私の通っている女子校はデカすぎる!

藤田大腸

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生徒会補佐のお仕事

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 生徒会補佐という名目の雑用係に命じられてはや一ヶ月、猛威をふるった暑さがようやく落ち着いた頃であった。

「ユズ、痩せた?」

 登校直後、自分の席でボーッとしてたら石田萌ちゃんに声をかけられた。

「まあ、ちょっとだけ」
「ちょっと? だいぶやつれて見えるけど」
「だって生徒会の仕事がしんどいもーん」

 フザケ気味に弱音を吐いて机に突っ伏したけど、仕事がしんどいのは事実だった。

 昨日は高等部専門科校舎群まで二往復でおつかいに走らされて、さらに書類整理を下校時間ギリギリまでやらされた。一昨日は広報委員会が出す広報誌の誤字脱字チェックの手伝いで目を酷使した。三日前は環境委員会の側溝清掃活動に同行して記録用写真を撮影してたけど、外周が長すぎるから委員総動員でも下校時間までかかってしまい、その間私はずーっと歩きっぱなしだった。歩くのは好きだけど、仕事となると一気に苦行に変わるのは何でだろう?

「生徒会の補佐って先輩たちに認められないとなれないんでしょ? それでやることが雑用ってのは……」
「共通商品券が貰えるから頑張る」

 カフェテリアと校内ストアで使える共通商品券は結構な金額分になる。目の前にぶら下げられたニンジンを追いかけて走っているお馬さんと思えばまあ、乗り切れるだろう。それに部活動などで私よりしんどい思いをして、それでいて特に何もリターンを得られない生徒たちの方が多いから文句は言っていられない。もっとも、高等部から強化指定部活動のスカウトを受けて推薦入学した生徒たちは学費免除という大きなメリットはあるけれど。

「ま、過労死しないでね。ユズが死んだらあたしも後を追うから」
「冗談でもそんなこと言わない」
「はーい、今後気をつけまーす」

 だるいやり取りをしていたら「皆のもの、席につけーい」とこれまたダルそうな声がした。

 三年十六組の担任、馬原奈美恵まはらなみえ先生は堂々と大きなあくびをしてから「最初に要注意事項があるから耳かっぽじってよく聞いとくように」と言った。

「昨晩、この平和でのどかな藤ノ原町で変質者が出没した。バラの花を持っていてパンツ一丁の姿で『俺に一輪挿ししてくれぇ~』とのたまってたらしい」

 教室内が大爆笑に包まれた。私も噴き出してしまい、鼻水も出そうになった。

「どこに一輪挿しするんだろ」

 と誰かがボソッと呟いたのを聞き取った馬原先生は「そりゃケツだろ」と大声で言うから、もう私含めてみんなエサを投げ込まれたサルみたいの声で大笑いしていた。

「静かにしろ!!」

 十五組の担任、長崎先生が怒鳴り込んできた。

「馬原先生、あんたがちゃんと注意しないとダメだろ!」
「はーい、すみませーん」
「まったく!」

 長崎先生は私たちを睨みつけながらドアをバンッと閉めて出ていった。馬原先生は犬みたいに歯を剥いてドアの向こう側に中指を立てたから、また笑いそうになってしまった。

 馬原先生はめっちゃいい加減でだらしないとはいえ、教師風を吹かさず私たち目線に近いから生徒人気は高い。

「はい、まあ今日はなるべく集団で帰るようにな。自転車通学組は変質者を轢いてやろうなんて考えずとにかく逃げて警察に通報すること。三十六計逃げるに如かず、って言うしな。寮生は敷地から出ないように。以上要注意事項伝達終わり。今日の一時間目は何の授業だっけ?」

 私と目があったので、「数学です」と答えた。

「ありゃー、長崎先生か……最初にグチグチ言ってくるだろうけど、神妙なフリだけはしときなよ。何で笑ったんだって聞かれたら馬原先生に笑わされたって言うんだぞ」

 こういうところはやっぱり教師だなと思う。来年私たちが高等部に上がった後も授業してくれないかな。

 *

 放課後、生徒会室に入ると天王寺谷千尋副会長が王子様スマイルを撒き散らして寄ってきた。

「やあ下雅意。お疲れ様」

 封筒を手渡された。そこには「手当」と書かれている。ついに……?

「あっ、開けてもいいですか?」
「どうぞどうぞ」

 開封して、中を覗いてみた。

「うわっ」

 やはり、共通商品券が入っていた。書かれている金額は世間一般から見て安い方だが、カフェテリアと校内ストアはもともと一般の店より安い値段で物が売られているから、この金額でもじゅうぶんに払える。一ヶ月間まるまる共通商品券だけでお昼ごはんとちょっとした物の購入ができる分だけの枚数が目の前にあった。

「こんなに……?」
「ますます労働意欲が湧いてきただろう」
「はい!」

 疲れが吹っ飛んでしまった。

「では早速仕事をあげよう。外までおつかいを頼む」

 続いて手渡されたのはメモだった。

「ヘブンズスメルプレミアムシトラス三個セット? なんですかこれ?」
「会議室で使う芳香剤さ。校内ストアでは売ってないちょいとお高いやつなんでね、ホームセンターまでひとっ走りしてきて買ってきてほしい」

 正門から出て国道を東に進めばホームセンターがある。自転車を使えば遠くない距離だ。

「わかりました。では早速……」
「お待ちなさい」

 呼び止めたのは、いつの間にか天王寺谷副会長の隣りにいた河野副会長だった。

「わたくしも一緒に行くわ」
「え、河野副会長も?」
「不満かしら?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「菖蒲、使いっ走りは下の仕事だよ」

 そう言う天王寺谷副会長に対して「あえてわたくしが行こうとする意図をちゃんと読み取りなさい」と、意地悪そうな口調で返した。

「二学期が始まってから一度も学園の敷地から出たことがないもの。たまには気分転換させてちょうだい、ってことよ」

 河野副会長は寮住まいと聞いているが、休日に遊びに出かけたりしなかったのだろうか。国道沿いには一応カラオケ、ゲームセンターなどの最低限の娯楽施設はあるが。

「しょうがないな。だけどもう一人つけさせてもらうよ。栗岡!」
「はいなー」

 細いキツネ目の生徒がパッと駆け寄ってきた。

 栗岡さやかさんは当代生徒会が発足した直後から補佐を務めている私の同級生である。私は生徒会に呼ばれてから初めてこの子の顔と名前を知った。同級生が七百人以上もいるため、入学から二年半経ってもいまだに顔と名前を知らない同級生がいる。

「生徒会予算で購入するから正式な手続きがいる。栗岡、下雅意にやり方を教えてやってくれ」
「合点でーす。じゃあ河野副会長に、早速行きましょっと」

 栗岡さんはいつも、誰相手だろうとニコニコしながら軽薄な口ぶりで話す。私に至ってはいつの間にかあだ名がつけられてた。

「岡ちゃん、お願いね」

 なので、こっちもあだ名で呼ぶようになった。二年半もの間顔も名前も知らなかった子でも一ヶ月で距離が縮まるものなのだ。
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