幼なじみの番犬くんは、俺にご執心~お試しで付き合うことになったあいつの距離が近すぎてムリムリムリムリ!!~

兎束作哉

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第2章 幼なじみのせいで暑い夏

03 幼なじみと特別はまた別ものです

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(――と、言ったものの。恋人って何するんだよー!!)


 ちゃんと恋人する宣言をしてから早一週間が経った。
 時間がないというのに、俺はネットばかりに頼り、これといってしっくりくる恋人らしいことを考えられずにいた。
 一時間目終わりの中休みの教室。
 凪はトイレに行っていて離席中。昊と涼は次の授業の準備で先生に駆り出されていて、俺は一人で席に座ってスマホを見ていた。


(手をつなぐ……はやったし。食べさせあいっこ、間接キス……はよくやるし……)


 凪と期限付きの恋人になって二週間。やったことといえば、手をつなぐとか、アイスの食べさせあいっこに間接キスだけだ。あとは、恋人が部屋まで起こしに来てくれる、とかか。
 『恋人にされたら嬉しいこと』と検索にかけてみるが、どれもしっくりこないものばかりだった。原因としては、それは恋人じゃなくてもできるんじゃないかと思ってしまったからだ。


(お揃いのものを買う……いやこれは、幼稚園のころからやってるし。プレゼントをあげる……誕生日かなにか?)


 幼稚園のころからお揃いのものは何かと買ってきた。とはいえ、四人でお揃いのものが多かった気がするし、最近は何かを一緒に買うなんてことはしてこなかった気がする。
 俺はノートを開いて一枚破り、出来そうなことを書き出すことにした。


「お揃いの何かを買う。デート……デートは恋人じゃなきゃできないよな。まず、デートってどこ行けばいいんだ?」
「夏祭り」
「夏祭り! いいかも……って、うぉおおおっ!? な、なな、凪!」


 サラッとした黒髪が視界に映り、俺は思わず椅子をガタンと引いて立ち上がってしまった。教室にいた人たちはなんだ? というように俺のほうを見る。
 注目を集めてしまったことによる羞恥心で俺の顔は真っ赤になっていく。そんな俺の頬を、凪はつつきながら「気づいてるかと思った」と申し訳なさそうに言った。


「夏芽、なに書きだしてるんだ?」
「あーもう、サラッとさっきのこと流して……なにって、恋人としたいこと、されたら嬉しいこと」
「俺にしてほしいこと?」
「そう……いや、違う! ネットで検索してるんだけど、こうパッとしたものがないっていうか。俺たちがこれまでやってきたことと、恋人にされたら嬉しいこと被ってる部分あってさ」
「まあ、お揃いのものを買うとかは確かに……でも、デートは恋人じゃないとできないだろ?」


 凪は、俺のスマホと俺が殴り書きした文字を交互に比べる。
 字が下手だからあまり見ないでほしいと隠そうとすると、俺のシャーペンを取り上げ、ノートの切れ端に番号を書き始める。


「デートは十回くらいしたい」
「それ、週に一回計算じゃん。場所は?」
「さっき言ったけど、夏祭りは絶対」
「夏休み終わりにある地元のやつ? めっちゃ屋台出るよな。かき氷と、りんご飴と、ベビーカステラ」
「夏芽は食べることしか頭にないのか?」


 そう言いいつつも、口の端を持ち上げ嬉しそうに笑う凪の横顔は、目を奪われるものがあった。
 決して、目が合ったわけではない。ただ、俺が凪の横顔を盗み見ただけなのだが、こんなふうに笑う凪は久しぶりに見たかもしれない。


(なんで、そんな嬉しそうなんだよ……)


 デートじゃなくても遊びに行く予定なんていくらでも立ててきた。四人で遊びに行くこと、二人が熱を出して二人で映画を見たことだってあった。
 夏祭りだってこれが初めてじゃない。


(『デート』だから……?)


 ただの友だちや、幼なじみと遊びに行くんじゃなくてデートだから特別なのだろうか。
 俺は、一度自分の胸に手を当て『凪と夏祭りデート』と心の中で呟いてみる。すると、ブワッと内側から何かが湧き上がってくるような感覚がした。
 その感覚に、驚いて「わっ」と口にしてしまい、凪に奇妙なものを見るような目で見られてしまった。


(なんだろ、今の感覚……こう、ぶわーっとした……)


 言葉では言い表しにくい、形容しにくい感情だった。
 俺は何度も角度や手を変えて胸に手を当て、先ほどの感情がわいてこないか検証していた。しかし、そんな変な行動をしているところを凪に見られてしまい、恥ずかしさで一瞬固まる。


「夏芽、なに胸なんか触ってるんだ?」
「え、いや、どこに心臓があるのかなーとか」
「なにやってるんだ……夏芽、心臓は左側らしいぞ。多分――ここら辺」


 トン――と、彼の長い指が俺の左側を指さした。
 その瞬間、また先ほどと同じような、それ以上の熱が一気に押し寄せてくる。


「な、なぎ、凪、なに、して」
「だから、心臓はここらへんだろう。ほら、ドクドクいってる。早いな……」


 凪はそう言うと、今度は掌を当てて俺の心臓の音を聞き始めた。耳にかけていた黒髪がさらりと落ち、彼のよどみのない黒い瞳が細められる。


(待って、それ以上はまずいって……)


