私の通っている女子校はデカすぎる!

藤田大腸

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 変態狩りが始まった。四方八方に保安委員が散らばり、ある者は公園、ある者は用水路、ある者は小山の中を捜索したが、私と岡ちゃん、宋先輩は住宅街の中を捜索した。国道沿いの商業施設群周辺は住宅街になっていて、小さな路地が網目状に張り巡らされている。これだけ家が多いと住民に目撃されやすそうなものだが、実際はそうでもない、と宋先輩は言う。

「最近建てられた住宅は防犯の観点から塀をつけていないんだが、ここは昔ながらの家が多い。侵入して身を隠そうと思えば隠せるところばかりだ」
「確かに、塀のある家が多いですね」
「さらに、空き家も増えている」

 私の右手にある家は管理会社の看板が塀についている。

「人の家の中を覗くわけにはいかないから、住民に聞き取りと注意喚起をしよう」

 そういうわけで出会った住民全員に聞き取りしてみたが、みんな知らないという答えばかりだった。その合間に宋先輩の下に他の保安委員から電話報告が上がってくるが、著しい成果は出ていないようだった。

「ブリーフを履いてウロウロする変態美男子なぞすぐに見つかりそうなもんだがな……」

 宋先輩が電話を切ったら、今度は岡ちゃんのスマホが反応した。

「天王寺谷副会長からだ。はい、栗岡ですー」
『私だ。今、菖蒲を寮に帰らせたところだ。今日はそのまま休ませることにする。捜索はどうなっている?』
「あー、今のところは特に何もないですー」
『今日中に必ず捕まえろ。菖蒲を酷い目に遭わせた奴には相当の報いを受けさせないといけない。わかったな?』
「はい、はい。どうにかしますー」

 通話が切れた後、岡ちゃんは私に向いた。

「報いって何すんのって。ボコボコにしろってことかな」
「過剰防衛になっちゃうじゃん。こっちにも声聞こえたけど天王寺谷副会長、相当キレてた感じよね」
「そりゃ愛しの菖蒲さん(傍点)が手をかけられたとなっちゃねえ」
「愛しの?」
「あれ、しもっち知らんの?」
「何が?」
「天王寺谷副会長、河野副会長に何度も告白してるんよ」
「何それ、知らん」

 天王寺谷副会長はいろんな生徒にちょっかいかけてるようで、それを河野副会長が苦々しく思っているのは知っていた。私も一度ちょっかいかけられたし。でも河野副会長のことが好きだったなんて全く知らなかった。

「まあいうて天王寺谷副会長も芦屋のお嬢様とはいえ、河野副会長から見たら分家のそのまた分家の姻戚だから家の格が全然違うんよ。わたくしを相手しようだなんて無礼にも程があるわ、って感じなんだろうね」

 岡ちゃんの河野副会長のモノマネが上手くて、つい失笑しかけた。

「それでも河野副会長は天王寺谷副会長のことを嫌ってるわけじゃなさそうだけどね」
「そりゃ仕事上では大事なパートナーだし。本気で嫌ってたら今頃生徒会は機能不全起こしてるし、会長の任命責任にもなっちゃう」

 宋先輩が大きく咳払いをしたから、そこで話すのをやめた。

 生徒会長は今、海外留学中で学園にいない。生徒会の舵取りは河野・天王寺谷両副会長の手に委ねられているが、二人とも学園で人気を誇る生徒である。仲違いをしようものならすなわち学園が真っ二つに割れるのと同じだ。考えたくもない事態である。

 また、宋先輩のスマホに着信があった。

「宋だ」
『たった今警察から連絡がありました。変質者の身元が割れたそうです。脱ぎ捨てたスーツのポケットにマイナンバーカードが入っていたらしくて』
「何? マヌケな奴だな」
『あとは警察の方で処理するからお引き取りください、と言っています。どうしますか?』
「私の手で懲らしめてやりたかったが致し方ない、引き上げよう。ちなみに変態はどこに住んでるんだ?」
『ちらっと聞いた話ですが、なんと近所ですよ。野田下のだしも地区だそうで』

 野田下地区……私はたまたまその場にあった町内掲示板に目を止めた。

「野田下地区自治会」の表記がある。

「宋先輩、もしかしたら……」

 うわあああ、と子どもの叫び声が聞こえた。ランドセルを背負った小学生たちがこの世の終わりを迎えたような顔つきでこちら側に走ってくる。

「どうしたの?」
「へ、変な奴が向こうにいるー! バラの花をくわえて……」

 宋先輩が真っ先に駆け出していった。

「ごめん、ありがと! ちょっととっちめてくるから!」

 私と岡ちゃんは走って追いかける。

 すぐに追いついたが、宋先輩は仁王立ちしていた。視線の先にあるのは空き地だったが、ろくに手入れされていないようで枯れ草がボーボーに生えて荒れ果てている。子どもが秘密基地を作って遊べそうな感じだ。

「出てこい、変態!」

 宋先輩が凄んだら、草むらがガサガサっと音を立てて揺れた。

 口にバラをくわえた変態イケメンが現れた!

