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第1章 幼なじみとお試し恋人期間始まりました
01 定例! パジャマパーティー男子会!!
しおりを挟む「あっつぅ……って、このタコ焼き、タコ入ってない! タコ係り誰!?」
日傘家の広いリビングには、四人の高校二年生の男子が集まっていた。
ワイワイガヤガヤと賑わしいリビングにはタコ焼きの甘辛いソースの匂いが漂っている。
そんなリビングの真ん中で、俺――日傘夏芽は立ち上がり、家庭用タコ焼き器を囲んで座る幼なじみ三人の顔を順に見た。
家庭用タコ焼き器は一回につき、縦四、横六の計二十四個焼けるようになっている。
鉄板の上には、すでにひっくり返されたタコ焼きと、ひっくり返すタイミングが早くて原形をとどめていないタコ焼きが散見された。その中で、いくつかタコが入っていなさそうなものも発見した。
俺は、はふはふと口の中でとろけるタコ焼きを一生懸命噛みながら、タコを入れる係りだったやつは誰だと名乗り出るよう促す。すると、スッと俺の隣で手が上がる気配を感じた。
「夏芽。多分俺が、タコいれ係だ」
「凪が? てか、多分ってなんだよ。う~ん、でも、まあ! 凪なら許す!!」
正直に手を上げたのは、俺の隣に座っていた幼なじみ雫川凪だった。
凪は申し訳なさそうに、切れ長の真っ黒な瞳を見開いて俺を見つめる。それから、怒られた大型犬のようにしゅんと耳を垂れ下げ「悪い」というので、俺はつい彼の頭をわしゃわしゃと撫でて許してしまった。
「ちゃんと言えてお利口だな~凪」
「子ども扱いするな……あと夏芽、気をつけろ。鉄板に当たったら火傷するぞ」
「平気、平気。でも、心配してくれてありがと。凪のそういうとこ俺好きだなあ」
俺が言うと、凪はスンスンと少し高い鼻を動かした。それから、不満ありげな顔で俺を睨みつけた。
「…………夏芽……シャンプー変えたか?」
「え、なんでわかった!? うわ、さすが凪。マジで犬……」
「これくらいすぐに気付くだろ」
「そんなことに気づくの凪だけだろ……んんっ! お前、鼻いいよな。なんかに生かせそう。それで、シャンプーの話だっけ?」
俺が聞き返すと、凪はこくりと頷いた。
「変えたっけなー……あ! そういえば、涼に貰ったのを使い始めたんだった。メーカーはよくわかんないけど」
「変えろ。前のほうが好きだ」
「えーでも、使い切らなきゃもったいないじゃん。俺が何使おうと凪に関係ないと思うんだけど……」
「関係ある」
凪は語気を強めてそう言うと、ツンとした態度で顔を逸らした。
「あーもう怒るなって……機嫌直せよ。凪」
「もっと撫でたらゆるす」
「お前、やっす……ほんと、犬みたいだぞ」
「わん」
「わんって……」
鼓膜を刺激するような低い声で「わん」なんて言われても……と思ったが、俺は凪に機嫌を直してもらうべく彼の頭を撫でた。
凪の髪の毛は、艶のある黒髪で、撫でると指の隙間をサラサラ通り抜ける。俺は猫っ毛だからすごく羨ましい。
凪は、一瞬ムッと眉間にしわを寄せたが、その後は俺にされるがままだった。俺が頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じている。
しかし、凪と戯れていると「はあ」と俺たちを、呆れた様子で見つめる視線に気づき、俺は手を止めた。
「まぁ~た、始まった。夏芽名物、凪犬手懐け大会」
「ナツは凪に弱いもんねー」
ねーなんて、俺と凪の目の前で息ぴったりに声を合わせているのは、同じく幼なじみの鮎川昊と葉月涼だ。
洒落た銀色のイヤーカフをつけている茶髪が鮎川昊、その隣の手首に白いリストバンドをつけていて前髪をクリップで止めているのが葉月涼。
二人は愚痴をこぼしながらも、俺たちの茶番をつまみにタコ焼きを食べていた。しかも、あーんと食べさせあいっこしている。
「またって、お前らもじゃん! てか、何その名物。勝手に名前まで付けて! 凪に失礼だろ」
「いやいや、夏芽があんまりにも凪のこと犬扱いするからだろ? あと、オレらはこれが通常運転だし」
「そうそう。昊のいうとーり。僕たちはこれがふつーなの」
「あっそ……熟年夫婦」
昊も涼も恥ずかしげもなく、あーんと食べさせあいっこを続けていた。確かに、これがこいつらの通常運転だ。
凪は、俺に頭を撫でられて嬉しそうにしているし、これもいつもの光景だ。
彼らの言うように、凪は学校でもこんな感じなので「夏芽の番犬」なんて不名誉なあだ名がついている。他の二人には俺にするような行動は見せない。
(俺たちって、昔から全然変わってないよな)
彼ら三人――凪、昊、涼は俺の幼稚園時代からの付き合いで、家も隣同士か、道路を挟んだ向かい同士の幼なじみ。
ちなみに、家の位置関係は、俺と凪が隣同士、昊と涼が隣同士だ。
俺たちの家は閑静な住宅街にあり、地域全体で仲がいいため小さいころからよく交流があった。
また、親の職場先が被っていたりと何かと縁があり、四家族の仲も良好だ。そのため、幼いころから一か月に一回、多い時には三回ほど誰かの家に集まってパジャマパーティーをしている。
高校二年生になってもこの定例となったパジャマパーティーは継続中だ。ちなみに、高校生に上がってからはパジャマじゃなくて体操服とかジャージとかを着ているので、パジャマパーティーとは名ばかりだ。
そして、今日のパジャマパーティーの開催場所は俺の家。高校二年生になってから三回目のパジャマパーティー。ちょうど中間テストが終わってホッと一息ついた時期だったこともあり、みんな顔に疲労がたまっている。
そんなお疲れムードの中、涼が「タコパをしたい」といいだしたのだ。それから、帰り道にあるスーパーで半額シールのはられたタコや、大容量のタコ焼きの粉、キャベツをひと玉買って家に帰えって今に至る。
幼いころから何度もお世話になったタコ焼き器は、ちょっと焼きムラがあるが現役だ。
「夏芽、俺たちも食べさせあいっこするか」
「な、何で。いいよ、あいつらと俺らは違うの」
俺の頭をもみくしゃにされた凪は、爪楊枝を手に取るといびつな形のタコ焼きに刺した。
だが、俺が首を横に振って断ると、またしゅんと耳を垂れ下げる。
(お前、そういうとこだよ!! しゅんって耳垂れ下げたらゆるしてもらえると思って!)
