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赤の牢獄からの脱出
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縄が軋む音が、ゆっくりとした振り子のように響く。それは耳を澄ませば聞こえるかすかな音ではなく、空間そのものが発する悲鳴のような音だった。
ロープと不思議な手に支えられながら上昇する私とミレイア。けれど、視界はまるで静止したように動かない。いや、違う――動いていないのは、私の意識だろうか?
「……っ!」
息が詰まる。
視界の端に、ゆらゆらと揺れる「それ」を捉えた瞬間、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
――目。
たった一つの、巨大な目が宙に浮いていた。異様に透き通った白目と、異常なほど濃い虹彩。血走ったようにも見えるその瞳は、ただ一点、私たちを見据えていた。
瞬きすらせず、呼吸すらせず。
私は一瞬、自分が見ているものが本当に「目」なのか確信が持てなくなった。
「っ……!」
咄嗟にミレイアを強く抱きしめる。
彼女の体温が、確かに腕の中にあることを確かめながらそれでも震えが止まらなかった。
そして、目の真下。
そこには人間の形をした何かがいた。
ゆら、ゆら。規則正しい揺れ方。
まるで、人間であることをやめた者たちが、空間に浮かぶマリオネットになったような光景だった。
――いや、違う。
彼女たちは、吊られているのだ。
手ではない。腰でもない。
首のあたりに巻きつけられた縄で、ぞろぞろと列を成して繋がれ、宙に浮いていた。
「……」
かすかに視線を動かす。
彼女たちは、みな同じ顔をしていた。
それは「似ている」のではなく、まるで全員が同じ型から作られたかのような顔 。
そして、同じように感情を失った目 。
その中の一人が、かすかに首を傾けた。
ゆっくり、ゆっくりと。
私は、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。
だってその顔は、〇〇〇〇だったから――。
「……ここは〇〇なのね……今度こそ、本当にさようなら…〇〇〇〇……」
◆◆◆
眩しい光が視界を染める。
赤黒い空間を抜けた瞬間、目の前の世界がひっくり返ったようだった。
赤の牢獄は過去のものとなり、闇を抜けた私たちを包み込むのは眩しすぎるほどの光。
一瞬視界が白く霞む。
光の向こうに広がる、懐かしい世界の断片――私がいるべき場所へと戻る確信。
エリオットたちの声が響き、それがどこか遠くから、夢のように聞こえてくる。意識が現実へと引き戻されるにつれ、ああ、本当に帰れるのだと、ようやく実感が追いついた。
安堵と同時に、腕の中の温もりが、現実のものだと気づく。抱えているのは、確かにミレイアだった。震えていたあの塊は、確かに人の形を取り戻し、私にしがみついている。そのことが、どれほどの奇跡なのか。
「……大丈夫。ちゃんと戻れるよ。」
囁くように言った自分の声は、まるで誰かに言い聞かせるようだった。ミレイアだけじゃない。私自身に向けても。
けれど、その瞬間――。
するり、するりと離れていく温かなもの。
気づくと、私たちを支えていた手が、ゆっくりと下へと沈んでいく。まるで、それが初めからその運命だったかのように。まるで、使命を果たしたかのように。
――え?
目の前で起こる光景を、脳が理解しようとする。しかし心がそれを拒絶する。だって、こんなの――。
「……!」
声にならない叫びが喉の奥で詰まる。必死に手を伸ばそうとするのに、掴めるものが何もない。
視界の端に映るあの手。
私は知っている。
この手の形を。指の長さを。優しくて、強くて、誰かを包み込む温もりを持った――。
――そう
ミレイアの体を支えていたのは、かつて彼女を抱きしめていた母の手。
千切れそうなロープを掴んでいたのは、かつて彼女の手を引いていた父の手。
ミレイアの両親。
私たちを助けてくれたのは、ずっと彼女を想い続けていた人たちだった。
「待って……!」
喉が震える。どうして?どうしてそんなに静かに、私たちを見送るの?
その手は何も言わずに落ちていく。ただ、最後にわずかに動いた指先は、まるで別れを告げるかのようだった。
「……そんなの、嫌だよ…」
頬を伝う涙が、無意識のうちに溢れていた。
「娘さんは、きちんと送り届けます……だから……安心してください…」
せめて、せめてこの言葉だけでも届いてほしい。
「――ありがとうございました!!!」
私はただ、見つめることしかできなかった。光の向こうに消えていく、二人の影を。
それがどれほどの覚悟だったのかを思うと、胸が締め付けられる。ミレイアを守るために、最後の力を振り絞ってくれた。彼らは、確かに私たちを支えてくれた。
その愛情の深さに、ただ感謝するしかなかった。
ロープと不思議な手に支えられながら上昇する私とミレイア。けれど、視界はまるで静止したように動かない。いや、違う――動いていないのは、私の意識だろうか?