「やあ、僕に一輪挿ししてくれるのかい?」

 うげええええっ、と私と岡ちゃんは口を押さえた。

 変態イケメンは何も着ていなかった。そう、モロに見えてしまったのだ。

「な、何だこれ? 私の小指より……」
「口に出さなくていい!」

 私は岡ちゃんを叱った。

 宋先輩はさすがと言うべきか、露出狂に極悪進化した変態を目の当たりにしても動じていない。

「下雅意。一応確認するが、こいつが例の変態だな?」
「はい」

 こいつ以外にも同じ顔の変態がいてたまるか。

「警告する。痛い目に遭いたくなければさっさとパンツ履いて自分の足で警察に行け」
「ああっ、存分に挿しておくれ……」
「先輩、まともに会話できないみたいです」
「イカれてしまったのなら致し方ない」

 宋先輩が構えた。ビリッとした感覚が私の中に走った。

「気を付けてください。こいつ、運動神経は良いですから」
「僕はバラの花。トゲには気をつけた方がいいよ」

 と変態イケメンはわけのわからないことを言いながら、何か構えらしきものを取った。「らしき」というのは宋先輩に比べて、私の目から見てもあからさまにド素人の構えだったからだ。そのへんちくりんな構えから口にバラをくわえた状態でシャドーボクシングもどきをして、宋先輩を威嚇しだした。ギクシャクしたアクションが滑稽すぎて笑いそうになった。

「さあ、君こそ観念して僕に一輪挿しを」
「シュッ」

 一瞬だった。宋先輩の後ろ回し蹴りが変態イケメンのこめかみをかすめたのは。

「あははは、何だいそんな蚊をさしたような……あれ?」

 それが私の聞いた変態イケメンの最期の言葉だった。恍惚とした笑顔のままでフラついて、前のめりに倒れたのだった。

「トルリョチャギ。テコンドーの基本技だ」
「すごい……さすがです」
「しかし、汚らわしいものを蹴ってしまったな」

 宋先輩は除菌用のウェットティッシュでシューズを拭いた。すぐに警察がやってきて、変態イケメンはパトカーに乗せられていった。空は茜色に染まりだしている。

「夕焼けが良い感じだなー。たまたま再放送で見た昔の刑事ドラマのワンシーン見てるみたいだ」

 岡ちゃんはそのドラマのテーマ曲を鼻歌で歌い出した。

「でもドラマと違って全然面白くないし、疲れたよ……」

 とはいえ、一件落着である。

 変態イケメンがその後どうなったのかは知らない。地元紙の報道でも取り上げられてないあたりニュースにする価値が無かったのか、何かしら事情があって取り上げられてないのかはわからないが、ひとまずは町に平和が戻った。

「私の晒した醜態については決して人に言わないこと。いいわね?」
「はい、わかってます」

 生徒会室を掃除している最中、何度も何度も河野副会長から言い聞かされて、正直うんざりしている。河野副会長を貶めるようなことを言い触らして誰が得するんだろう。

 ちなみに芳香剤はあの後買い直した。レジ袋越しとはいえ、変態イケメンの股間に接触したものを使うのは生理的に受け付けない、と天王寺谷副会長に言われたからだ。いわゆる「穢れ」の概念ってやつかな。

 その天王寺谷副会長が良い笑顔で生徒会室に入ってきた。

「はーい、みんないったん手を止めてー。今さっき生徒会のグループメッセージに重要な連絡が届いたから確認するように」

 私はモップを壁に立てかけて、自分のスマホを取り出してアプリを開いた。

 Sahara、というアカウントがメッセージを送っていた。

『みなさまにお話したいことがあります。詳細は定例会議にて』

 このSaharaという人物は佐原都という。私がいまだ姿を見たことがない、藤葉女学園の生徒会長だ。
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