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第1章 幼なじみとお試し恋人期間始まりました
02 付き合ってたのかお前ら……
しおりを挟む「え……ええっ!! ま、ま、それって、えっと、その……二人は、付き合ってるって……こと?」
俺は、親友二人のカミングアウトにたじろぎながら彼らに尋ねた。すると、涼と昊は互いに顔を見合わせた後、驚いたように俺の顔を見た。それから「嘘だぁ……」と気の抜けるような声を出す。
俺が首を緩く横に振っていると、涼が身を乗り出しながら俺に質問を投げる。
「ナツ、気づかなかったの? 本当に知らない感じ?」
「知らなかったも何も。え……凪は知ってた?」
「ああ、知ってた」
「嘘だろ……俺だけが知らなかったの?」
俺が再度三人に聞くと、三人は同じタイミングで首を縦に振った。
(え、もしかして俺ハブられてる?)
頭の中に浮かんだのは、何とも幼稚な被害妄想だった。
涼の様子から察するに、二人は別に隠していたわけじゃないのだろう。だから、気づく人は気づいていた……という感じだろうか。
それにしても、いつも他人のことにはさほど興味がない凪まで知っていたなんて驚きだ。
「凪、いつから知ってたの?」
「こいつら、高校性に上がったと同時に付き合い始めてたぞ」
「めっちゃ前じゃん。もう俺たち二年生なのに」
「……別に、こいつらは隠そうともしていなかったしな。分かりやすすぎる。まあ、本人たちの口から直接聞いたわけじゃないが」
凪はそこまで言うと、二人のほうを見た。
二人はニコニコとしており、いつも通りのようにも見える。
しかし、付き合っているというカミングアウトは俺にとって衝撃だった。
俺は、驚きのあまり手に持っていた箸を床に落とす。箸を拾うべく机の下をのぞくと、ちゃっかり涼と昊は手をつないでいた。しかも指を絡ませあっている。そんな二人を見て、また動揺しゴンと机に頭を打つ。
「いてっ」
「大丈夫か。夏芽」
「う、うん……ほ、本当に付き合ってる感じなんだ。じゃれてるんじゃなくて」
「そう! 僕たち真剣にお付き合いしてまーす! ね、昊」
「そーそー。ほんと、夏芽は鈍感だなぁ? 知らねえの夏芽だけだぞ?」
「……いや、付き合ってるなら一言言ってくれてもよかったじゃん。俺たち親友同士なんだし」
俺は、そそくさと箸を拾い机の上に置いた。
「親友同士だから気づくかなーって。ねえ?」
涼はそう言って二人の顔を見た。二人は完全に同意とでもいうように首を縦に振るので、俺は自分の鈍感さに絶望した。
そんな俺に、涼は「ナツはいつも鈍感だねぇ~」とニヤニヤというので苛立ちすら覚える。
(付き合って一年記念って感じなのかな……)
俺が鈍感なのは昔からだ。
俺は、告白されるまで告白してくれた子のアピールに気づかなかったし、服に値札がついたまま一日過ごすこともあった。些細なことから、大きなことまで。とにかく俺は鈍感だ。
でも、親友二人が付き合っていることに気づかなかったのは、なんだかちょっと寂しい気もした。
「俺が鈍感なのみんな知ってたじゃん! もう、言ってくれればよかったのに! そしたら祝福したし、ケーキ買ったし! そ、それで、キ、キスしたって……ひぇ……」
「おい。涼、昊。夏芽が困っているだろ。惚気話はよそでやれ」
「い、いや、凪いいよ……そりゃ、親友二人の惚気話とか恥ずかしいけど。その、二人にとってはおめでたいことだし。ちょっと、興味ある、かも?」
凪は、俺のことを心配して二人に話すなと言った。だが、俺は二人の中に関しては気になることがあったので怖いもの見たさに聞きたくもあった。
凪は「いいのか?」と俺に問いかけてきた。俺は「いい」と答えたうえで、凪のほうを見る。凪の顔はむすっとしていて、この手の話題が好きじゃないのが伺えた。
だから、二人が付き合っていたことに関してもノータッチだったんだと思う。
俺は案外こういう話に興味あるけど、凪は違うのだろうか?
