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第四話 空の星 海の星(下)
ステージ17 復活
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「照明設備OK!」
「音響設備、問題なし!」
「警備状況もバッチリ! あやしいやつはひとりたりとも近づけさせません!」
ついにやってきた南沢なつみの復活公演。全体を統括する立場にある森也のもとに次々と報告が入ってくる。
「菜の花! マスコミ関係者の方はどうなってる?」
「安心しなさいって。このやさしくて頼りになるお姉さまが仕切っているんだから、問題なんか起きっこないって。もうみんなマスコミ席に案内済みよ」
森也の姉の緑山菜の花が得意気に胸をそらしながらそう答えた。
「でも、さすがに『天才少女』としてもてはやされていただけのことはあるわねえ。業界紙の関係者がわんさか詰めかけているんだもの。ふぁいからりーふのときはマスコミ関係者なんて誰も来ていなかったのに大違いだわ」
菜の花は、そこまで言ってから『ドヤッ!』とばかりに表情を改め、左手を腰に、右手を『女としての唯一の長所』とよく言われる大きめの胸に当てて、偉そうなポーズを取って見せた。
「ま、それだけ、このお姉さまのHP運営が上手だったってことでもあるけどね」
富士幕府のHPとなれば本来、将軍であるあきらが行うべきものだろう。本人もその気満々だった。しかし、あきらの場合『〆切』という強力すぎる敵がいる。そのため、富士幕府の広報活動はいつの間にか菜の花が担当することになっていた。
その菜の花の『ドヤッ!』顔は無視しておいて――妹には優しいが姉には冷たい、と評判の森也である――言った。
「なつみにしても、雪菜にしても、小学生の頃から『将来の日本のバレエ界を担う』と言われてきたそうだからな。そのふたりが組んでの公演、それも、怪我による挫折からの復活という、いかにも世間受けしそうな題材。詰めかけるのが当然だ。だが、ふたりだけではなく水舞そのものにも注目してもらわなくてはならない。解説役として水舞のコンセプトはちゃんと理解しているんだろうな?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。お姉さまに任せなさい!」
と、菜の花はお気楽そうにピースサインなど出してみせる。
あまりにも安請け合いな態度に不安しか浮かんでこないのだが、そこは藍条森也。一度、任せた以上、徹底的に任せるべきだと言うことを知っている。例えそれが『信頼する振り』だったとしても、とにかく、相手を信頼し、任せなければ信頼を返されることはない。
――まあ、失敗するにしてもデカい失敗をするためにはそれなりの能が必要だからな。無能が失敗したところで、おれがどうにも出来ない状況に陥ることはないだろう。
そういう理屈で森也は姉に任せた。
こう言うところが『妹には優しいのに……』と、言われるところなのだった。もっとも、本人に言わせれば、
「なんで、年上相手に気を使わなけりゃならんのだ」
の、一言なのだが。
「兄さん」
その妹が森也のもとにやってきた。
「こっちの準備もOK。円盤の制作、実況配信、どっちも準備できたわ」
「ああ、承知した」
森也はそう答えてから全体を見渡した。
「二回目だけあって、みんな手慣れた印象だな。余裕があるのはけっこうだが、逆に気の緩みが出て、とんだ失敗をしでかす危険もある。とくにかあら。機械担当のお前が失敗したらすべてが麻痺する。機械の故障は起こすなよ」
「わかっている」
と、富士幕府機械担当、時任かあらは答えた。
「このわたしが設計・製作した機械を、このわたし自らが動かすのだ。故障などあり得ない」
「自信はいいが、過信されるのは困るんだ。点検はくどいと思うぐらいにやっておけ」
「わかっている。わたしの愛する子供たちだ。放置するような真似はしない」
