孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

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言葉より近く

24.窪地へ

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 水分と軽い食事を取り、朝早くに森を出て二人で山を登る。低木がまばらな草地を抜けて岩が転がる斜面を踏みしめれば、昨日よりも一段冷たい風が吹き下ろしてくる。
 昨日辿ったオルン達の山小屋がある斜面を背にした道とは別の、斜面を挟んだ反対側にある少し緩やかな道を進み、窪地より風下でいったん足をとめ一息つく。

「昨日と同じだ」
「ああ」

 それと知って目を凝らせば、相変わらず落ち着かない様子の山羊達の真ん中に、巨体が鎮座している。
 首の後ろの辺りがチリチリと肌が粟立つようで落ち着かないのは、風上から流れてくる魔素のせいだろう。仕掛ける前に水を口に含み、リコの実の酸味で増えてきた魔素で高揚しそうな気持を落ち着ける。

「オレは下、ガルドさんは真っすぐ」

 先にオレが仕掛けて、昨日と同じように山羊達を魔獣から引き離す。魔獣が攻撃を仕掛けてくる前に接近して、ガルドさんが首を落とす。
 オレ達それぞれの獲物と腕から考えた、計画とも言えない計画。
 弓を準備し、矢を確認した後、オレは隣にいるガルドさんを見て一度だけ頷いた。

 大角山羊の動きを見て、隠れていた岩陰から斜面に身を躍らせる。
 昨日と違って気づかれても構わないから、風にマントの裾をバタつかせながら斜面を登りつつ矢をつがえる。先にオレに気づいたのは大角山羊の若い雄で、けたたましい鳴き声を上げて真っすぐオレに向かってくる。

 向かい風でも絶対に外さない、ギリギリまで待っての一射。

 額を狙った矢は僅かに逸れて肩に突き刺さり、踏ん張りがきかずに倒れ込んだ所にすかさず首を狙って二本目を放つ。さらに上から雪崩を打つように突っ込んできた別の一匹にも、同じく矢を放つ。

「この位じゃ出て来ないか?」
 
 大角山羊のリーダーは窪地を離れず、魔獣はまだ周りに子山羊や雌山羊を侍らせたままだ。オレの矢筒には、たんまりと矢が残ってる。群れがどれだけ減ったら、お前達は出てくるんだ?

「さっさとかかって来いよ!」

 大角山羊の雌を撃った後、その後ろにいた雄山羊には、大怪我をさせないために矢を変える。
 昨日の午後はこの細工のための時間だったと言っても良い。やじりを外し、先端を軽く尖らせ、即席の麻痺薬に一晩先端を漬けておいた矢なら、多少血は出ても致命傷にはならない。

 雄山羊を躱し、腰の辺りに一射。
 雄山羊に続いた雌山羊にも一射。

 斜面を駆け下り、途中で後ろ足の力が抜けたように尻もちをつく山羊に、麻痺薬の効果を実感する。一瞬、風上の岩陰に潜んでいるガルドさんの視線がオレに向けられた気がした。麻痺薬を試せてなかったから、ちゃんと効いてホッとしてるんだろう。
 更に大角山羊を1匹と雌山羊を2匹撃ったところで、とうとう大角山羊のリーダーが痺れを切らしたらしく大きな鳴き声を上げた。勢いよく斜面を駆け下りてくる姿からは、怒りを感じる。

 そうだよな。お前から見たらオレは敵だ。群れを襲う敵に、かかって来い。お前を倒して、魔獣を窪地から引きずり出すのがオレの仕事だ。大角山羊の討伐依頼じゃないが、オレの依頼は山羊だから悪く思うな。

風の女神カイリュアよ、良き風を我に」

 矢をつがえ狙いを定めながら、無意識のうちに親父に教えられた祈りを唇に乗せる。
 無心で射たその時、風が弱まり、鈍い音を立てて矢が狙い通り山羊の眉間に刺さった。オレの横を駆け抜けた大きな身体が倒れ込み、そのまま斜面を滑っていく。

「っ! 来た!」

 不意に膨れ上がる気配は、機嫌そうに何度も蹄で硬い地面を掻いている魔獣の物だ。
 やっと出てきた魔獣に向かって矢をつがえ、一歩一歩しっかりと地面を踏みしめながら距離を縮めていく。吹き下ろしてくる風に交じる一気に魔素が濃くなり、髪の毛が逆立つようなザワつきを感じた所で、窪地に残っていた雌山羊や子山羊が一斉に斜面に散っていった。

「良し!」

 引き絞った矢を放つ瞬間、日の光を受けてギラつく目と目が合った。
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