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再び迷いの森へ
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迷いの森の入り口は、ひっそりと静まり返っていた。
木々は高く生い茂り、絡み合う枝葉が空を覆い尽くしている。陽の光はほとんど届かず、薄暗い霧が足元を這うように漂っていた。
風はないのに、葉がざわりと揺れる。
道らしい道はなく、どこを見ても同じ景色が広がっている。見分けのつかない木々が無数に立ち並び、そのどれもが同じように歪み、ねじれている。
私はそっと息を吸い込む。
鼻腔を満たすのは、湿った土と草の匂い。けれど、それだけじゃない。
ここを越えれば、もう戻ることはない。
「……」
私はゆっくりと息を吐いた。
「勇者様、本当に……?」
エリオットの声が、微かに震えていた。
振り返ると、彼は私を真っ直ぐに見つめていた。その瞳には迷いと、不安と、わずかに残る別れの寂しさが滲んでいる。
「……本当に行くんですね。」
ミレイアも、どこか名残惜しそうに視線を落とした。
私は、そんな二人に笑ってみせる。
「うん。もう決めたことだから。」
迷いはない。
私には帰るべき場所がある。
だから、ここで立ち止まるわけにはいかない。
けれど。
やっぱり、寂しさがないわけじゃなかった。
たった10日の滞在だったけれど、2か月以上に感じられた。この世界で過ごした日々は、確かに私の人生の一部になっていた。
「……本当に大丈夫ですか?」
ミレイアが不安そうに尋ねる。
「ここは迷いの森……世界の理すら歪むと言う伝承があります。あなたは何か感じませんか?」
私は少し考えたあと、正直に答えることにした。
「……うん。まるで、富士の樹海みたいな場所だなって思った。」
「フジノジュカイ?」
エリオットが小さく眉をひそめる。
「日本にある森のひとつだよ。広くて、静かで、入ると方向感覚が狂うことで有名な場所。……ここも、きっとそう。」
だから、私は気を抜いたら帰れなくなるかもしれない。
そうならないために――私は、ゴミ箱の端をしっかりと握る。
「でもね、私は大丈夫。」
強く、はっきりと。
「ちゃんと道は見つけたから。」
「道?」
ミレイアが驚いたように聞き返す。
私は頷いた。
「……ほら、見て!」
指差した先――そこには、森の地面にくっきりと刻まれた二本の線が伸びていた。
「これは……?」
エリオットが目を細める。
「轍だよ。ゴミ箱が動いた跡。」
それを辿れば私は帰れる。
そう確信した瞬間、心の奥がふっと軽くなった。
「……帰れるんだ、本当に。」
言葉に出すと、それがより現実味を帯びる。
「でも……」
ミレイアが、私の手をそっと握る。
「私たちは、もう二度と……」
「また会えるかもしれないし、会えないかもしれない。」
私は、ミレイアの手を優しく握り返した。
「でも、覚えていてくれれば、それでいいんじゃない?」
たとえ世界が違っても。
たとえもう二度と会えなくても。
私は、ここで過ごした時間を決して忘れない。そして――
「それにね。」
私は笑ってみせる。
「…もしまた会えたら、その時は美味しい夕ご飯をご馳走してよ!」
「……ふふっ、わかりました。」
ミレイアが、涙をこらえるように微笑んだ。エリオットも静かに頷く。
「では、お気をつけて……」
彼は深く頭を下げた。
私はもう一度、二人の顔を見た。
そして、ゴミ箱を押して森の中へと足を踏み入れた。
轍を辿りながら、私は小さく呟く。
「……さあ、一緒に帰ろうか。」
この森から始まった旅の終わりが、もうすぐそこに見えていた。
木々は高く生い茂り、絡み合う枝葉が空を覆い尽くしている。陽の光はほとんど届かず、薄暗い霧が足元を這うように漂っていた。
風はないのに、葉がざわりと揺れる。
道らしい道はなく、どこを見ても同じ景色が広がっている。見分けのつかない木々が無数に立ち並び、そのどれもが同じように歪み、ねじれている。
私はそっと息を吸い込む。
鼻腔を満たすのは、湿った土と草の匂い。けれど、それだけじゃない。
ここを越えれば、もう戻ることはない。
「……」
私はゆっくりと息を吐いた。
「勇者様、本当に……?」
エリオットの声が、微かに震えていた。
振り返ると、彼は私を真っ直ぐに見つめていた。その瞳には迷いと、不安と、わずかに残る別れの寂しさが滲んでいる。
「……本当に行くんですね。」
ミレイアも、どこか名残惜しそうに視線を落とした。
私は、そんな二人に笑ってみせる。
「うん。もう決めたことだから。」
迷いはない。
私には帰るべき場所がある。
だから、ここで立ち止まるわけにはいかない。
けれど。
やっぱり、寂しさがないわけじゃなかった。
たった10日の滞在だったけれど、2か月以上に感じられた。この世界で過ごした日々は、確かに私の人生の一部になっていた。
「……本当に大丈夫ですか?」
ミレイアが不安そうに尋ねる。
「ここは迷いの森……世界の理すら歪むと言う伝承があります。あなたは何か感じませんか?」
私は少し考えたあと、正直に答えることにした。
「……うん。まるで、富士の樹海みたいな場所だなって思った。」
「フジノジュカイ?」
エリオットが小さく眉をひそめる。
「日本にある森のひとつだよ。広くて、静かで、入ると方向感覚が狂うことで有名な場所。……ここも、きっとそう。」
だから、私は気を抜いたら帰れなくなるかもしれない。
そうならないために――私は、ゴミ箱の端をしっかりと握る。
「でもね、私は大丈夫。」
強く、はっきりと。
「ちゃんと道は見つけたから。」
「道?」
ミレイアが驚いたように聞き返す。
私は頷いた。
「……ほら、見て!」
指差した先――そこには、森の地面にくっきりと刻まれた二本の線が伸びていた。
「これは……?」
エリオットが目を細める。
「轍だよ。ゴミ箱が動いた跡。」
それを辿れば私は帰れる。
そう確信した瞬間、心の奥がふっと軽くなった。
「……帰れるんだ、本当に。」
言葉に出すと、それがより現実味を帯びる。
「でも……」
ミレイアが、私の手をそっと握る。
「私たちは、もう二度と……」
「また会えるかもしれないし、会えないかもしれない。」
私は、ミレイアの手を優しく握り返した。
「でも、覚えていてくれれば、それでいいんじゃない?」
たとえ世界が違っても。
たとえもう二度と会えなくても。
私は、ここで過ごした時間を決して忘れない。そして――
「それにね。」
私は笑ってみせる。
「…もしまた会えたら、その時は美味しい夕ご飯をご馳走してよ!」
「……ふふっ、わかりました。」
ミレイアが、涙をこらえるように微笑んだ。エリオットも静かに頷く。
「では、お気をつけて……」
彼は深く頭を下げた。
私はもう一度、二人の顔を見た。
そして、ゴミ箱を押して森の中へと足を踏み入れた。
轍を辿りながら、私は小さく呟く。
「……さあ、一緒に帰ろうか。」
この森から始まった旅の終わりが、もうすぐそこに見えていた。
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