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第一章 はじまり

保育園が出来ました 2

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 応接室の扉をノックすると、中からお父様の声が聞こえてきた。

「失礼致します」
「ああ、イザベル。と、アルフレッド? お前も一緒に来たのか」
「ヘンリー殿下と親交を深めたくてベルと共に来ました」
「そうか、そうか。ヘンリー殿下、息子が一緒でも構いませんか?」
「勿論構いませんよ」
「ありがとうございます。では、私はこれで。イザベル、アルフレッド、ヘンリー殿下に失礼のないように」
「はい、お父様」
「はい、義父上」

 お父様はそう言い残しその場を後にした。

「やぁ、イザベル嬢。ここ数ヶ月は王宮に来てもらうばかりだったからね、たまにはこちらから出向こうと思ってさ」
「そうだったのですか」
「ヘンリー、これからベルは僕と外出するところなんだ」
「ふーん、何処に行くんだ」
「新しく出来た施設の視察に行くんだ。どっかの誰かとは違ってベルと僕は遊んでいる暇がないんでね」
「やれやれ、随分な言われ様だな。じゃあ暇な私はお二人の後を着いて行くことにしよう」
「ちっ。邪魔しやがって」

 アルフ義兄様は渋々といった様子で使用人に馬車の用意を頼むと「義父上に外出の許可を取ってくる」と言い残し席を立った。
 アルフ義兄様がいなくなるとヘンリー殿下は私に話しかけてきた。

「ところで、新しい施設とは一体どんな物なんだ」
「えっと、現在アルノー領で新たな試みを取り入れている最中でして、それに関連した施設でございます」
「ほう、新たな試みとは」
「はい。現在この国では子供の教育に格差がありますが、その格差を是正しどんな子でも等しく教育を受けられるように動いている最中なのです。一つ目は低所得層向けの学園設立、二つ目は養育者が働くことを前提とした幼子を預かる施設の設立ですわ」
「ほう、教育ね。しかしなぜそこまで教育に力を入れているんだ」
「教育を適切に受けることで定職に就くチャンスが増えます。今までまともな職に付けなかった子ども達がキチンと職に付き、安定した暮らしのもとで税を納めることが出来れば、領地の税収も増え領民の生活も潤う。つまり、教育は先行投資のようなものだと考えております」
「ふむ、なるほどね。ちなみに発案者はアルフか」
「いえ、私です」
「は? イザベル嬢が考えたのか!?」

 え、なんかマズい事言ったかな。
 ヘンリー殿下の反応に、なんて返事をしようかと迷っていると、アルフ義兄様が丁度いいタイミングで戻ってきた。
 アルフ義兄様、グッジョブ。

「アルフ、丁度良かった。今日行く予定の施設は発案者がイザベル嬢なのか」
「ああ、そうだが。ベルから聞いたのか?」
「今その話をしていたんだ。そうか、イザベル嬢が……」

 ヘンリー殿下の瞳は面白い玩具を見付けた子供のように、どこかキラキラと輝いて見えた。
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