマホであれこれ検索していた白馬が言った。
真は首をひねった。
「おれも外国の生き物を輸入したことはないからなあ。その辺の決まりとかは見当もつかないな。やっぱり、日本のザリガニが無難なんじゃないか?」
「ウチダザリガニはウチダザリガニで特定外来生物に指定されている。と言うより、アメリカザリガニ以外の外国産ザリガニはすべて特定外来生物だ。生きたままよそに運ぶと犯罪になる」
「……きちんと手続きをすれば養殖できるのかも知れないが、面倒そう、と言うところだな。やはり、ザリガニを扱うならアメリカザリガニしかないんじゃないか?」
「アメリカザリガニか……」
真の言葉に貴は悩ましげに腕を組み、首をひねった。
「……確かに、アメリカザリガニも中華では定番だし、寄生虫にさえ気をつければ使えるんだが。なにぶん、小さすぎるからなあ。中華でも『ほとんど殻!』という状態になるそうだし。やはり、本格的な食材とするにはマロン級の大きさがないと」
「だから、そのマロンは特定外来生物なんだけどね」
「そうだ! いいことがあります。アメリカザリガニしか養殖できないなら、アメリカザリガニをおっきく育てればいいんですよ。餌をたっぷりあげて、大きなもの同士を掛け合わせて、おっきな系統を作りあげて……」
「いや、さすがにアメリカザリガニを三倍サイズにまで品種改良するのは無理があると思うんだけど……」
白馬の言葉にやけに熱く反論したのは伊吹だった。
「……いや。三倍。挑戦すべきだ」
たちまち、喧々囂々の議論をはじめたほだかたちを見て、真はふと思った。
――こんなふうに農業について熱く語り合える仲間が出来るなんて、ほんの一ヶ月前まで想像も出来なかったな。
同世代の農家の子どもの知り合いがいないわけではない。しかし、みんな、農業を捨てて都会に出てしまった。真はひとり残って先祖代々の畑を守ってきたのだ。
真はほだかを見た。相変わらず目をキラキラさせて、頬を紅潮させて、自分の未来をまっすぐに見据えながら熱く語っている。その姿を見ているうち、真の胸に熱いものが込みあげてきた。
――すべてはほだかのおかげ。ほだかがうちに来てくれたことからはじまった。感謝しなくちゃな。
今度、お礼をしておかなくちゃな。
真はつくづくとそう思った。
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