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第3章  闇の奥底

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 と、報告があった。

「そうですね。まだ、動かなくてもいいでしょう。時間はたっぷりあります。我々の目的は、彼の足止めをする事、決して殺してはならない。世界で貴重な人材ですからね……」

 男は、暗闇の中で言った。

 周りには真っ暗で、今、どこに誰がいるのか把握出来ないほどである。

「でも、戦いは、私一人で行きます。邪魔はしないで、ここで待機しておきなさい」

「はっ!」

 男に言われた部下らしき人物は、返事をして姿を消した。

「さて、私も動くとしましょうか。あの方にいい報告が出来るように頑張りましょう……」

 男は、小声で笑った。



     ×     ×     ×



 列車はサールバーツから移動を始めて、三時間経っていた。

 それまでの区間で十五駅程停車しながら南を目指して、走り続けている。お昼も過ぎ、列車内では車内販売をしており、昼食用に弁当とお茶を買う。

「うーん。この弁当は、まあまあだな。味が薄いのか、濃ゆいのか、分かりずらい……」

 ボーデンは、弁当を食べながら文句を言っていた。旅を始めて三時間、座ったままの状態で、何一つも運動しないでいると、イライラは溜まっていく。

「私は、こういう味も好きよ。人間の食べ物は、様々な種類があって面白いわ」

 楽しそうに弁当を食べているラミア。

「これ、本当に美味しいか?」

「ええ、美味しいわ。貴方の味覚の方がおかしいんじゃないの?」

「いや、絶対にお前の方がおかしい……」

 ボーデンは笑顔を見せるラミアを見て、苦笑いする。

 本当にこの弁当は、あまり美味しくないのだ。肉の焼き加減もバラバラで、野菜の味付けも微妙な所である。お茶の方は普通の味で、食べられない事はない。

 列車はベルナウで停車し、通過していく。

「この街も懐かしいな……」

「ええ、ここはここで面白かったわ……」

 二人共、遠く見た夢のような目で、ベルナウの街の景色を走る列車の中で眺めていた。
 ベルナウにある時計塔の鐘がなり、鳥達が音に反応して空へ飛び立つ。

 そろそろ、列車の移動も中盤《ちゅうばん》へと差し掛かっていた。

 暖かい風が、南に進んで行くたびに車内の温度を少しずつ上げて行く。
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