「……っ!」
息が詰まる。
視界の端に、ゆらゆらと揺れる「それ」を捉えた瞬間、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
――目。
たった一つの、巨大な目が宙に浮いていた。異様に透き通った白目と、異常なほど濃い虹彩。血走ったようにも見えるその瞳は、ただ一点、私たちを見据えていた。
瞬きすらせず、呼吸すらせず。
私は一瞬、自分が見ているものが本当に「目」なのか確信が持てなくなった。
「っ……!」
咄嗟にミレイアを強く抱きしめる。
彼女の体温が、確かに腕の中にあることを確かめながらそれでも震えが止まらなかった。
そして、目の真下。
そこには人間の形をした何かがいた。
ゆら、ゆら。規則正しい揺れ方。
まるで、人間であることをやめた者たちが、空間に浮かぶマリオネットになったような光景だった。
――いや、違う。
彼女たちは、吊られているのだ。
手ではない。腰でもない。
首のあたりに巻きつけられた縄で、ぞろぞろと列を成して繋がれ、宙に浮いていた。
「……」
かすかに視線を動かす。
彼女たちは、みな同じ顔をしていた。
それは「似ている」のではなく、まるで全員が同じ型から作られたかのような顔 。
そして、同じように感情を失った目 。
その中の一人が、かすかに首を傾けた。
ゆっくり、ゆっくりと。
私は、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。
だってその顔は、〇〇〇〇だったから――。
「……ここは〇〇なのね……今度こそ、本当にさようなら…〇〇〇〇……」
◆◆◆
眩しい光が視界を染める。
赤黒い空間を抜けた瞬間、目の前の世界がひっくり返ったようだった。
赤の牢獄は過去のものとなり、闇を抜けた私たちを包み込むのは眩しすぎるほどの光。
一瞬視界が白く霞む。
光の向こうに広がる、懐かしい世界の断片――私がいるべき場所へと戻る確信。
エリオットたちの声が響き、それがどこか遠くから、夢のように聞こえてくる。意識が現実へと引き戻されるにつれ、ああ、本当に帰れるのだと、ようやく実感が追いついた。
安堵と同時に、腕の中の温もりが、現実のものだと気づく。抱えているのは、確かにミレイアだった。震えていたあの塊は、確かに人の形を取り戻し、私にしがみついている。そのことが、どれほどの奇跡なのか。
「……大丈夫。ちゃんと戻れるよ。」
囁くように言った自分の声は、まるで誰かに言い聞かせるようだった。ミレイアだけじゃない。私自身に向けても。
けれど、その瞬間――。
するり、するりと離れていく温かなもの。
気づくと、私たちを支えていた手が、ゆっくりと下へと沈んでいく。まるで、それが初めからその運命だったかのように。まるで、使命を果たしたかのように。
――え?
目の前で起こる光景を、脳が理解しようとする。しかし心がそれを拒絶する。だって、こんなの――。
「……!」
声にならない叫びが喉の奥で詰まる。必死に手を伸ばそうとするのに、掴めるものが何もない。
視界の端に映るあの手。
私は知っている。
この手の形を。指の長さを。優しくて、強くて、誰かを包み込む温もりを持った――。
――そう
ミレイアの体を支えていたのは、かつて彼女を抱きしめていた母の手。
千切れそうなロープを掴んでいたのは、かつて彼女の手を引いていた父の手。
ミレイアの両親。
私たちを助けてくれたのは、ずっと彼女を想い続けていた人たちだった。
「待って……!」
喉が震える。どうして?どうしてそんなに静かに、私たちを見送るの?
その手は何も言わずに落ちていく。ただ、最後にわずかに動いた指先は、まるで別れを告げるかのようだった。
「……そんなの、嫌だよ…」
頬を伝う涙が、無意識のうちに溢れていた。
「娘さんは、きちんと送り届けます……だから……安心してください…」
せめて、せめてこの言葉だけでも届いてほしい。
「――ありがとうございました!!!」
私はただ、見つめることしかできなかった。光の向こうに消えていく、二人の影を。
それがどれほどの覚悟だったのかを思うと、胸が締め付けられる。ミレイアを守るために、最後の力を振り絞ってくれた。彼らは、確かに私たちを支えてくれた。
その愛情の深さに、ただ感謝するしかなかった。
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