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第3章  闇の奥底

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「分かった。ちょっとしたトラップでも仕掛けておくさ」

 ボーデンは、荷物を置いている席に小さな魔法陣を描く。他にもメモ帳に似たような魔法陣を描き、人から見えない死角になる場所に張り巡らせる。

 国際魔法師のボーデンにとっては、罠を仕掛けるのは、朝飯前である。

「これでいいだろう……」

 魔法陣を張り巡らせた後、いつでも魔法を発動できるようにしておく。

「ええ、それくらいだったら周りの人にも迷惑はかからないわ。でも、戦うんだったら上でやってよね」

「ああ、分かっているよ。俺からは仕掛けずに、動きがあれば自動的に場所を転送できるようにしてある。俺に何かあったらサポートを頼むぞ」

「はいはい」

 二人に歩み寄る、不気味な影はこちらを睨みつけたまま動こうとしない。

 このまま安全に旅を続けられば、周りに危害を加えなくて済む。



 一方、その頃––––

「ふむふむ、この列車に彼が乗っているのですね。さてさて、向こうに気づかれたようですし、動こうにも動けませんねぇ。まったく困ってものです。どうしましょうか……」

 黒髪に黒のスーツ、黒の帽子をかぶった男が、不気味な笑みを浮かべながら、次の一手を考えていた。

「相手は国際魔法師と、もう一人は……一般人? んー、これだけでは分かりませんね。こちらから仕掛けるのは、少し不利になるかも知れませんが、致し方ないですね」

 男は、自問自答で頷きながら、思考を巡らせる。

 風が強く吹いている。一つでも気を抜けば、体が持っていかれそうなスピードを保っている。

 空は、雲が少しずつ多くなっていき、太陽が隠れ始める。

 男がいる場所は車内ではなく、列車の上なのだ。

「それじゃあ、乗客を使って、一つ、手を打ってみましょう。『夢見る少女は、裏切らない』と言ったのは一体誰でしょうね」

 男はしゃがみ込んで、後ろの車両にある屋根に右手を置いた。

「さあ、遊ぼうか」

 男は、魔法を発動させた。



「––––‼︎」

「‼︎」

 二人は目を覚まして、男の張り巡らせた魔法に反応する。
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