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第3章  闇の奥底

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 一日目は、この列車で終点の南西の駅まで行き、乗り換えて、南の駅を目指す。

 ようやく三番線のホームに入り、三両目の入り口の前に立つと、二人はエルザと向き合う。

「二人共、くれぐれも気を付けて、旅をしてきてね」

「はい」

「ええ」

 二人は返事をする。

 列車の発車時刻まで残り五分を過ぎていた。人々がどんどん乗車していく。

「行って来なさい。また、この地で会える事を願っているわ」

 エルザが笑顔で二人を見送ると、列車に乗り込み、咳が向かい側になっている席に二人は座った。

「エルザさん、お世話になりました」

「貴方、ちょっと耳を貸して貰える?」

 ラミアはエルザを手招きする。耳元に手を添えて、小声で何やら話をしている。

「次、私たちが来る頃には、少しは進展しておきなさいよ」

 と、甘い言葉とからかいの言葉が入り混じっていた。

 エルザの頰が赤くなる。

 ピッ、ピィイイイイイイイイ!

 列車の発車する為の駅員が鳴らす汽笛《きてき》が聞こえた。

「それじゃあ、いつか、また会いましょうね!」

 ラミアは、微笑んで列車は走り始めた。エルザは、固まったままただ、こっちを見ているだけで、手を振ってはくれなかった。

 列車はサールバーツの街を走り抜け、荒野《こうや》へと乗り込んで行く。

「さっき、エルザさんになんて言ったんだ?」

 窓の外の景色を見ながらボーデンは、ラミアに訊く。

「何も言っていないわよ。ただ、また会いましょうって言っただけよ」

「そうか……」

 ボーデンはそれっきり何も話さなかった。

 列車は汽笛を鳴らしながらぐんぐんと速度を上げて行く。誰もいない荒野の中で、たった一つの列車が目立っていた。


     ×     ×     ×


「今、対象者に動きがありました。動きますか?」
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