孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

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無口な獣人と出会った日

09.村と二人の請負人7

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 村人たちが家にひっこみ、寝静まった深夜。
 雲がほとんどない空には大きな月が浮かんで、畑や林を照らしていた。風が弱いせいで葉擦れの音がしないだけでなく、人の叫び声に似た夜啼き鳥の声も、虫の鳴き声もなく静まり返った森が、何かあると告げている。

 芋の食害が多い場所に魔鼠を誘いこむため、午後いっぱいかけて畑を囲い直したオレ達は、魔鼠が来るのをじっと待っているところだ。オレは自分の獲物である弓に矢をつがえ、いつでも打てる体勢で入り口と畝の間の道を監視している。

『敵を怒らせる。そして、おびき出す』

 それがオレとガルドさんの判断だ。
 日中に人がいる村の中に出てヤギを襲うほどだ。魔鼠は、この村を自分の自由になる狩場だと思っている。
 その場所で配下の野鼠が殺され、これ見よがしに囲いの周りに吊るされれば、自分の狩場を荒らす相手を許すはずがない。ただの野鼠なら逃げるだけだが、魔物になりいくらか知恵をつけた事を逆手にとって、畑の中におびき出せると踏んだんだ。
 餌は昨日に続き、オレの手持ちの干し甘芋だ。水で戻し少し火で炙ってやれば、甘く良い匂いがしてこっちの腹まで減って来る。

 それにしても、この明るさは月の神エルネヴィアの思し召しか。ありがたい。
 これだけ明るければ、オレもガルドさんも、万に一つも魔鼠を見逃すことはない。オレは胸の中で、エルネヴィアへの感謝の祈りをささげてから視線を動かした。
 一か所だけ開けてある畑の入り口から続く道の奥に、今夜の主役であるガルドさんが静かにたたずんでいる。
 胸甲を外し、大盾は足りない板を補うために囲いの一部として使っていて、大剣は鞘に入れたまま。鈍色のガントレットと脛当ても竈の煤と泥で汚しているせいで、気配を断ったガルドさんは真っ黒な岩のようだった。

 さあ、来いよ。お前の領地を荒らすオレ達に、腹を立ててんだろ?

 干し甘芋はガルドさんの目の前。
 オレの仕事は、万が一にも囲いの外に逃がさないこと。
 いくら魔物になったとはいえ、元は野鼠なら毛皮の硬さはたかが知れている。オレの手の中にあるのは、速さに特化した鏃の小さな軽い矢だ。ちょこまかと動く小さな鼠の足を、一瞬止められればそれで充分。

 目と耳と鼻、肌。全ての感覚を研ぎ澄ませ静かにその時を待っていると、月に薄い雲がかかったのか光が翳った。

 その時を待っていたかのように、不意に漂ってきた、ほんの微かな血の臭い。
 気配を消すことなく森から姿を現したのは、野兎ほどの大きさの鼠だった。野鼠が大人の掌一つ分ほどだから、体長だけで軽く倍を超える大きさになっている。
 後ろ足で立ち左右に顔を向け一度畑の様子を伺ったあと、魔鼠は芋の葉の下に身体を隠すことなく堂々と畑の中を進んでいく。

 あの大きさなら、大丈夫だろうな。
 大剣の的には小さいが、野鼠ほどじゃあない。
 オレの矢でも確実に仕留められる大きさだが、依頼を請け負ったガルドさんが仕留めてもらわなけりゃ引率の意味がない。
 目で動きを追っていると、魔鼠は途中で足を止め後ろ足で立ち上がった。
 まだ、ガルドさんの剣の間合いには入っていない。

 オレは静かに弓を引き絞り、鼠の後ろ足のすぐ後ろを狙って矢を放った。
 微かな風切り音と、鏃が大地に刺さる乾いた音。
 二の矢をつがえて引き、魔鼠が畑の中に逃げこまないよう牽制の矢を放つ。
 耳に入るのは魔鼠が発するキィィという甲高い鳴き声。イラついているのが伝わってくるような鳴き声を聞きながら、三の矢を放つ。

 足の速さは元の野鼠と変わらない。
 それなら、もう何もすることはない。

 視界の中で、月の光を反射する銀の残像。
 神速の踏み込みと共に振り下ろされた大剣が、魔鼠を両断していた。
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