 何がまずいか分からない。でも、このままでは口から心臓が飛び出してしまうかもしれない。
 俺は、どうにかして凪に手を放してもらうべく声を上げる。


「だー! 今、待って、凪! 乳首、乳首触った!」
「なっ……あ、わ、わるい、ごめ、すまん」


 俺の言葉に、凪は慌てた様子で手を放し、自分の口元に手を押し当てた。その際、後ろの机に腰をぶつけたらしく、痛そうに眉間にしわを寄せる。


「あ、ごめん」
「いいや、謝るのは俺のほうだ。その、悪かった。ち……触って」
「うぉ……声ちっちゃ。いいって。気にしてないから」
「気にしろよ」


 はあ、とため息をついて凪は髪をかきあげた。少し長い前髪が一気に搔き上げられ、謎の色気を醸し出していた。
 暑かったのか、シャツの一番上のボタンは外しているし、首筋に一筋の汗が流れる。その様子を俺はぽかんと口を開けてみていた。


「夏芽、見すぎだ」
「見てないし」
「見てた。俺は夏芽のこと見てるから分かる」
「うわー答えになってない」


 そんな屁理屈が通るわけがない。

 凪はしてやったり、といった感じの顔で俺を見てきたがこれに勝ち負けなどない。でも、心なしか俺の反応に喜んでいるようにも見えた。

 六月中旬だが、教室の中には壊れそうな扇風機がカタカタと回っている。その下に男子たちは集まって涼んでおり、中には持ってきたハンディファンの二段構えで涼んでいるやつもいた。
 そんな中、凪はいつものようにぴったりと俺の机に身体をつけ、俺の顔を窺いながら話している。身長が高いからか、わざわざ腰を折って目線を合わせてくれるところもなんか好きだ。


「ようやく、夏芽も俺のこと意識してくれたのかーって、思って。デートプランまで練ってくれて。俺、柄にもなくはしゃいでる」
「確かに、かすかにそんな感じするかも……いや、凪ほどじゃないよ。まだまだ、恋人ってなにすんのかよくわかんないし。幼なじみでもできるじゃんってことがいっぱいで」


 世の中のカップルはこんなに苦労していないだろう。
 だって、その人が大切だから何をしても『恋人』としたという付加価値がつくのだから。
 そう考えると、期限付きの恋人、期限が過ぎたら幼なじみに戻るっていう結末が決まっている俺たちは『恋人』というものに価値を見出せるのだろうか。


(でも、凪とあれこれするって考えるのは嫌いじゃない。むしろ、楽しくて)


 そう思いながら凪を見ると、また目が合ってしまった。本当にずっと俺のことを見ているから恥ずかしい。
 俺が変な顔しているときでも、半目になっているときでも凪に見られていると思うと恥ずかしすぎて、穴があったら入りたくなる。でも、凪はきっと俺のことを馬鹿にしない。
 凪には絶対的な信頼があった。


「……けど、凪といろいろしてみたいって思う」
「夏芽?」
「恋人……頑張って調べてるけど、やっぱりわかんない。けど、幼なじみだけど今だけ凪は特別って考えたら、うん、なんかいけそう」
「一週間考えて出た答えがそれか」
「う、ん。あんだけ啖呵きったのにごめん」
「いや、かまわない。俺だけ特別扱いしてくれるなら、それはもう恋人だろう」
「そういうもんなの?」


 凪は俺の問いかけに対し「そうだろう」と自信ありげに答えた。
 俺は本当にそうなのか分からなかったが、凪が言うのであればそうだろうということにしてこの話は終えることにした。

 ちょうど顔を上げた先に時計があり、見ると中休みが後五分で終わることに気づき、慌ててロッカーから教科書を引っ張り出した。凪もそろそろ準備すると言って教科書をロッカーから取り出して戻っていく。
 もう少し話していたかったな、と内心思いつつもそれを口にすることができなかった。いつもなら言っていたかもしれないのに、そのときだけ言葉に詰まったのだ。
 そうこう考えていると、教科書を持って自分の席に戻った凪に二人の女子が話しかけに行く姿が見えた。
 何やら一人の女子が恥ずかし気に何かを凪に話し、凪はそれに首を重そうに頭を縦に振っていた。女子はその後何事もなかったかのように、凪のもとを離れていく。


(え、なに、今の……)


 モヤッとしたものが胸の中に生まれる。
 何を話していたか、この距離では聞き取れなかったが、自分の席に戻った女子たちを見ていると、キャッキャッと言った感じに頬を赤らめていた。

 まさか――そういうこと? と、俺の脳裏にある言葉が浮かぶ。


(もしかして、今の子……凪のことが好きで……『告白』しようとしてる?)


 いやまさか。俺は、自分の突飛な発想に首を横に振りつつ、女子と凪を交互に見る。凪は廊下のほうをじっと見つめており、俺の視線に気づく気配はない。いつもなら、こっちに身体を向けて手を振ってくれるはずなのにそれもなかった。明らかに、凪の様子が変わった。
 話しかけに行こうとしたが、先生が教室に戻ってきたことによりそれも敵わなくなる。凪は、先生が入ってきても頬杖をついたまま廊下をじっと見つめたままだった。

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