昊のいうとおり、俺は凪のことを大型犬っぽいなあと度々思う。
大型犬っていうのは、凪が俺たちの中で唯一百八十センチを超えた長身だからで、俺とニ十センチくらい差があるからだ。もっと言うと、四人の中で俺が一番背が低い。次が涼だ。
凪は基本無口だし、学校にいけばほとんどしゃべらない。話しかけられても俺に助けを求めてくるくらいには人見知りだ。だから、俺たち四人以外とはあまり交流がない。
昔はもう少し喋っていたが、凪が中学生に上がってすぐに同居していたおばあちゃんが死んで今井、そこから彼の口数は減った気がする。凪はおばあちゃんっこだったから、ショックは相当大きかっただろう。
また、俺が残りの二人以外としゃべろうとすると目つきを鋭くさせて威嚇するため、学校で『夏芽の番犬』などという不名誉なあだ名までつけられている。
「ダメか?」
「ダメって……お前、その目、止めろって。いつもは皆を睨む癖に、俺にだけ甘えて……」
「夏芽と食べさせあいっこできたら、嬉しい」
「うぅ~~~~」
口からハミング音が出る。
大きいくせに、甘えんぼうなんてどんなギャップだろうか。俺じゃなきゃ惚れていると思う。
俺は、クッションの上に座り直し凪と向き合う。凪は、きれいなタコ焼きに爪楊枝を刺し直し、俺の口にタコ焼きを持ってくる。
そのタコ焼きは少し冷めているのか湯気が出ていない。
「夏芽、あーんだ」
「……っ、あ、あーん」
耳から落ちてきた髪を引っかけながら、俺は口を開く。タコ焼きの大きさと口の大きさがあっていなくて、べたっとしたソースが唇の上についた。
「お前は、食べるの下手でかわいいな」
「はふっ……か、かわいくないし。だ、誰か。ティ、ティッシュとって」
「ほい、ナツ! ティッシュ!」
湯気が出ていないから油断した。
口の中に入れた瞬間トロッとした中身が出てきて、舌が悲鳴を上げる。
俺は、涼からティッシュを受け取って口の周りを拭う。そのあと、机の上にあったコップを手に取ってグビッと水で口の中を冷ました。それでも、すでに火傷した舌はヒリヒリしている。
「あー死ぬかと思った………………で、凪、今度は何?」
コップの中の水は空になったので水道で汲んでくるかと思っていると、俺をじっと見つめる凪の黒い瞳と目が合った。
凪は、何か言いたげにこっちを見つめているが、一向に口を開かない。
俺が「どうした?」と聞くと、凪は人差し指で自分の唇を触りながら視線を逸らした。
「夏芽、それ俺のコップだ」
「……マジで!? ごめん、間接キスだな……」
「別にそれはいい」
「もしかして、凪も水飲みたかった? 今から水道で水汲んでくるけど……って、お前、あ――っ!?」
俺が、コップを握りしめると、凪は何を思ったのか俺の飲みかけのコップに手を伸ばし、それをグイッと飲み干したのだ。
水が欲しかったならそういえばいいのに、どうしてこんな方法を……と思っていると、コト、と空になったコップが机の上に置かれる。
「これでおあいこだ」
「おあいこって……水飲みたいなら普通に言えよ……てか、何でまた不機嫌そうなんだよ」
先ほどよりもむすぅーとした顔で、凪は俺を見ていた。眼圧がすごくて、俺は思わず後ずさりしてしまう。
だが、場の空気を換えるようにパンと涼が手を叩いた。
「よーし、ここから近況報告に移ろうー!! パジャマパーティー恒例の、順番に最近あった出来事を話していくやつ。ね?」
涼はパチンと俺にウィンクし、凪も機嫌を直すようにと宥めた。
俺たちの中でムードメーカー的存在である涼の一言で、場の空気は一変する。涼が助け舟を出してくれなければ、凪の機嫌は悪化していただろう。
俺は、もう一度クッションに座り直して向かい側に座る涼と昊を見た。凪も、少しだけ機嫌を直したのか、胡坐をかきながら顔を二人のほうへ向ける。
「じゃあ、僕たちからいい?」
「たちって、涼と昊の近況報告?」
「そっ……といっても、僕たち、二年生に上がってもクラス一緒だけどね」
涼の言う通り、俺たちは高校一年生のときも同じクラスで、今年も奇跡的に四人とも同じクラスだ。普通科文系。
なので、近況報告と言ってもだいだい中休みは一緒にいるし、パジャマパーティーも何回も開催しているため、報告することなんてそうそうないと思っていた。
しかし、涼はグイッと隣に座る相方・昊の方に腕を回し引き寄せると満面の笑みを浮かべたのだ。
「僕たち、この間初めてキスしたんだよね」
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