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交差する視線──『それぞれの想い、それぞれの誠意』
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──人は知らず知らずのうちに、誰かを傷つけ、誰かに救われている。
だからこそ、今ここで、きちんと顔を上げなければならない。それが、向き合うということなのだから。
着替えを済ませ、書斎の前に立った私は一度ゆっくりと深呼吸をした。
扉の前でわずかに躊躇する。伯爵への謝罪と、自分自身の気持ちを整理するための、ほんの短い時間だった。
扉を軽くノックすると、すぐに伯爵の声が返ってきた。
「入りたまえ」
私は静かに扉を押し開けた。その瞬間、私の視線は書斎の中で穏やかに座っている二人の姿を捉え、心臓が大きく跳ね上がった。
伯爵の正面に座っていたのは、紛れもなく私の妻──アトラだった。彼女はいつものように静かな佇まいで、私に涼やかな瞳を向けている。その視線に捕らえられ、私は一瞬呼吸を忘れそうになった。
「アトラ……」
驚きが声に滲み出てしまった。予期しない妻との再会に、私の頭の中は真っ白になりかけていた。
「クロード、元気そうね」
アトラは微笑を浮かべて言った。その表情に怒りや悲しみは見えなかったが、それがかえって私の胸を締め付けた。
伯爵が申し訳なさそうな表情で私に向き直った。
「君がいなくなったことで、私は慌ててしまってね。すぐに男爵家に使いを出し、奥方に来てもらったのだよ。かえって心配をかけてしまったようで、面目ない」
伯爵の低い声が、静かな書斎の空気をゆるやかに揺らす。私はすぐさま深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、伯爵様。ご心配をおかけしてしまって……アトラにも、本当にすまないことをした」
私が謝罪の言葉を口にすると、アトラはゆっくりと首を振った。
「大体の事情は聞きました。クロード、あなたが謝る必要はないわ。あなたは何も悪くないもの」
その言葉を聞いた伯爵は、苦い表情を浮かべて小さくため息をついた。
「いや、奥方の言うとおりだよ。すべては私と娘の浅はかな考えのせいだ。本当に申し訳ない」
伯爵の深い謝罪に、私は胸の奥で小さな痛みを感じた。彼の真摯な言葉に、何と返していいのか迷いながらも、私はただ静かに耳を傾けるしかなかった。
するとアトラが静かな、だが芯の通った声で言葉を継いだ。
「伯爵様、私は怒ってなどいません。それよりも驚いたのは、幼馴染のティタがそんな状況になっていると聞いたことです。私もしばらく会っていなかったから、知らなかったわ」
アトラの視線が一瞬、私を貫くようにして見つめてくる。彼女の瞳は何もかもを見透かすように澄んでいた。
「前回の勝負は、『お互い』公平ではありませんでした。伯爵様が侯爵夫人に根回しをされていたことも、クロードが実力を隠していたことも、双方に問題があったと思います」
アトラの静かな告白に、私の胸が大きく跳ね上がった。妻はやはりすべてを見抜いていたのだ。私が隠していた思惑すらも、彼女の前では無意味だということを改めて痛感した。
「だからこそ、改めて再勝負をしてはいかがでしょうか? 今度こそ、お互い正々堂々と向き合って」
彼女の提案に、伯爵はゆっくりと頷いた。
「確かに、奥方の言う通りだな。私も少々やりすぎてしまった。クロード君、君はどうだろうか?」
伯爵が私に視線を送る。私は深呼吸をして、静かな決意を込めて返答した。
「伯爵様、そしてアトラ。二人がそう仰るのなら、私に異存はありません」
アトラは小さく微笑んだ。その笑顔がなぜかとても懐かしく、そして温かく感じられた。
「それでいいわ、クロード。あなたが本当に全力を出せば、結果はどうであれ悔いは残らないでしょう?」
彼女の言葉に私は小さく頷き、再び決意を新たにする。
