私の通っている女子校はデカすぎる!

藤田大腸

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事案発生!

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「僕でガーデニングしてください」

 変態イケメンがきらりと歯を輝かせて、爽やかな笑顔で迫ってくる。こんな良い顔なのにどうして変態に成り果ててしまったのか。

 河野副会長は立ったまま絶命した武蔵坊弁慶状態だ。ここは相手を下手に刺激しないようにして、副会長を引きずってでも避難させないと……。

「あ、あの。とりあえず服を着て……」
「おりゃあ!」

 変態イケメンは「ゴフッ!」とうめいてのけぞった。

 岡ちゃんが側にあった腐葉土の袋を投げつけたのだ。

「ちょっ、まずいって!」
「ウチが右腕持つからしもっちは左腕持って!」
「えっ、えっ!?」

 戸惑いつつも、私の手は反射的に河野副会長の左腕を掴んでいた。

「失礼しまーっす!」

 岡ちゃんと一緒に副会長をズルズルと引っ張っていく。もうちょいで店内に入れるってときに、

「ねえ、なんでこんなことするんだい?」

 変態イケメンがズカズカと詰め寄ってきた。ニコニコしてるけどめっちゃキレてるのが声でわかる。怖い! ホラー映画で主人公が化け物に追いかけ回されているシーンみたいだ。

「ど、どうにかしないと……」

 私の手元には芳香剤入りのレジ袋がある。

「こいつで!」

 二回三回とブンブン振り回して、勢いをつけてから「おりゃっ!」と投げつけた。

 
 チ――――――――ン

 
 と、仏壇のお鈴の音が聞こえたような気がした。そう、うまいこと男の人の「弱点」にぶち当たってくれたのだった。

「あおおーーーっ!!」

 イケメン変態は股間を押さえてぴょんぴょん飛び跳ねるが、その顔は恍惚としていたから見ていてゾワッとした。

 そこへ店員さんたちが駆けつけてきた。みんな不審者用のさすまたを持っている。

「この変態野郎、神妙にしやがれ!」
「くっ、大人数でかかるとは卑怯な!」

 変態の分際で卑怯も何もあるかとみんなツッコんだに違いない。ともかく、変態イケメンは多勢に無勢だと認識はできていたようで、踵を返して逃げ出した。店員さんが追いかけたものの、相手はなんとフェンスをひょいと飛び越えて、きれいな受け身で着地し、すぐ起き上がって逃走してしまった。一連の動きはまるでアクション映画を見ているかのようだった。

「な、なにあいつ……」

 でも、一応は助かった。

「しもっち、河野副会長がまだ気絶したまんまなんだけどー……」

 河野副会長はすっかり物言わぬお人形さんになってしまっている。

「河野副会長、フクカイチョー……」

 呼びかけに応じない。どうしたものかとしばし考えて、ふとひらめいた。

 耳元に口を持っていってささやく。

「花影庭園のトイレ」
「ひっ!」

 河野副会長の体がビクッと震え、目に生気が戻った。よし、成功だ。

「ここは……」
「店内です。あの変態は逃げました。怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。ちょっとショックがきつすぎただけ……」
「今店員さんが警察を呼んでる最中ですが、こちらも天王寺谷副会長に連絡を入れます」

 すぐに警察がやってきて、私たちは事情聴取を受けた。天王寺谷副会長も駆けつけたが、部活の最中だったらしく学園指定の藤色のジャージを着ていた。

「身長百八十センチぐらい、髪は黒のマッシュカット、細身、男性アイドルみたいな感じと……ふーん……」

 巨漢の警察官が「ウソついてない?」と言いたげな視線をくれながらメモを取っているが、私たちは事実を伝えているし、他の目撃者も同じ証言をしているから疑われる余地は一切ない。

「昨晩寄せられた声掛け事案の行為者と特徴がほぼ一致しています」

 ヒョロっとした感じの警察官が巨漢の警察官に報告して、ようやく納得したようにうなずいた。

「まだ遠くには逃げていないはずだ、何としても探しだすぞ」
「私たちも協力します」

 天王寺谷副会長が言った。

「我が校の生徒が被害に遭ったとあっては看過できません」
「お申し出はありがたいが、危険です。ここは我々にお任せください」
「ご心配なく、我が校にも腕の立つ者たちがいますから」

 天王寺谷先輩が指をパチンと鳴らすと、ゾロゾロと藤色のブレザー軍団が入ってきた。みんな体格がやたらと良い。

「な、なんですか? この屈強な子たちは」
「保安委員会です。八つの武道系クラブの生徒から構成されている精鋭が支援いたします」

 保安委員会は常任委員会のひとつで、役割は風紀委員会や生活委員会のようなものだが、校内パトロールと不審者対応も担っている。私が産まれる少し前ぐらいに、部外者が立ち入って生徒にちょっかいをかける事案が多発したことがあったらしく、警察に頼らなくても自分たちの身は自分で守ろうということで屈強な武道系クラブの生徒を委員に据えるようになったという。

 要は自警団である。

「天王寺谷副会長、どいつをやればいいんだ?」

 物騒な口調で、ひときわ背の高く鋭い目つきを持つポニーテールの生徒が首の骨をぽきぽきと鳴らしながら尋ねた。

「背丈は君より少し高いぐらい、黒のマッシュカットで細身の男性アイドルみたいな奴だが相当の変態らしい」
「了解した」

 その生徒はレンガを持っていたが、ひょいと頭上に放り投げたかと思うと、「たあっ!」と長い脚を振り回して飛び蹴りをかまし、レンガは音を立てて粉々に砕かれてしまった。

 この恐ろしい足技の使い手こそが宋由那ソンユナ先輩。テコンドー部の主将にして保安委員長の肩書を持つ、学園の保安官だ。

「学園に仇なす者は誰であろうとこのレンガのようになる」
「さすが、頼もしいなあ。じゃあ下雅意と栗岡、宋先輩に同行したまえ」
「「え?」」
「君たちが犯人の顔をよく知っているだろう。首実検に立ち会ってもらわないと」

 天王寺谷副会長が言うと、宋先輩もこちらをジロリと鋭い目を向けてきた。「ついてこい」と無言の圧をかけてきているようだ。

「わかりました……先輩、よろしくお願いします」
「頼むぞ」

 声をかけられただけで冷や汗が出てくる。味方で良かった。

「ああ、あと宋先輩」
「なんだ?」
「あなたが砕いたレンガ、ここの売り物だろう? 代金は自腹でお願いする」
「すまない」
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