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第3章  闇の奥底

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 エルザは眼鏡を触る。

「そうだったの。貴方が眼鏡を掛けている姿を見たからかしら? ちょっと違和感を持ったから……」

 ラミアは服を着終えると、髪をバッ、と払い、髪の毛一本も服の中に残さずに外に出した。

「それよりも出発時刻は午前九時十分発のメルシュヴィル行きの列車です。何本か乗り継いでもらいますので、これを……」

 エルザがボーデンに何かを渡す。

「それはメルシュヴィルまでの乗り継ぎとそれまでの泊まる宿の名前です。三泊四日を考えていますので、こちらで全て手配しました。全て、バルト少佐の自前で……」

「え⁉︎ あの少佐しょうさが自腹を!」

 ボーデンはそれを聞いて驚いた。

「そんなわけないでしょ。私が勝手に仕事としてのペナルティーとしてやったので、半ば強引に契約をさせたと言ってもいいでしょう。だから、あの人に礼なんて言わなくていいですから……。それよりも早く、朝食にしましょう。暖かく、美味しいご飯ができていますよ」

 エルザは、笑顔で言った。

 彼女のお世話がかりは、ボーデン達が旅立つまでの護衛としての任務でいるのだろう。出来のない上司を持って、悩んでいる中、ボーデン達にもよくしてくれる本当に出来た人なのだ。

 部屋を出て、食堂へと向かう。

 食堂には、多くの軍人が朝食を取っており、何やら色々と話している。

 三人は、食堂のおばちゃんから用意された朝食を受け取り、端っこの席に座る。パンにスープ、目玉焼き、ベーコンなど、栄養がバランスよく取れたものばかりである。

「エルザさんは、いいんですか?」

「何がですか?」

「早く、少佐よりも上の階級に進みたくないのかと思って……」

 ボーデンが心境を訊いてみる。

 エルザは、コーヒーを少し口の中に含み、喉を潤す。

「そうですね。実際は、上に行きたいですよ。でも、あの人はおそらく、私以外の人が直近にいたら、すぐ辞められ、仕事が今以上に増えるでしょうね。だから、行きたくても行けないんですよ」

 エルザは溜息をつく。

「それもそうですね。少佐は、魔法に関する事以外は本当に何も出来ませんし……」

 ボーデンもそれを訊いて納得する。

「でも、貴方。一生、それで終わるつもりは無いんでしょ?」

 ラミアが、話に入ってくる。
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