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背中を預けるには、まだ早い
13.セルディア到着
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「あれがセルディアの町だ」
「騒ぎ、人」
ヴァルノートを出て半日。セルディアの町が見える所まで来て、昼を知らせる三の鐘の音が風と一緒に流れてくる。人の声までは聞こえないが、何か落ち着かない空気のような物を感じ取ったのか、ガルドさんの声が一段低くなった。
北へ向かう街道の脇に寄り、オレは出発前に買ったリコの実を一つ口に入れた。噛み砕くと目が覚めるような酸っぱさと微かな苦さが口に広がり、溢れてくる唾液と一緒に飲み下す。革袋から水を飲み、夕日色をした親指の先ほどの実をガルドさんの前に差し出した。
「街に入る前に、ガルドさんも食う? 美味くはないけど、疲れが取れるよ」
「もらおう」
大きな手で実を摘まみ、口に入れたガルドさんの動きが止まる。
「酸っぱいの、嫌いだった?」
「……食べる、嫌いない。驚いた」
「水も飲んで、それから行こう。多分、門番に止められるから、オレの後ろに立っててくれ。タグは出さなくていい」
「了」
ヴァルノートとセルディアの間にある村でも、ガルドさんの存在はちょっとした騒ぎになった。ビシュト村ほどじゃないが、獣人を見たことがない人間が多いうえに、獣人の中でも大柄で威圧感があるもんだから通り抜けるだけで一苦労だった。
できれば門で足止めを喰らいたくない。
「仕事で何度かセルディアに来てるから、顔見知りの門番だと話が早いんだけどなあ」
村だけじゃなく、街道で追い越した荷車やすれ違った行商人に叫ばれる度に、ガルドさんの肩がちょっと下がるのが分かった。何も言わないけど、気にしてないようで気にしてるんだよな。
口にした物が入った袋を身に着け直して、オレとガルドさんは街を囲む外壁に近づいた。
「そこで止まれ!」
「オレは銀級請負人のリオだ。……ああ、なんだ。ガドじゃないか」
牙猪のせいで怪我人が出ているからか、門番はいきなり槍を向けてきた。槍の間合いからさらに距離を取り、害意がないことを示すために片手をあげて見せながら、相手を確認する。
良かった、何度か街の出入りで会った事があるヤツだ。オレが意識して明るい声で名前を呼ぶと、こちらに向けられていた槍の穂先が下がった。
「リオか? 後ろの熊はなんだ」
「今組んでる相棒だよ。最近この辺で仕事を始めた獣人の請負人なんだ」
俺だけそっちに行くと声をかけ、オレはポーチから街で買ったマルバの実が入った袋を取り出した。ガルドさんが動かないのを見て、やっと槍を収めてくれた相手の前に立ち、干し果実を一切れ口に入れ、相手にも袋を差し出す。
「今日はどうした」
「どうしたもこうしたも。牙猪の駆除依頼を受けて来たんだよ」
「他にも来るのか? まさか、二人で?」
「そのまさかだよ。相棒の獲物見ろよ、二人で十分だ」
金を渡すと賄賂になってしまうから、ちょっとした携帯食を一緒に食べて情報交換をするのが、門番と上手くやるコツだと習ったのは何歳の時だっただろう。摘まみやすい干し果実か、塩気の効いた煎り豆を断る門番には会ったことがない。
オレと年が近いガドは甘い物が好きな男だった。
ガドの視線がオレの後ろに向けられ、また戻る。人の背丈ほどもある大盾と大剣を背負って、平然としている姿に硬かった表情がわずかに緩む。
「こっちには来てないが、北や東の外柵がぶっ壊されて、えらい騒ぎになってる」
「まだ、ここは越えちゃいないな?」
「ああ。毎日、この町の畑を好き放題荒らしてるよ」
「分かった。できるだけ早く駆除する」
立ちっぱなしの門番をねぎらい、もう一切れ干しマルバの実を渡すと、オレは何も言わず待ってくれていたガルドさんを手招きした。
「斡旋所に行こう。その後に町長…、代官所に顔を出すか、行ってから相談だな」
「場所、理解?」
「何度も仕事で来てるから、この町の造りは分かってる。こっちだ」
ガドが詰め所に声をかけてるから、夜までには街の警邏の人間にもオレとガルドさんの事が伝わるだろう。
町の大通りを足早に移動し、オレとガルドさんは斡旋所の扉を開けた。ヴァルノートの斡旋所より小さなロビーを進み、カウンターに受注証明とオレのタグを置く。
「銀級、リオ。牙猪の駆除依頼を受けてヴァルノートから来た。こっちは相棒のガルド。現状を確認したい」
カウンターの向こうで、職員が一瞬だけ目を見開いた。
「……二人で、ですか」
「ああ。だから、現状を早く知りたい」
職員は一度奥を振り返り、低い声で言った。