会場の席は八割方、埋まっていた。まだまだ知名度の低い富士幕府のイベントでこれだけの席が埋まったのは上出来と言えるだろう。ただ、時節柄、会場いっぱいに人を入れる、と言うわけにはいかないので、席と席の間はかなりはなれている。そのせいで、会場の半分ぐらいしか埋まっている印象がないのがさびしいところだ。
もっとも、席と席がはなれているのは『客を、距離をつめた窮屈な席に詰め込んで、ひとりでも多く入れて稼ごうという店の根性は気にいらん!』という、森也の個人的な意識もあるのだが。
客層を見てみると幼い子供を連れた若い親もけっこう多い。『幼い子供連れでも楽しめるエンターテイメント!』を強調し、宣伝を重ねた結果だろう。その分『やっぱり、小さい子供を連れてイベントに参加するなんて無茶だった』などという思いを抱かせてしまえば台無しになる。今後、本人が来なくなるのはもちろん、SNSなどで呟かれ、客足が遠のく危険もある。
そうさせないために、対策は重ねてある。
育児室も用意してあるし、急な体調の変化に対応出来るよう保健室も用意してある。医師と看護師の数も充分に確保した。さすがに、これだけの数の医療関係者を確保するのは大変だったのだが、『腕だけは』世界中から評価されている名医である四柴守のつてを使ってなんとかそろえた。
幼い子供はなにごとにつけて途中で飽きて、グズりだすのがお約束だ。そんな場合に備えてハンターキャッツの駆け出しタレント及び訓練生を総動員してミニゲームや本編以外のミニライブも用意してある。
『アメリカの野球場では観客が退屈しないよう、野球以外の楽しみも用意してある』と、聞いたことがある。ゲームのなかの単調な部分では他の楽しみに没頭し、盛りあがったところだけ観戦できるように、とのことだった。
それを参考に、メインである水舞以外の楽しみも用意した。それは『三世代で来て、誰もが自分の楽しみを見つけられるようにする』という最初からのコンセプトでもある。また、駆け出しのタレントや訓練生にとっては自分の芸を見てもらい、顔と名前を覚えてもらうための貴重なチャンスでもある。
「ま、おれもデビューまで苦労したしな。報われないのに精進している人間は、なるべく応援してやりたい」
それができる立場になったことだしな。
森也はそう語ったものである。
やがて、開演時刻となった。
会場の照明が落とされ、そのかわり、舞台の上をぼんやりとした光が包み込んだ。
まるで、暗い水中から光の差し込む水面を見上げているかのような幻想的な光景。その光に照らされるようにして魚たちが舞い踊る。音楽が鳴り響き、ステージ奥にふぁいからりーふの五人が姿を現わした。
誰も気付かない海の底。
希望の星はそこにある。
その歌い出してはじまる、このステージのために歌姫・青葉が作詞作曲した歌が唄われる。その歌声に乗せられてステージ手前のプールのなかにふたり主役、なつみと雪菜が現れる。
ふたりは歌と音楽に乗って舞いはじめる。
それは、空の一族の物語。
婚約者である姫との婚礼を控えていた鳥族の王子。しかし、嫉妬に狂った魔女の呪いによって、海に住まう魚とされてしまう。
空を舞う鳥と海に泳ぐ魚。
決して相容れない立場に分かたれた恋人たち。婚約者の姫は必死に王子の呪いを解く方法を探し求める。ようやく見つけ出した方法はしかし、王子を鳥に戻すかわりに姫を魚にするというものだった。
せっかく、王子を呪いから解き放っても今度は姫が呪いにかけられてしまう。すれ違いはつづく。それを知ったとき、姫は意を決して薬をあおった。
魔女が王子を騙して呑ませた呪いの薬。空を舞う鳥を海を泳ぐ魚にかえるその薬を。
王子と姫とは海のなかで再会し、共に魚として生きていく。そして、新たな王朝を作りあげる……。
さすがに、幼い頃からライバルとして、親友として、共にバレエの世界で生きてきたふたり。息の合い方は完璧だった。
王子役の雪菜がリードする形で姫役のなつみが水のなかで舞い、踊る。水中という浮かび、潜ることの出来る環境を生かした立体的な舞い。それはあたかも、急斜面の上にまっすぐに立つ役者たちの踊りを見ているようで、なんとも不思議な光景だった。