「凪は、こういうの興味ないの?」
「こういうのってなんだ」
「だから、その……恋バナ?」
「………………別に」
凪はそっけなくそう言うと、二人のほうを見て目を細めた。
二人は「なれそめから行く?」とか「どっちから告白したか聞きてえだろう」とか楽しそうに話しかけてくる。
そんな様子を見ていると、いつも通りの二人に見えなくもない。ただ、二人をカップルというフィルターを通してみるとバカップルにみえるから不思議だ。
(確かに、前よりも距離近いかも……誤差かもしれないけど)
それから二人は、昊から告白したこと、告白のタイミングに迷っていたことなど聞いてもいないのにあれこれと話し始めた。そして、この間、涼が昊の家に行って初めてキスしたのだと話してくれたのだ。
話が終わるころにはお腹いっぱいで、大量の糖分を摂取した気分だった。
二人は、俺の知らないところでイチャイチャしてたのだ。さすがに、学校ではキスしたり手をつないだりはしていないようで安心する。でも、この様子じゃ、周りも気付いていそうだ。
惚気話を聞いているこっちはあまりの甘さに胃もたれしそうだったが、二人が本当に好き同士で楽しそうな様子を見ているのはなんだか微笑ましかった。
「てか、ナツとナギは付き合ってないの?」
「え?」
俺が二人の話にほっと胸をなでおろしていると、涼からのカウンターパンチを食らう。
何で俺と凪が付き合っているという話になったのだろうか。
俺は思わず凪のほうを見たが、凪はさらに顔を険しくして「こっちに話題を振るな」と怒っていた。
「いーじゃん、ナギ」
「よくない」
「じゃあ、ナツ。話し戻すけど、本当に二人は付き合ってないの?」
「つ、付き合ってないよ。どうして……?」
「いやいや、二人とも距離近いじゃん」
涼はそれだけ言うと、昊に同調を求めた。昊も「確かに距離近いよなあ。俺たちみたいに」と頬杖をついて俺のほうを見る。
二人と違って、俺と凪は付き合っていない。でも、あいつらの目から見たらそう見えるのか……と新たな知見を得た――が。
「付き合ってるなら、俺言うと思う。二人は、俺に言ってくれなかったけど、俺言うよ? で、えっと、付き合ってません」
「そうなんだーへえ~」
「涼のそのへぇ~って何。怖いよ」
「い~や、なんか、驚いちゃって。てっきり付き合ってたのかと。二人が付き合ってたらさ、夏休みにダブルデートとかできたらいいな~って思ってたのに」
「勝手に俺たち巻き込まないでよ。な! 凪! ちょっと迷惑だよな……凪?」
昊は涼の味方だろうし、凪を味方につけようと彼のほうを見るとまだ何とも言えないといった表情で凪は唸っていた。
俺と勝手に付き合っていると思われたことに腹を立てているのだろうか。それとも、涼が余計なことを言ってちゃかしたから怒っているのだろうか。
俺は、これ以上空気が悪くなったら嫌だから「凪」といって彼の手を握った。すると、俺よりも一回りほど大きな手の指先がピクリと動く。
「どうした、夏芽」
「は、話聞いてた?」
「あまりに突飛な妄想すぎて、途中から寝ていた」
「そ、そう……ほら、二人とも凪も呆れてるじゃん! 俺たちは、二人と違って付き合ってないから」
俺がそう宣言すると、二人は何故か残念といった感じに肩を落とした。
二人がそうだからといって俺と凪がそうとは限らないだろう。
(確かに、俺と凪も距離近いけどさ……)
幼なじみといっても、最初に仲良くなったのは凪だった。
確かあれは幼稚園のころだった。
俺が幼稚園に入ったばかりのころ、園内の部屋の隅で泣いている凪を見つけて話しかけに言った。家が隣同士だったし、よく庭で遊んでいた凪の姿を覚えていたからだ。
そのとき凪は、お母さんが恋しくて泣いていたのだが、俺が戦隊ものの話をしたら話に乗ってくれるようになって……そこから、一緒に幼稚園に通うようになった。
それから、年中のときに同じ組になった涼と昊と仲良くなって、実は二人も向かい側の家の子どもだって分かって今の関係に至る。
二人よりも一年くらい凪とは長い付き合いだ。
多分、あっちの二人も俺たちと同じようにニコイチで、それが今では大親友四人になった。
(二人が付き合ってたのは本当に知らなかったんだけど……そう思うと、今更って感じはするかな)
別に不思議なことじゃなかった。
驚いたが、二人の距離感は親友にしては距離が近すぎたからだ。とはいえ、俺と凪も似たようなものだし、俺たちは互いに距離感が近かったため気づかなかった。これが普通だと思っていた。
「ナツ、付き合う予定とかは?」
「まだその話引っ張るの? 凪が嫌がってるからやめなよ……俺も、別に……」
「ん~? ナギは嫌がってるというか、何というか……あっ、じゃあこうしたら?」
「今度は何……」
涼は俺たちの中ではムードメーカー的存在だが時々突拍子もないことを言うので怖い。
今回は何を言うんだと身構えていると、両手で俺たちを指さし満面の笑みを浮かべてこう言った。
「二人ともお試しでお付き合いしちゃうとか?」
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