──今度こそ、何も隠さず、全力で向き合おう。
書斎の窓から差し込む柔らかな光が、私たち三人を優しく包み込んでいた。
だからこそ、今ここで、きちんと顔を上げなければならない。それが、向き合うということなのだから。
着替えを済ませ、書斎の前に立った私は一度ゆっくりと深呼吸をした。
扉の前でわずかに躊躇する。伯爵への謝罪と、自分自身の気持ちを整理するための、ほんの短い時間だった。
扉を軽くノックすると、すぐに伯爵の声が返ってきた。
「入りたまえ」
私は静かに扉を押し開けた。その瞬間、私の視線は書斎の中で穏やかに座っている二人の姿を捉え、心臓が大きく跳ね上がった。
伯爵の正面に座っていたのは、紛れもなく私の妻──アトラだった。彼女はいつものように静かな佇まいで、私に涼やかな瞳を向けている。その視線に捕らえられ、私は一瞬呼吸を忘れそうになった。
「アトラ……」
驚きが声に滲み出てしまった。予期しない妻との再会に、私の頭の中は真っ白になりかけていた。
「クロード、元気そうね」
アトラは微笑を浮かべて言った。その表情に怒りや悲しみは見えなかったが、それがかえって私の胸を締め付けた。
伯爵が申し訳なさそうな表情で私に向き直った。
「君がいなくなったことで、私は慌ててしまってね。すぐに男爵家に使いを出し、奥方に来てもらったのだよ。かえって心配をかけてしまったようで、面目ない」
伯爵の低い声が、静かな書斎の空気をゆるやかに揺らす。私はすぐさま深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、伯爵様。ご心配をおかけしてしまって……アトラにも、本当にすまないことをした」
私が謝罪の言葉を口にすると、アトラはゆっくりと首を振った。
「大体の事情は聞きました。クロード、あなたが謝る必要はないわ。あなたは何も悪くないもの」
その言葉を聞いた伯爵は、苦い表情を浮かべて小さくため息をついた。
「いや、奥方の言うとおりだよ。すべては私と娘の浅はかな考えのせいだ。本当に申し訳ない」
伯爵の深い謝罪に、私は胸の奥で小さな痛みを感じた。彼の真摯な言葉に、何と返していいのか迷いながらも、私はただ静かに耳を傾けるしかなかった。
するとアトラが静かな、だが芯の通った声で言葉を継いだ。
「伯爵様、私は怒ってなどいません。それよりも驚いたのは、幼馴染のティタがそんな状況になっていると聞いたことです。私もしばらく会っていなかったから、知らなかったわ」
アトラの視線が一瞬、私を貫くようにして見つめてくる。彼女の瞳は何もかもを見透かすように澄んでいた。
「前回の勝負は、『お互い』公平ではありませんでした。伯爵様が侯爵夫人に根回しをされていたことも、クロードが実力を隠していたことも、双方に問題があったと思います」
アトラの静かな告白に、私の胸が大きく跳ね上がった。妻はやはりすべてを見抜いていたのだ。私が隠していた思惑すらも、彼女の前では無意味だということを改めて痛感した。
「だからこそ、改めて再勝負をしてはいかがでしょうか? 今度こそ、お互い正々堂々と向き合って」
彼女の提案に、伯爵はゆっくりと頷いた。
「確かに、奥方の言う通りだな。私も少々やりすぎてしまった。クロード君、君はどうだろうか?」
伯爵が私に視線を送る。私は深呼吸をして、静かな決意を込めて返答した。
「伯爵様、そしてアトラ。二人がそう仰るのなら、私に異存はありません」
アトラは小さく微笑んだ。その笑顔がなぜかとても懐かしく、そして温かく感じられた。
「それでいいわ、クロード。あなたが本当に全力を出せば、結果はどうであれ悔いは残らないでしょう?」
彼女の言葉に私は小さく頷き、再び決意を新たにする。
──今度こそ、何も隠さず、全力で向き合おう。
書斎の窓から差し込む柔らかな光が、私たち三人を優しく包み込んでいた。
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