孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

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背中を預けるには、まだ早い

11.斡旋所にて

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 ソラリヴェ王国の朝は、鐘の音とともに始まる。
 日の出を告げる一の鐘、朝の仕事始めを告げる二の鐘、昼を告げる三の鐘、夕の仕事終わりを告げる四の鐘、そして日没に鳴る五の鐘。
 オレはいつも、一の鐘が鳴る前に目が覚める。
 一の鐘が鳴ると同時に街を囲む大壁の門が開くから、それに合わせて外に出ていた名残だ。 請負人になりたての頃、一の鐘から四の鐘まで、他の人間よりも長い時間、広い場所を探して、少しでも多く依頼料を稼ぐために、より質の良い薬草を採取して納品していたことを思い出す。
 まあ、家族と過ごしていた子供のころも日の出と共に起きることが普通だったから、たいして苦でもないんだが。

 二の鐘が鳴ると同時にギルドの斡旋所が開くから、割の良い仕事にありつくために銅級から鉄級の請負人が斡旋所の前で鐘が鳴るのを待つのもいつもの光景だ。仕事の相談をしたり、世間話をしたりざわめいているのが普通だが、今朝は妙に静まり返っている。
 その理由は一目瞭然だった。

「リオ」
「ガルドさん、早いな」
「リオも。鐘、鳴るない」

 片手をあげてオレの名前を呼ぶガルドさんの元に急ぐ。オレだって早いのに、いつから待ってたんだ。てっきりオレが待つ側だと思ってたのにな。
 オレとガルドさんが話していると、遠巻きにした他の請負人がこちらを気にしているのが分かる。チラチラ寄こされる視線がうるさいが、構ってやる義理はない。
 ガルドさんは今日も防具をきっちり身に着け、背中に大盾と大剣を背負っていて、いつでも仕事に出られる様子だ。オレは鼠駆除のための軽い弓矢のままだから、選ぶ依頼によってはギルドに預けてある装備と交換だな。

「ガルドさんに合う依頼があると良いな。依頼料よりは内容重視、で問題ないよな」
「問題ない。任せた」

 銀級のオレとパーティーを組んでいるから、銅級のガルドさんとの中間、鉄級推奨の依頼までは受けられる。昨日宿に帰ってから、ガルドさんに合う依頼がなければ、無理に今日依頼を受けなくても良いんじゃないかと考えた。
 合う依頼がなけりゃ、先に武器屋や道具屋を回っても良い。
 そんな事を考えていると、街の真ん中に建てられた鐘楼しょうろうから、仕事の始まりを告げる鐘が2つ響いた。
 鐘の響きが消えると、斡旋所の扉が開き待っていた男たちが我先にと足早に移動する。

「オレ達も行こう」
「うむ」

 斡旋所は、壁の一つが依頼掲示に使われている。
 入り口近くの大きな木板に墨で書きこまれた、木から銅級向けの採取や清掃なんかの常設依頼。
 中ほどに設置された黒板に白墨で書かれた、銅から鉄級向けの倉庫整理や建築、巡回や害獣駆除の変動依頼。
 更に受付近くにあるのが、羊皮紙や高級な紙に手書きされた高度または緊急依頼。内容によって経験が豊富な鉄級パーティーや銀級が受ける物で、害獣の群れや中型以上の魔獣駆除、高度な護衛依頼が主だ。ただし、これは依頼が出る場合もあれば、しばらく何も貼りだされないこともある。
 オレが狙ってるのは、ここだ。

「依頼は、一応あるな」

 入り口近くから見える分には、貼りだされている高度依頼は2つ。昨日、駆除完了報告の時に一枚貼られていたのを覚えているから、今朝何か追加されたらしい。

「ガルドさん、あっちだ」

 ざわつく斡旋所を奥に向かって進むにつれて、「おい、どうする」だの「怪我人が出てるのか」だの「一人頭いくらになる?」だの、掲示を見て相談しているパーティーの声が聞こえてくる。
 害獣駆除か、魔物討伐か。
 掲示板の前に陣取る奴らの中に滑り込んでみれば、インクの色も黒々とした真新しい掲示があった。

『害獣駆除依頼:牙猪』

 依頼主はセルディアの町長。
 オレはそれを見ただけで、細かいことは確認せずにピンで止められた依頼票を引きはがし、受付に歩み寄った。

「エンベルさん、これ。二人で受けます」
「承りました。ガルドさんも、よろしいですか?」
「リオ、正しい。任せた」

 いつから、そこに。
 エンベルさんの視線に気づいて振り向けば、掲示板の前では離れていたガルドさんが、音もなく背後に立っていた。
 何も聞かずに任せると言ってくれたことが思った以上に嬉しく、依頼の中身を説明するとき、さっきよりもオレの声は弾んでいた。

「猪の駆除依頼だ。場所はここから半日。オレ達に丁度いい、だろ?」
「同意する」
「では手続きをしますので、お二人の登録証を。今回は、グラナ村、セルディア町、それぞれで怪我人が出ているため、領からも追加報酬が出ます。ただし、お二人がセルディアについてから怪我人が増えた場合は、報酬が減額される場合がありますのでご了承ください」

 カウンターにオレとガルドさん、それぞれが首から外したタグを置くと、後ろのざわめきが一層大きくなった気がしたが気にする必要はない。エンベルさんが手早く受注の処理をしながら伝えられる注意事項に耳を傾け、頭の中で必要な物を考える。

「登録証をお返しします。こちらがセルディア町長向けの受注証明。駆除が終わりましたら、相手方から割符を受け取ってください。もし、セルディアからさらに移動しているようであれば、一報を」

 ヴァルノートとセルディアの間には小さな村が一つしかない。凶暴なはぐれ猪を領都に近づける訳にはいかないから、セルディアで仕留めたいところだ。
 受注証明を受け取ったオレに、エンベルさんが小さく頷いてくれる。

「よし、じゃあ行こうか、ガルドさん」
「ああ」
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