そのなかでなつみは王子への想い、別離の悲しみ、すれ違いの切なさ、一度は呪いを解く方法を見つけたことへの喜び、それが、新たな絶望のもとでしかなかったことを知ったときの悲痛、そして、自らも魚となることを選ぶ決心。そのすべてをあますところなく表現してのけた。
それは、いままでバレエなど見たこともないさくらでさえ、はっきりとストーリーが理解でき、姫の思いが感じられるほどの表現だった。
――やっぱり、これでよかったのね。
さくらは実況配信しながら思った。
なつみの見事な舞もすべては王子役としてなつみをリードする雪菜の存在あってこそ。なつみひとりではとてもこんな深みのある物語を舞うことは出来なかっただろう。もちろん、素人であるさくらに公演でのパートナーか務まるはずがない。
――雪菜がいてくれたよかった。
正直、突如として現れ、自分から役割を奪っていった雪菜に対しては好意的ではいられなかった。
自分よりも雪菜の方がはるかに相手役として適している。
そう頭では理解できても、心のなかにはモヤモヤが残っていた。
しかし、この素晴らしい舞を見ればそんな思いも消えていく。雪菜こそがなつみの運命の相手なのだと、素直に思うことが出来る。
――いつまでも、ふたりでお幸せに。
思わず、そんな感想をもってしまうぐらい――。
王子と姫になりきったふたりの舞は見事なものだった。
「あたしはあたしの役割を果たさなくちゃね」
人々を魅了する物語を舞うのがふたりの役割なら、その舞を多くの人に届けるのか自分の役割。自分は森也と世間を、そして、富士幕府と世間とを繋ぐ架け橋なのだから。
その思いをもって、さくらは実況配信に集中した。
ふぁいからりーふの五人が喉も裂けよとばかりに唄いつづけ、その歌声に乗ってふたりは舞う。舞いつづける。鳥であったふたりが魚となって寄り添いながら泳いで、海の底深くへと去って行く。
誰も知らない海の底。
希望の星はそこにある。
ふぁいからりーふの唄うその歌詞に乗って。
そのシーンでフィナーレとなった。
歌声が終わり、音楽が鳴りやむ。
照明が落とされる。
暗闇のなか、静かに幕がおりる。一瞬の沈黙のあと――。
起きたものは万雷の拍手だった。
「音響設備、問題なし!」
「警備状況もバッチリ! あやしいやつはひとりたりとも近づけさせません!」
ついにやってきた南沢なつみの復活公演。全体を統括する立場にある森也のもとに次々と報告が入ってくる。
「菜の花! マスコミ関係者の方はどうなってる?」
「安心しなさいって。このやさしくて頼りになるお姉さまが仕切っているんだから、問題なんか起きっこないって。もうみんなマスコミ席に案内済みよ」
森也の姉の緑山菜の花が得意気に胸をそらしながらそう答えた。
「でも、さすがに『天才少女』としてもてはやされていただけのことはあるわねえ。業界紙の関係者がわんさか詰めかけているんだもの。ふぁいからりーふのときはマスコミ関係者なんて誰も来ていなかったのに大違いだわ」
菜の花は、そこまで言ってから『ドヤッ!』とばかりに表情を改め、左手を腰に、右手を『女としての唯一の長所』とよく言われる大きめの胸に当てて、偉そうなポーズを取って見せた。
「ま、それだけ、このお姉さまのHP運営が上手だったってことでもあるけどね」
富士幕府のHPとなれば本来、将軍であるあきらが行うべきものだろう。本人もその気満々だった。しかし、あきらの場合『〆切』という強力すぎる敵がいる。そのため、富士幕府の広報活動はいつの間にか菜の花が担当することになっていた。
その菜の花の『ドヤッ!』顔は無視しておいて――妹には優しいが姉には冷たい、と評判の森也である――言った。
「なつみにしても、雪菜にしても、小学生の頃から『将来の日本のバレエ界を担う』と言われてきたそうだからな。そのふたりが組んでの公演、それも、怪我による挫折からの復活という、いかにも世間受けしそうな題材。詰めかけるのが当然だ。だが、ふたりだけではなく水舞そのものにも注目してもらわなくてはならない。解説役として水舞のコンセプトはちゃんと理解しているんだろうな?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。お姉さまに任せなさい!」
