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背中を預けるには、まだ早い
12.出発準備
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「と、その前に。預かり所、もう開いてる?」
「今開けるところですよ。では、ギルド預託認証札を。ゲッダさん、お願いします」
依頼を受注して今すぐ出発したいところだが、そうは行かない。懐の隠しから出した預け札をエンベルさんに渡すと、カウンター後ろの机から若い男が立ち上がって鍵束を手に取った。30そこそこのゲッダさんは、暗い金髪を掻きながら、あくびを一つ零してカウンターの前に出てくる。
「おー、リオ。おはよう。今日も稼ぐなあ」
「真面目に仕事してんの。オレはちょっと装備変えるから、ガルドさんはここで……。いや、やっぱり、一緒が良いか」
ガルドさんはこのまま出発できる状態だから待っていてもらおうかとも思ったけど、何事も経験。こういうギルドの使い方も、オレがガルドさんに教えることの一つなんだろう。
「“共に来る。吾、装備交換”」
「“了”」
オレとゲッダさんのやり取りを静かに見ていたガルドさんに共通語で話しかけると、小さな頷きと共に返事が返ってくる。手振りで行き先を示して、廊下に繋がるドアを開けて先に進むゲッダさんを二人で追いかけた。
素材棟へ繋がる渡り廊下のドアと、2階に上がる階段の横を通り過ぎて奥へ向かって歩きながら、オレは後ろを付いてくるガルドさんに、どこに向かっているかを説明する。
「この先に荷物預かり所があるんだ。ガルドさんはまだ使ったことない、よな?」
「ない」
「えーっと、そっちの国と同じなのかな。半節…5巡分の金を前払いすると、棚が借りられるんだ。オレは依頼に合わせて弓矢を使い分けるから、使わないやつを置いてる」
「場所は空いてるから、借りたいならいくらでも貸すぜ」
預かり所の鍵を開けながら、ゲッダさんが笑う。余分な武器や防具を持っている請負人は多くないから、預り所が全て埋まっているのは見たことがない。
「一つ借りて共有してるパーティーもある。借りてる間の出し入れは自由。普段は鍵をかけてるし、使うときには職員がついて記録に残すから、盗まれる心配もない」
宿に置いておくなんて不用心なことはできないから、オレにとってはありがたいことこの上ない。金に余裕が出来て預かり所を使えるようになるまで、弓も矢も全部背負って仕事をしてたから大変だったなとつい遠い目をしてしまう。
オレが借りている棚の鍵を開けて扉の前から避けたゲッダさんは、別の棚に寄りかかりながら少し声をひそめた。
「依頼、牙猪なんだろ。重々分かってるとは思うけど、気をつけろよ、リオ。俺っちの脚を持ってったのは、牙猪だからな」
ゲッダさんがいた鉄級パーティーは、牙猪の駆除でしくじった。一人は跳ね飛ばされた上に踏まれて死亡。ゲッダさんは太腿の肉を牙でざっくりやられて、生きてるのが不思議なほど血が出たらしい。請負人を引退して数年経った今でも、ゲッダさんは効き足を幾らか引きずって歩く。
「ああ。でも、今回オレは控えで、主役はガルドさんだ。何も問題ない」
「って言ったって、銅級なんだろ?」
「大丈夫だ。ガルドさんの腕は金級だよ。すぐに上がる」
どんな依頼だって、一つ間違えば大怪我をする。ガルドさんの腕は信用しているし、オレは付き添いと通訳のつもりだが、万が一がないとは言えない。だからこそ、装備を変える。
鼠駆除に持って行った弓矢をしまい、胸当てと脛当てを革に金属を貼った物に代え、オレが持っている中で一番強い弓と、猪の硬い毛皮も貫く矢が入った矢筒を背負う。
替えの弦を3つ持ち、腰のナイフと、ポーチの中身を確認する。
あとは携帯食料だなと顔を上げたところで、静かに立っているガルドさんと目が合った。急かすでもなく、自然体で待っていてくれる姿に度量の広さを感じずにはいられない。
「準備、良いか」
「お待たせ。門に向かう途中で食料買い出していこう。セルディアでも買えるけど、選んでる暇はないかもしれない」
「同意する」
カウンターに戻り預け札を返してもらうと、オレとガルドさんは足早に街を進んだ。
セルディアはビシュト村とは逆、ヴァルノートより北にある街だ。北門を目指して進む途中、時々立ち寄る店で堅パンを買う。ついでに、露店で乾燥させたリコの実を1袋と、薄く切って干したマルバの実を2袋頼み、ポーチから財布を出そうとしていると隣から大きな手が伸びて銅貨を6つ店主に渡すのが見えた。
「ガルドさん」
何を買うのかも、何故これを選んだのかも聞かずに、当然のように金を払ってくれるのは、オレを信頼してくれているってことなんだろう。
なんだ、これ。
これから牙猪の駆除だってのに、楽しくて仕方がない。
