孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

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背中を預けるには、まだ早い

17.依頼達成

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 駆除した牙猪をそのままにしておけず、斡旋所で血抜きすることにした。
 町を騒がせた牙猪の駆除成功に喜ぶ町民や役人が、板を持って来いだの荷車だのと声を上げる中、ガルドさんが無造作に猪の脚を掴んで持ち上げ肩に担いだ。言葉にならないどよめきが起きる中、ガルドさんは小さく首を傾げている。

「荷車、待つ。遅い」
「血で汚れるけど、まあ洗えば良いか」

 オレは地面に転がっていた頭に歩みより、牙を掴んで持ち上げる。重さは15トレン程。片腕で抱えられなくもないが持ちにくいそれを落としでもして、牙が折れたら素材の価値が減る。両手で持ち直したオレとガルドさんは顔を合わせて町に向かって歩き出した。
 道案内をしてくれた鉄級の男が、先ぶれとして斡旋所に向かって走る。

 外壁の内側から、町を騒がせていた牙猪討伐の報に沸き立つ人々の歓声が聞こえる。
 おちおち農作業も出来なかっただろうから、良かった。そう思いながら門をくぐると、門を取り巻くようにしていた人々の声が次第に鎮まり、しんと静まり返る。

 無言で道を開けてくれる人達の前を通って、オレとガルドさんは斡旋所へ向かった。
 血抜きが済んでないから、道に点々と赤い血が落ちてしまうのは勘弁してほしい。

 オレ達の後ろから、ひそひそと小声で何か話すのが聞こえたが、オレは気にしないことにした。
 視線の先に見えてきた斡旋所の前で、鉄級の男が大きな身振りで行き先を示す。その隣で、斡旋所の職員が小さく頭を下げた。

「……すみません、ロビーを通らずに、そのまま素材受付へお願いします」
「分かった。ガルドさん、こっち」

 以前にも何度か利用しているから案内されなくても素材棟の場所は分かっている。素材受付で用意されていた大きな盥の上に頭を下ろせば、ドンと鈍く重い音が石造りの建物の中に響いた。

「取り分は後で相談するけど、まずは血抜きを頼みたい」
「任せてくれ。おう、あんた、ここに下ろしてくれ」

 革の前掛けを付けた素材受付の男に声をかけ、ガルドさんが指定された場所に猪を下ろしたところでギルド長を筆頭に何人もの人間がやってきた。

「検分を頼む」
「見事な物だ」

 受付前の場所を譲ってやれば、血の臭いをものともせずに牙や頭の大きさ、後ろ足に縄をかけ早速吊るされようとしている牙猪の身体の検分が始まる。
 今回に限っては牙の左右差、襲ってきたときの目撃者もいるから、特に問題になることはないだろう。

 現場を確認して、本格的な駆除は明日になるかと思っていたが、思った以上に早く仕事が終わってしまった。夕の鐘まではまだ間があるが、さすがに血まみれのままヴァルノートに帰る訳にもいかない。井戸を借りてから、どこか宿を紹介してもらおうか。
 そんな事を考えていると、検分が終わったらしい。

「牙猪駆除依頼の達成を確認した。割符の用意をさせるから、あとで受付に声をかけてくれ」
「さすが銀級! これほど早く駆除が終わるとは思わなかった!」
「町の平安が戻ったことに、ローデリヒ様もことのほかお喜びだ」
「あー、そりゃどうも」

 ギルド長はそうでもないが、役人たちの反応が最初に会った時と違い過ぎる。マティアスさんはオレの手が血と土で汚れてなけりゃあ、思い切り握手されそうな満面の笑みだ。

「功労者を晩餐に招き、持て成したいと町長が仰っているが、どうする」

 エーリクさんが真面目な顔で伝えてきた中身は、オレが苦手なやつだ。かしこまった席で食う飯なんて、味も何も分かったもんじゃない。それに、向こうだって本気で誘ってるわけじゃないのは分かってる。
 オレは隣に立つガルドさんと顔を合わせ、ほんの少し考えるふりをしてから緩く頭を振った。

「……、町長様の前に出られるような恰好をしてないんで、お気持ちだけ受け取ると伝えてもらえますか」
「では、そのように」
「それよりも、今夜はこの町で一泊したいので、どこかお勧めの宿を紹介してもらえると助かる」

 オレだけならまだしも、獣人のガルドさんがいるから、妙な騒ぎになる宿は困る。

「希望はあるか?」
「あんまり高級じゃなくて、肉料理が美味いとこで。あー、広くなくて良いから、できれば部屋は2つ」
「ふむ。割符を渡すまでに手配しておこう」

 話が分かるギルド長で助かった。

「オレ達、ちょっと井戸を借りてからそっちに行くんで」
「ああ。素材については明日、改めて相談で良いか」
「構いません。……ガルドさんも、それで良いよな?」
「応」

 素材棟を出ていく役人やギルド長を見送り、やっと落ち着いたオレ達は肩をすくめた。

「素材棟の裏に井戸があるから、血を流しに行こう。固まると厄介だ」
「おお、使え使え。井戸の周りにある桶や布は共用だ、好きにしろ」
「遠慮なく使わせてもらうよ」

 こっちを見もせず、猪を吊るす作業している男たちから声がかかる。
 首を落としているから畑で随分血は抜けているが、それでも吊るしてしばらく血抜きをしてから解体した方が、肉の旨さが段違いだ。

「さ、ガルドさん、行こう」
「リオ」
「ん? どうかしたか?」
「ありがとう。とても、助かる」

 オレを残して、素材棟を出ていく背中を見送る。乾きかけの血で赤黒く染まった背中が、随分大く見える。
 ……今の、共通語じゃなかった。
 ヒト語…。

「な…んだよ、急に」

 オレを見下ろしていた黒い目が優しく見えたのは、きっと気のせいだ。
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