と、菜の花はお気楽そうにピースサインなど出してみせる。
あまりにも安請け合いな態度に不安しか浮かんでこないのだが、そこは藍条森也。一度、任せた以上、徹底的に任せるべきだと言うことを知っている。例えそれが『信頼する振り』だったとしても、とにかく、相手を信頼し、任せなければ信頼を返されることはない。
――まあ、失敗するにしてもデカい失敗をするためにはそれなりの能が必要だからな。無能が失敗したところで、おれがどうにも出来ない状況に陥ることはないだろう。
そういう理屈で森也は姉に任せた。
こう言うところが『妹には優しいのに……』と、言われるところなのだった。もっとも、本人に言わせれば、
「なんで、年上相手に気を使わなけりゃならんのだ」
の、一言なのだが。
「兄さん」
その妹が森也のもとにやってきた。
「こっちの準備もOK。円盤の制作、実況配信、どっちも準備できたわ」
「ああ、承知した」
森也はそう答えてから全体を見渡した。
「二回目だけあって、みんな手慣れた印象だな。余裕があるのはけっこうだが、逆に気の緩みが出て、とんだ失敗をしでかす危険もある。とくにかあら。機械担当のお前が失敗したらすべてが麻痺する。機械の故障は起こすなよ」
「わかっている」
と、富士幕府機械担当、時任かあらは答えた。
「このわたしが設計・製作した機械を、このわたし自らが動かすのだ。故障などあり得ない」
「自信はいいが、過信されるのは困るんだ。点検はくどいと思うぐらいにやっておけ」
「わかっている。わたしの愛する子供たちだ。放置するような真似はしない」
会場の席は八割方、埋まっていた。まだまだ知名度の低い富士幕府のイベントでこれだけの席が埋まったのは上出来と言えるだろう。ただ、時節柄、会場いっぱいに人を入れる、と言うわけにはいかないので、席と席の間はかなりはなれている。そのせいで、会場の半分ぐらいしか埋まっている印象がないのがさびしいところだ。
もっとも、席と席がはなれているのは『客を、距離をつめた窮屈な席に詰め込んで、ひとりでも多く入れて稼ごうという店の根性は気にいらん!』という、森也の個人的な意識もあるのだが。
客層を見てみると幼い子供を連れた若い親もけっこう多い。『幼い子供連れでも楽しめるエンターテイメント!』を強調し、宣伝を重ねた結果だろう。その分『やっぱり、小さい子供を連れてイベントに参加するなんて無茶だった』などという思いを抱かせてしまえば台無しになる。今後、本人が来なくなるのはもちろん、SNSなどで呟かれ、客足が遠のく危険もある。
そうさせないために、対策は重ねてある。
育児室も用意してあるし、急な体調の変化に対応出来るよう保健室も用意してある。医師と看護師の数も充分に確保した。さすがに、これだけの数の医療関係者を確保するのは大変だったのだが、『腕だけは』世界中から評価されている名医である四柴守のつてを使ってなんとかそろえた。
幼い子供はなにごとにつけて途中で飽きて、グズりだすのがお約束だ。そんな場合に備えてハンターキャッツの駆け出しタレント及び訓練生を総動員してミニゲームや本編以外のミニライブも用意してある。
『アメリカの野球場では観客が退屈しないよう、野球以外の楽しみも用意してある』と、聞いたことがある。ゲームのなかの単調な部分では他の楽しみに没頭し、盛りあがったところだけ観戦できるように、とのことだった。
それを参考に、メインである水舞以外の楽しみも用意した。それは『三世代で来て、誰もが自分の楽しみを見つけられるようにする』という最初からのコンセプトでもある。また、駆け出しのタレントや訓練生にとっては自分の芸を見てもらい、顔と名前を覚えてもらうための貴重なチャンスでもある。
「ま、おれもデビューまで苦労したしな。報われないのに精進している人間は、なるべく応援してやりたい」
それができる立場になったことだしな。
森也はそう語ったものである。
やがて、開演時刻となった。