「リオ、出発する」
「よし、行くか!」
北門の先に延びる街道を、オレ達は肩を並べて歩き出した。
「今開けるところですよ。では、ギルド預託認証札を。ゲッダさん、お願いします」
依頼を受注して今すぐ出発したいところだが、そうは行かない。懐の隠しから出した預け札をエンベルさんに渡すと、カウンター後ろの机から若い男が立ち上がって鍵束を手に取った。30そこそこのゲッダさんは、暗い金髪を掻きながら、あくびを一つ零してカウンターの前に出てくる。
「おー、リオ。おはよう。今日も稼ぐなあ」
「真面目に仕事してんの。オレはちょっと装備変えるから、ガルドさんはここで……。いや、やっぱり、一緒が良いか」
ガルドさんはこのまま出発できる状態だから待っていてもらおうかとも思ったけど、何事も経験。こういうギルドの使い方も、オレがガルドさんに教えることの一つなんだろう。
「“共に来る。吾、装備交換”」
「“了”」
オレとゲッダさんのやり取りを静かに見ていたガルドさんに共通語で話しかけると、小さな頷きと共に返事が返ってくる。手振りで行き先を示して、廊下に繋がるドアを開けて先に進むゲッダさんを二人で追いかけた。
素材棟へ繋がる渡り廊下のドアと、2階に上がる階段の横を通り過ぎて奥へ向かって歩きながら、オレは後ろを付いてくるガルドさんに、どこに向かっているかを説明する。
「この先に荷物預かり所があるんだ。ガルドさんはまだ使ったことない、よな?」
「ない」
「えーっと、そっちの国と同じなのかな。半節…5巡分の金を前払いすると、棚が借りられるんだ。オレは依頼に合わせて弓矢を使い分けるから、使わないやつを置いてる」
「場所は空いてるから、借りたいならいくらでも貸すぜ」
預かり所の鍵を開けながら、ゲッダさんが笑う。余分な武器や防具を持っている請負人は多くないから、預り所が全て埋まっているのは見たことがない。
「一つ借りて共有してるパーティーもある。借りてる間の出し入れは自由。普段は鍵をかけてるし、使うときには職員がついて記録に残すから、盗まれる心配もない」
宿に置いておくなんて不用心なことはできないから、オレにとってはありがたいことこの上ない。金に余裕が出来て預かり所を使えるようになるまで、弓も矢も全部背負って仕事をしてたから大変だったなとつい遠い目をしてしまう。
オレが借りている棚の鍵を開けて扉の前から避けたゲッダさんは、別の棚に寄りかかりながら少し声をひそめた。
「依頼、牙猪なんだろ。重々分かってるとは思うけど、気をつけろよ、リオ。俺っちの脚を持ってったのは、牙猪だからな」
ゲッダさんがいた鉄級パーティーは、牙猪の駆除でしくじった。一人は跳ね飛ばされた上に踏まれて死亡。ゲッダさんは太腿の肉を牙でざっくりやられて、生きてるのが不思議なほど血が出たらしい。請負人を引退して数年経った今でも、ゲッダさんは効き足を幾らか引きずって歩く。
「ああ。でも、今回オレは控えで、主役はガルドさんだ。何も問題ない」
「って言ったって、銅級なんだろ?」
「大丈夫だ。ガルドさんの腕は金級だよ。すぐに上がる」
どんな依頼だって、一つ間違えば大怪我をする。ガルドさんの腕は信用しているし、オレは付き添いと通訳のつもりだが、万が一がないとは言えない。だからこそ、装備を変える。
鼠駆除に持って行った弓矢をしまい、胸当てと脛当てを革に金属を貼った物に代え、オレが持っている中で一番強い弓と、猪の硬い毛皮も貫く矢が入った矢筒を背負う。
替えの弦を3つ持ち、腰のナイフと、ポーチの中身を確認する。
あとは携帯食料だなと顔を上げたところで、静かに立っているガルドさんと目が合った。急かすでもなく、自然体で待っていてくれる姿に度量の広さを感じずにはいられない。
「準備、良いか」
「お待たせ。門に向かう途中で食料買い出していこう。セルディアでも買えるけど、選んでる暇はないかもしれない」
「同意する」
カウンターに戻り預け札を返してもらうと、オレとガルドさんは足早に街を進んだ。
セルディアはビシュト村とは逆、ヴァルノートより北にある街だ。北門を目指して進む途中、時々立ち寄る店で堅パンを買う。ついでに、露店で乾燥させたリコの実を1袋と、薄く切って干したマルバの実を2袋頼み、ポーチから財布を出そうとしていると隣から大きな手が伸びて銅貨を6つ店主に渡すのが見えた。
「ガルドさん」
何を買うのかも、何故これを選んだのかも聞かずに、当然のように金を払ってくれるのは、オレを信頼してくれているってことなんだろう。
なんだ、これ。
これから牙猪の駆除だってのに、楽しくて仕方がない。
「リオ、出発する」
「よし、行くか!」
北門の先に延びる街道を、オレ達は肩を並べて歩き出した。
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