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ホームセンターへ
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トウジョの生徒は通学組寮生活組関わらず、大半が自転車を使っている。理由としては最寄り駅から学校まで微妙に遠いため、電車で通学するにしろ遠出するにしろ、自転車があった方が便利だからだ。
私と河野副会長、岡ちゃんこと栗岡さんは藤色のヘルメットを被って国道を東に進んでいる。岡ちゃんが先導して真ん中が副会長、一番後ろが私という隊列である。
藤ノ原町は面積こそ小さいがベッドタウンであり、人口の割に交通量がとても多い。国道だとなおさらで。自転車通行可能な歩道の上にいるとはいえ、トラックの大きなエンジン音が後ろから近づいてくるたびに圧迫感を覚える。
岡ちゃんが何か歌いながら走っているが、エンジン音のせいで何の歌なのかよく聞き取れない。そんな中でも河野副会長が「下雅意さん」と呼ぶ声ははっきりと聞き取れた。
「何でしょう?」
河野副会長が少しスピードを落としたので、車間距離が詰まった。
「あのこと、絶対に誰にも話してないわよね?」
あのこと、とは花影庭園トイレの「誤爆事件」にほかならない。一ヶ月間、ずーっとこんな感じで私に聞いてくる。
「話していたら今頃大事になってると思います……」
「それもそうね。くどいようだけど、このことは墓場まで持っていくのよ。さもないと……わかってるわね」
談話室でのやり取りを思い出して、「はい」と神妙に返事すると、河野副会長は再び自転車の速度を上げた。
やがて道の左右に商業施設が立ち並んでいる箇所に出た。その中にあるホームセンター「マルイチ」に入っていった。
「わたくしは適当に中を見ているから、あなたたちは用事を済ませなさい」
河野副会長はそう言うと、ガーデニングコーナーの方に向かった。
「ほいじゃ早速仕事しましょっと。しもっち、ついてきてー」
岡ちゃんの後について芳香剤コーナーへ。「ヘブンズスメルプレミアム」の三個セットはすぐ見つかった。ラベンダー、シトラス、ミントの三種類の香りがひとまとめにして売られていた。
「このままレジに持っていっていいの?」
「うん。そんときに領収書くださーい、ってレジの人に言ったらオーケーだよー」
言われた通りにして領収書をもらい、宛名書きと但し書きについても教わった。
「で、帰って領収書を会計に渡したらミッションコンプリートね。領収書が無いと生徒会予算からお金が出ないからね」
「なるほど、備品ひとつ買うにもちゃんとした手続きが要るんだね」
「そういうことー。しもっちは領収書のもらい方を覚えた。♪テレテレッテッテッテー♪」
岡ちゃんは某RPGのレベルアップ音を口ずさんだ。レベルアップまでいかないまでも仕事の経験値は手に入れたはず。
「よし、じゃあこっちも適当にブラブラしましょっと」
「副会長はどうすんの?」
「にはは、仕事仕事ばっかじゃなくちょっとは息抜きしないとねー」
少しでも時間を潰したいらしい。
とはいえブラブラしながらでも岡ちゃんは生徒会の仕事絡みのことでいろいろ教えてくれた。生徒会で使う器具備品は基本的にマルイチで揃えることと、学校行事で看板を作る際は木材カットサービスを利用したら便利で仕上がりも丁寧だとか。
「生徒会は今まで何度もマルイチ使ってきてるから、多少の融通も効かせてもらえるよ。滅多にない苗字の天王寺谷副会長のハンコもすぐ取り寄せてくれたし」
「なるほど。困ったときのマルイチなんだね」
「そういうことね。ほいじゃ、そろそろ副会長のとこ行こっか」
「ん、もうこんな時間か」
スマホの時計を見ていたら、「すみません」とスーツ姿の男の人に声をかけられた。
「ガーデニングコーナーってどちらにありますか?」
芸能人かと思うぐらい細身の爽やかアイドル系イケメンだったからびっくりした。岡ちゃんもおおっ、と声を漏らした。
「あ、あの、一旦外に出て左手の方にあります」
「ありがとうございます」
ペコリ、とお辞儀をして去っていくアイドル。照明器具コーナーを通るときに浴びたLEDの光がステージを照らすライトのように見えた。
「は~、何あのイケメン……」
「ね、キラキラしてたよね」
「ガーデニングコーナーって言ってたよね。河野副会長を迎えにいくついでにもう一度拝んだろ」
早足で歩く岡ちゃんの後をついていく。
外に出た途端、悲鳴が聞こえた。
「何、今の!?」
「ガーデニングコーナーからだ!」
早足から駆け足に変わる。
「何やってんだ!」「誰か警察呼んで、警察!」
凄まじい怒号が聞こえる中、ガーデニングコーナーに着いたら河野副会長がたたずんでいた。
「河野副会長、何かあったんですか……」
異常に気づいた私は絶句。岡ちゃんは「あぎゃああっ!!」と絶叫。
河野副会長の前に、さっきのイケメンが仁王立ちしていた。
しかし服はスーツではなかった。むしろ着ていなかった。白いピッチピチのブリーフを履いて、口には薔薇の花を咥えている……。
異様な出で立ちのイケメンと目があってしまった。
――僕に一輪挿ししてくれませんか?」
「………………でっ、でっ、出たーーーーーーっ!!」
私の口から恐怖が噴き出した。
朝のSHRで馬原先生が伝えた、昨日出没した変質者の特徴と一致する人物が目の前にいたが、まだ日が高いうちの出没、しかもイケメンという連続パンチで不意打ちを食らわされた格好になり、混乱の渦に叩き込まれた。
