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第2章  二人の旅人

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「まあ、そこのソファーに座ってくれたまえ」

 バルトが、来客用のソファーを指差す。黒の綺麗なソファーであり、汚れても目立たないようになっている。

 ボーデンとラミアはソファーに座り、向かい側にバルトがどっしりと構えた体勢で座る。エルザが出来立てのコーヒーをテーブルの上に四つ並べると、バルトの隣にゆっくりと座る。

 湯気ゆげが立つコーヒーに、ボーデンは砂糖と牛乳を追加して、スプーンでかき混ぜた。

「君は未だにブラックで飲めないのかね」

「すみませんね、まだ、子供なので……」

 ボーデンはコーヒーを飲む。

 一息ついたところで、バルトが話の本題に入る。

「さて、物は言いようだが貴様の隣にいる女は一体何者だ?」

 少し殺気を放つバルト。周りの空気に緊張が走る。沈静して数秒後、ボーデンではなくラミアが口を開く。

「貴様は誰に向かって言っておる……」

 いつもの話口調ではない。少し、偉そうに上から目線で言う。

「妾を誰だと思っておるのだ?」

 ラミアは、睨みつけながら不敵な笑みを浮かべる。

 それを隣で見ていたボーデンは、黙ったまま何も言わずにただ、コーヒーを飲み続ける。

「この瞳を見ても判らぬか?」

 ラミアは、青い瞳を赤い瞳に変化させ、口を開き、吸血鬼である証拠の歯を見せる。二人は、ラミアの素顔を見て、驚き、真剣な表情を見せる。

「きゅ……吸血鬼……」

「嘘でしょ……」

 二人は驚くあまり、つい、言葉を漏らす。

 自分たちの身近に吸血鬼が存在している事が珍しい。人間にとって、吸血鬼は恐れられるものである事は、誰もが知っている。そして、人間と共存している吸血鬼なんて、自分達の目で実際に見た事がない。しかも、実際の吸血鬼が人間と同じ姿である事にも驚いていた。

「––––と、まあ、堅苦しい口調も面倒だから、普通に話しても良いわよ。さっきは試してみただけだから……」

 ラミアは、楽な姿勢になり、微笑んだ。

 二人は驚いたせいで、コーヒーを何度もの見直しをしながら気持ちを落ち着かせる。

「吸血鬼だったとは、驚きだったな……。これはこれで後々面倒になるな。俺の方でも対処できるかどうかも難しいぞ」

 バルトは、エルザの方をチラッと見る。
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