会場の照明が落とされ、そのかわり、舞台の上をぼんやりとした光が包み込んだ。
まるで、暗い水中から光の差し込む水面を見上げているかのような幻想的な光景。その光に照らされるようにして魚たちが舞い踊る。音楽が鳴り響き、ステージ奥にふぁいからりーふの五人が姿を現わした。
誰も気付かない海の底。
希望の星はそこにある。
その歌い出してはじまる、このステージのために歌姫・青葉が作詞作曲した歌が唄われる。その歌声に乗せられてステージ手前のプールのなかにふたり主役、なつみと雪菜が現れる。
ふたりは歌と音楽に乗って舞いはじめる。
それは、空の一族の物語。
婚約者である姫との婚礼を控えていた鳥族の王子。しかし、嫉妬に狂った魔女の呪いによって、海に住まう魚とされてしまう。
空を舞う鳥と海に泳ぐ魚。
決して相容れない立場に分かたれた恋人たち。婚約者の姫は必死に王子の呪いを解く方法を探し求める。ようやく見つけ出した方法はしかし、王子を鳥に戻すかわりに姫を魚にするというものだった。
せっかく、王子を呪いから解き放っても今度は姫が呪いにかけられてしまう。すれ違いはつづく。それを知ったとき、姫は意を決して薬をあおった。
魔女が王子を騙して呑ませた呪いの薬。空を舞う鳥を海を泳ぐ魚にかえるその薬を。
王子と姫とは海のなかで再会し、共に魚として生きていく。そして、新たな王朝を作りあげる……。
さすがに、幼い頃からライバルとして、親友として、共にバレエの世界で生きてきたふたり。息の合い方は完璧だった。
王子役の雪菜がリードする形で姫役のなつみが水のなかで舞い、踊る。水中という浮かび、潜ることの出来る環境を生かした立体的な舞い。それはあたかも、急斜面の上にまっすぐに立つ役者たちの踊りを見ているようで、なんとも不思議な光景だった。
そのなかでなつみは王子への想い、別離の悲しみ、すれ違いの切なさ、一度は呪いを解く方法を見つけたことへの喜び、それが、新たな絶望のもとでしかなかったことを知ったときの悲痛、そして、自らも魚となることを選ぶ決心。そのすべてをあますところなく表現してのけた。
それは、いままでバレエなど見たこともないさくらでさえ、はっきりとストーリーが理解でき、姫の思いが感じられるほどの表現だった。
――やっぱり、これでよかったのね。
さくらは実況配信しながら思った。
なつみの見事な舞もすべては王子役としてなつみをリードする雪菜の存在あってこそ。なつみひとりではとてもこんな深みのある物語を舞うことは出来なかっただろう。もちろん、素人であるさくらに公演でのパートナーか務まるはずがない。
――雪菜がいてくれたよかった。
正直、突如として現れ、自分から役割を奪っていった雪菜に対しては好意的ではいられなかった。
自分よりも雪菜の方がはるかに相手役として適している。
そう頭では理解できても、心のなかにはモヤモヤが残っていた。
しかし、この素晴らしい舞を見ればそんな思いも消えていく。雪菜こそがなつみの運命の相手なのだと、素直に思うことが出来る。
――いつまでも、ふたりでお幸せに。
思わず、そんな感想をもってしまうぐらい――。
王子と姫になりきったふたりの舞は見事なものだった。
「あたしはあたしの役割を果たさなくちゃね」
人々を魅了する物語を舞うのがふたりの役割なら、その舞を多くの人に届けるのか自分の役割。自分は森也と世間を、そして、富士幕府と世間とを繋ぐ架け橋なのだから。
その思いをもって、さくらは実況配信に集中した。
ふぁいからりーふの五人が喉も裂けよとばかりに唄いつづけ、その歌声に乗ってふたりは舞う。舞いつづける。鳥であったふたりが魚となって寄り添いながら泳いで、海の底深くへと去って行く。
誰も知らない海の底。
希望の星はそこにある。
ふぁいからりーふの唄うその歌詞に乗って。
そのシーンでフィナーレとなった。
歌声が終わり、音楽が鳴りやむ。
照明が落とされる。
暗闇のなか、静かに幕がおりる。一瞬の沈黙のあと――。
起きたものは万雷の拍手だった。
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