「河野副会長! 逃げましょう!」
「……」
「副会長?」
「……」
河野副会長は目を開けていたが、無表情で視線が定まっていなかった。
「あああっ、気絶してるー!!」
私と岡ちゃんの悲痛な叫びが重なった。
私と河野副会長、岡ちゃんこと栗岡さんは藤色のヘルメットを被って国道を東に進んでいる。岡ちゃんが先導して真ん中が副会長、一番後ろが私という隊列である。
藤ノ原町は面積こそ小さいがベッドタウンであり、人口の割に交通量がとても多い。国道だとなおさらで。自転車通行可能な歩道の上にいるとはいえ、トラックの大きなエンジン音が後ろから近づいてくるたびに圧迫感を覚える。
岡ちゃんが何か歌いながら走っているが、エンジン音のせいで何の歌なのかよく聞き取れない。そんな中でも河野副会長が「下雅意さん」と呼ぶ声ははっきりと聞き取れた。
「何でしょう?」
河野副会長が少しスピードを落としたので、車間距離が詰まった。
「あのこと、絶対に誰にも話してないわよね?」
あのこと、とは花影庭園トイレの「誤爆事件」にほかならない。一ヶ月間、ずーっとこんな感じで私に聞いてくる。
「話していたら今頃大事になってると思います……」
「それもそうね。くどいようだけど、このことは墓場まで持っていくのよ。さもないと……わかってるわね」
談話室でのやり取りを思い出して、「はい」と神妙に返事すると、河野副会長は再び自転車の速度を上げた。
やがて道の左右に商業施設が立ち並んでいる箇所に出た。その中にあるホームセンター「マルイチ」に入っていった。
「わたくしは適当に中を見ているから、あなたたちは用事を済ませなさい」
河野副会長はそう言うと、ガーデニングコーナーの方に向かった。
「ほいじゃ早速仕事しましょっと。しもっち、ついてきてー」
岡ちゃんの後について芳香剤コーナーへ。「ヘブンズスメルプレミアム」の三個セットはすぐ見つかった。ラベンダー、シトラス、ミントの三種類の香りがひとまとめにして売られていた。
「このままレジに持っていっていいの?」
「うん。そんときに領収書くださーい、ってレジの人に言ったらオーケーだよー」
言われた通りにして領収書をもらい、宛名書きと但し書きについても教わった。
「で、帰って領収書を会計に渡したらミッションコンプリートね。領収書が無いと生徒会予算からお金が出ないからね」
「なるほど、備品ひとつ買うにもちゃんとした手続きが要るんだね」
「そういうことー。しもっちは領収書のもらい方を覚えた。♪テレテレッテッテッテー♪」
岡ちゃんは某RPGのレベルアップ音を口ずさんだ。レベルアップまでいかないまでも仕事の経験値は手に入れたはず。
「よし、じゃあこっちも適当にブラブラしましょっと」
「副会長はどうすんの?」
「にはは、仕事仕事ばっかじゃなくちょっとは息抜きしないとねー」
少しでも時間を潰したいらしい。
とはいえブラブラしながらでも岡ちゃんは生徒会の仕事絡みのことでいろいろ教えてくれた。生徒会で使う器具備品は基本的にマルイチで揃えることと、学校行事で看板を作る際は木材カットサービスを利用したら便利で仕上がりも丁寧だとか。
「生徒会は今まで何度もマルイチ使ってきてるから、多少の融通も効かせてもらえるよ。滅多にない苗字の天王寺谷副会長のハンコもすぐ取り寄せてくれたし」
「なるほど。困ったときのマルイチなんだね」
「そういうことね。ほいじゃ、そろそろ副会長のとこ行こっか」
「ん、もうこんな時間か」
スマホの時計を見ていたら、「すみません」とスーツ姿の男の人に声をかけられた。
「ガーデニングコーナーってどちらにありますか?」
芸能人かと思うぐらい細身の爽やかアイドル系イケメンだったからびっくりした。岡ちゃんもおおっ、と声を漏らした。
「あ、あの、一旦外に出て左手の方にあります」
「ありがとうございます」
ペコリ、とお辞儀をして去っていくアイドル。照明器具コーナーを通るときに浴びたLEDの光がステージを照らすライトのように見えた。
「は~、何あのイケメン……」
「ね、キラキラしてたよね」
「ガーデニングコーナーって言ってたよね。河野副会長を迎えにいくついでにもう一度拝んだろ」
早足で歩く岡ちゃんの後をついていく。
外に出た途端、悲鳴が聞こえた。
「何、今の!?」
「ガーデニングコーナーからだ!」
早足から駆け足に変わる。
「何やってんだ!」「誰か警察呼んで、警察!」
凄まじい怒号が聞こえる中、ガーデニングコーナーに着いたら河野副会長がたたずんでいた。
「河野副会長、何かあったんですか……」
異常に気づいた私は絶句。岡ちゃんは「あぎゃああっ!!」と絶叫。
河野副会長の前に、さっきのイケメンが仁王立ちしていた。
しかし服はスーツではなかった。むしろ着ていなかった。白いピッチピチのブリーフを履いて、口には薔薇の花を咥えている……。
異様な出で立ちのイケメンと目があってしまった。
――僕に一輪挿ししてくれませんか?」
「………………でっ、でっ、出たーーーーーーっ!!」
私の口から恐怖が噴き出した。
朝のSHRで馬原先生が伝えた、昨日出没した変質者の特徴と一致する人物が目の前にいたが、まだ日が高いうちの出没、しかもイケメンという連続パンチで不意打ちを食らわされた格好になり、混乱の渦に叩き込まれた。
「河野副会長! 逃げましょう!」
「……」
「副会長?」
「……」
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