19 / 91
【番外編】大蜘蛛レンの愉悦
しおりを挟む
──ちょっとした出会いが、人生を変えちまう事ってあるんだな。
俺はつくづく、そう思う。
特に最近は、そう思わされることばかりだ。
たとえば、クロード。
元は俺と同じ蜘蛛だったくせに、今じゃすっかり人間になって、貴族の執事をやっていた。
しかもその家の令嬢と結婚して婿入りまで果たし、貴族社会で悠々と暮らしているんだから、まったくもって驚きだ。
いや、それどころかアイツ、普通に紅茶を淹れたり、料理を作ったり、騎士団長を手玉に取ったりしてるんだから、もう意味がわからねえ。
クロードと俺は元々同じ蜘蛛だった。
それなのに、どうしてこうも違う道を歩んでるんだろうな。
俺は今もこうして森の中で、大蜘蛛として生きている。
誰にも気兼ねすることなく、気の向くままに巣を張り、森の風を感じながら生きるのは悪くねえ。
……だけど、たまに思うことがある。
もしも、俺もクロードみたいに人間になれたら──
それは、それで面白いのかもしれねえな。
そう考えるようになったのは、騎士団長ウィルと知り合ってからかもしれない。
最初の出会いは最悪だった。
俺はただ古巣を借りて暮らしてただけなのに、「化け蜘蛛討伐」の名の下に剣を向けられた。
おいおい、待てよ、と言いたかったが、あの時のウィルは本気だった。
まあ、勘違いも無理はねえ。俺みたいなデカい蜘蛛が、人気のない森で巣を張ってたら、そりゃ化け物扱いもされるだろうよ。
けど、いざ話してみたら、アイツはそこまで悪いやつじゃなかった。
最初は渋々だったが、事情を説明したら納得してくれたし、その後もこうして森に顔を出すようになった。
クロードの差し入れを持ってくるついでに、どうでもいい世間話をしていく。
それがいつの間にか、俺にとってちょっとした楽しみになっていた。
だから、ふと思うんだよな。
──もし、俺も人間になったら?
ウィルと同じ目線で会話できるようになったら?
アイツの剣を間近で見たり、騎士の訓練に付き合ったり、酒を飲んだりできるようになったら?
なんだか、悪くねえ気がする。
森の暮らしは嫌いじゃねえ。
むしろ快適だし、自由だ。
だけど、人間として生きるってのも、案外楽しいのかもしれねえな……って、最近思うようになった。
クロードは元蜘蛛だった。
なら、俺もそうなれる可能性がないわけじゃねえよな?
──ただ、一つだけ問題がある。
ウィルは、俺が人間になったら驚くだろう。
いや、間違いなく驚く。
そりゃそうだ。森に住む巨大な蜘蛛が、ある日突然、人間の姿になって現れたら、誰だって驚く。
でも、ウィルが本当に驚くのはそこじゃねえ。
そう、なぜなら──
俺は、メスの大蜘蛛だからな。
こればっかりは、どう説明してもアイツの理解を超える気がする。
俺のことを“クロードに殺されかかった男同士”みたいに思ってるフシがあるしな。
もし俺が人間の姿になったら、間違いなくウィルはこう言うだろう。
「ま、まさか……お前、レンなのか!? いや、そもそも……女性!??」
その顔を想像すると、どうしても笑っちまう。
アイツの驚きっぷりが目に浮かぶんだよな。
いや、そもそもクロードも俺の性別に気づいてるのか?
……いや、アイツは気づいてそうだな。
最初から知っていて、黙って楽しんでる可能性がある。
まあ、そんなことはどうでもいい。
問題は、俺が人間になったらどうなるか、だ。
クロードみたいにスラリとした優雅な姿になるのか?
それとも、森に住む魔女みたいな妖艶な姿になるのか?
どっちにせよ、ウィルの反応は楽しみすぎる。
アイツが頭を抱えて「何がどうなってるんだ……」って混乱する姿が、今から目に浮かぶ。
いやー、見てみてえな。
でも、どうだろうな。
俺は、今のままでも楽しい。
クロードみたいに人間の社会で生きるのも悪くないが、俺は俺のままで、こうしてウィルとたまに話したり、クロードの甘露煮を食ったりするのが、案外性に合ってる気がする。
人間になれたら面白いかもしれねえ。
でも、ならなくても、今のままで十分楽しい。
まあ、気が向いたら考えてみるか。
──その日が来たら、ウィルの顔がどんなふうに引きつるのか、今から楽しみだぜ!