「町長のお使いの方が、奥にいます。鉄級が失敗して……今は、かなり荒れています」
「騒ぎ、人」
ヴァルノートを出て半日。セルディアの町が見える所まで来て、昼を知らせる三の鐘の音が風と一緒に流れてくる。人の声までは聞こえないが、何か落ち着かない空気のような物を感じ取ったのか、ガルドさんの声が一段低くなった。
北へ向かう街道の脇に寄り、オレは出発前に買ったリコの実を一つ口に入れた。噛み砕くと目が覚めるような酸っぱさと微かな苦さが口に広がり、溢れてくる唾液と一緒に飲み下す。革袋から水を飲み、夕日色をした親指の先ほどの実をガルドさんの前に差し出した。
「街に入る前に、ガルドさんも食う? 美味くはないけど、疲れが取れるよ」
「もらおう」
大きな手で実を摘まみ、口に入れたガルドさんの動きが止まる。
「酸っぱいの、嫌いだった?」
「……食べる、嫌いない。驚いた」
「水も飲んで、それから行こう。多分、門番に止められるから、オレの後ろに立っててくれ。タグは出さなくていい」
「了」
ヴァルノートとセルディアの間にある村でも、ガルドさんの存在はちょっとした騒ぎになった。ビシュト村ほどじゃないが、獣人を見たことがない人間が多いうえに、獣人の中でも大柄で威圧感があるもんだから通り抜けるだけで一苦労だった。
できれば門で足止めを喰らいたくない。
「仕事で何度かセルディアに来てるから、顔見知りの門番だと話が早いんだけどなあ」
村だけじゃなく、街道で追い越した荷車やすれ違った行商人に叫ばれる度に、ガルドさんの肩がちょっと下がるのが分かった。何も言わないけど、気にしてないようで気にしてるんだよな。
口にした物が入った袋を身に着け直して、オレとガルドさんは街を囲む外壁に近づいた。
「そこで止まれ!」
「オレは銀級請負人のリオだ。……ああ、なんだ。ガドじゃないか」
牙猪のせいで怪我人が出ているからか、門番はいきなり槍を向けてきた。槍の間合いからさらに距離を取り、害意がないことを示すために片手をあげて見せながら、相手を確認する。
良かった、何度か街の出入りで会った事があるヤツだ。オレが意識して明るい声で名前を呼ぶと、こちらに向けられていた槍の穂先が下がった。
「リオか? 後ろの熊はなんだ」
「今組んでる相棒だよ。最近この辺で仕事を始めた獣人の請負人なんだ」
俺だけそっちに行くと声をかけ、オレはポーチから街で買ったマルバの実が入った袋を取り出した。ガルドさんが動かないのを見て、やっと槍を収めてくれた相手の前に立ち、干し果実を一切れ口に入れ、相手にも袋を差し出す。
「今日はどうした」
「どうしたもこうしたも。牙猪の駆除依頼を受けて来たんだよ」
「他にも来るのか? まさか、二人で?」
「そのまさかだよ。相棒の獲物見ろよ、二人で十分だ」
金を渡すと賄賂になってしまうから、ちょっとした携帯食を一緒に食べて情報交換をするのが、門番と上手くやるコツだと習ったのは何歳の時だっただろう。摘まみやすい干し果実か、塩気の効いた煎り豆を断る門番には会ったことがない。
オレと年が近いガドは甘い物が好きな男だった。
ガドの視線がオレの後ろに向けられ、また戻る。人の背丈ほどもある大盾と大剣を背負って、平然としている姿に硬かった表情がわずかに緩む。
「こっちには来てないが、北や東の外柵がぶっ壊されて、えらい騒ぎになってる」
「まだ、ここは越えちゃいないな?」
「ああ。毎日、この町の畑を好き放題荒らしてるよ」
「分かった。できるだけ早く駆除する」
立ちっぱなしの門番をねぎらい、もう一切れ干しマルバの実を渡すと、オレは何も言わず待ってくれていたガルドさんを手招きした。
「斡旋所に行こう。その後に町長…、代官所に顔を出すか、行ってから相談だな」
「場所、理解?」
「何度も仕事で来てるから、この町の造りは分かってる。こっちだ」
ガドが詰め所に声をかけてるから、夜までには街の警邏の人間にもオレとガルドさんの事が伝わるだろう。
町の大通りを足早に移動し、オレとガルドさんは斡旋所の扉を開けた。ヴァルノートの斡旋所より小さなロビーを進み、カウンターに受注証明とオレのタグを置く。
「銀級、リオ。牙猪の駆除依頼を受けてヴァルノートから来た。こっちは相棒のガルド。現状を確認したい」
カウンターの向こうで、職員が一瞬だけ目を見開いた。
「……二人で、ですか」
「ああ。だから、現状を早く知りたい」
職員は一度奥を振り返り、低い声で言った。
「町長のお使いの方が、奥にいます。鉄級が失敗して……今は、かなり荒れています」
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