俺はつくづく、そう思う。
特に最近は、そう思わされることばかりだ。
たとえば、クロード。
元は俺と同じ蜘蛛だったくせに、今じゃすっかり人間になって、貴族の執事をやっていた。
しかもその家の令嬢と結婚して婿入りまで果たし、貴族社会で悠々と暮らしているんだから、まったくもって驚きだ。
いや、それどころかアイツ、普通に紅茶を淹れたり、料理を作ったり、騎士団長を手玉に取ったりしてるんだから、もう意味がわからねえ。
クロードと俺は元々同じ蜘蛛だった。
それなのに、どうしてこうも違う道を歩んでるんだろうな。
俺は今もこうして森の中で、大蜘蛛として生きている。
誰にも気兼ねすることなく、気の向くままに巣を張り、森の風を感じながら生きるのは悪くねえ。
……だけど、たまに思うことがある。
もしも、俺もクロードみたいに人間になれたら──
それは、それで面白いのかもしれねえな。
そう考えるようになったのは、騎士団長ウィルと知り合ってからかもしれない。
最初の出会いは最悪だった。
俺はただ古巣を借りて暮らしてただけなのに、「化け蜘蛛討伐」の名の下に剣を向けられた。
おいおい、待てよ、と言いたかったが、あの時のウィルは本気だった。
まあ、勘違いも無理はねえ。俺みたいなデカい蜘蛛が、人気のない森で巣を張ってたら、そりゃ化け物扱いもされるだろうよ。
けど、いざ話してみたら、アイツはそこまで悪いやつじゃなかった。
最初は渋々だったが、事情を説明したら納得してくれたし、その後もこうして森に顔を出すようになった。
クロードの差し入れを持ってくるついでに、どうでもいい世間話をしていく。
それがいつの間にか、俺にとってちょっとした楽しみになっていた。
だから、ふと思うんだよな。
──もし、俺も人間になったら?
ウィルと同じ目線で会話できるようになったら?
アイツの剣を間近で見たり、騎士の訓練に付き合ったり、酒を飲んだりできるようになったら?
なんだか、悪くねえ気がする。
森の暮らしは嫌いじゃねえ。
むしろ快適だし、自由だ。
だけど、人間として生きるってのも、案外楽しいのかもしれねえな……って、最近思うようになった。
クロードは元蜘蛛だった。
なら、俺もそうなれる可能性がないわけじゃねえよな?
──ただ、一つだけ問題がある。
ウィルは、俺が人間になったら驚くだろう。
いや、間違いなく驚く。
そりゃそうだ。森に住む巨大な蜘蛛が、ある日突然、人間の姿になって現れたら、誰だって驚く。
でも、ウィルが本当に驚くのはそこじゃねえ。
そう、なぜなら──
俺は、メスの大蜘蛛だからな。
こればっかりは、どう説明してもアイツの理解を超える気がする。
俺のことを“クロードに殺されかかった男同士”みたいに思ってるフシがあるしな。
もし俺が人間の姿になったら、間違いなくウィルはこう言うだろう。
「ま、まさか……お前、レンなのか!? いや、そもそも……女性!??」
その顔を想像すると、どうしても笑っちまう。
アイツの驚きっぷりが目に浮かぶんだよな。
いや、そもそもクロードも俺の性別に気づいてるのか?
……いや、アイツは気づいてそうだな。
最初から知っていて、黙って楽しんでる可能性がある。
まあ、そんなことはどうでもいい。
問題は、俺が人間になったらどうなるか、だ。
クロードみたいにスラリとした優雅な姿になるのか?
それとも、森に住む魔女みたいな妖艶な姿になるのか?
どっちにせよ、ウィルの反応は楽しみすぎる。
アイツが頭を抱えて「何がどうなってるんだ……」って混乱する姿が、今から目に浮かぶ。
いやー、見てみてえな。
でも、どうだろうな。
俺は、今のままでも楽しい。
クロードみたいに人間の社会で生きるのも悪くないが、俺は俺のままで、こうしてウィルとたまに話したり、クロードの甘露煮を食ったりするのが、案外性に合ってる気がする。
人間になれたら面白いかもしれねえ。
でも、ならなくても、今のままで十分楽しい。
まあ、気が向いたら考えてみるか。
──その日が来たら、ウィルの顔がどんなふうに引きつるのか、今から楽しみだぜ!
10
あなたにおすすめの小説
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。
佐藤 美奈
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。
そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。
キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。
でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。
最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。
誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。
「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。
男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。
今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
妾に恋をした
はなまる
恋愛
ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。 そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。
早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。
実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。
だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。
ミーシャは無事ミッションを成せるのか?
それとも玉砕されて追い出されるのか?
ネイトの恋心はどうなってしまうのか?
カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる