幼なじみの番犬くんは、俺にご執心~お試しで付き合うことになったあいつの距離が近すぎてムリムリムリムリ!!~

兎束作哉

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第1章 幼なじみとお試し恋人期間始まりました

03 お試し彼氏っていやいやいやいや……

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 涼の突拍子もない発言に、俺は驚きすぎて開いた口がふさがらなくなった。
 だが、その発言に誰よりも早く苦言を呈したのは凪だった。


「涼、余計なお世話だ」
「余計なお世話ってほどでもないでしょ。二人とも距離近いし、僕と昊が付き合ってるんじゃないかな~って勘違いするくらい仲いいし。一回お試しで付き合ってみたら、意外と好きかもって思ってもらえるかもよ?」
「……無責任すぎる。軽いノリで言うな」


 凪の一声で、涼は「ナギが怒った怖~い」と昊の後ろに隠れる。しかし、さすがの昊も怒った凪の相手は嫌なのか「今のは、涼が悪いと思うぜ?」と口にしていた。
 涼は味方を失い、今度は俺に投げかけてきた。


「ナツはこの提案どう思う?」
「どう思うって……お試しで付き合ってみるって? 凪の言うように、そんな無責任というか、軽率じゃない?」


 俺はちらりと凪を見た。
 凪は額に青筋を浮かべており、この手の話題が本当に嫌いなんだなと伝わってきた。これ以上、涼も凪を刺激するのは危険だと思う。
 でも、俺は、ほんの少しだけ付き合うという行為に興味があった。


(そういえば、誰かと付き合うとか、恋したことないかも……)


 俺は生まれてこの方、誰かに恋したこともないし、もちろん誰かと付き合ったこともない。
 だから、二人が付き合っている恋人同士だと知って少しだけ羨ましく思った。
 手をつなぐとか、キスするとか……好きな人同士でそういうことしたらどんな感情になるんだろう、好きってどんな感情なんだろうと知りたくなった。
 二人を見ていると幸せなんだろうなと思うけど、それは見ている側が感じるものだ。実際に恋したら世界が変わるかもしれない。そう思うと、付き合って恋を知っていく、人を好きになっていく……という逆の方法をとってみてもいいのかもしれないと。

 けれど、その手段に大切な幼なじみである凪を利用するのは気が引けた。
 かといって、他にそんなことにつき合わせられる人もいないし、それこそ軽率な行動だ。


(でも、知りたい)


 鈍感な俺でも恋ができるだろうか。
 誰かを好きになれるだろうか。


「夏芽、何を悩んでいるんだ?」
「え? えーっと、その提案の話。凪は俺とお試しで付き合ってみるとか……嫌、じゃない?」
「………………………………………………嫌じゃない」
「へっ!?」


 俺はてっきり、嫌だと言われるものだと思っていたので、予想外の言葉に驚いてしまった。
 凪の耳の近くで大きな声を出してしまったため、彼のきれいな顔にしわが寄る。


「あ、凪ごめん……って、俺とお試しで付き合うの嫌じゃないの?」
「嫌じゃない……が、こいつらに囃し立てられてお試しで付き合うっていうのが嫌なだけだ」
「そういうこと……へえ、嫌じゃないんだ」
「嫌じゃない。お前が嫌じゃなければ……」
「嫌じゃなければ、お試しで付き合ってみる……したいの?」


 俺の問いかけに凪はうんともすんとも言わなかった。そこは答えてほしかったのだが、またも涼が「いーじゃん」と口をはさむ。
 凪はそんな涼を一瞥する。しかし、涼は一回睨まれたことで慣れたのか、調子に乗り出して「夏休みが明けるまでお試しで付き合ってみたらいいじゃん」といい始めたのだ。こうなると涼は、誰にも止められない。


(お試しで付き合ってみる……か)


 俺と、凪が。


(というか付き合うって何すんの? 恋人って何すんの?)


 二人は、キスしたというが、お試しでキスなんてもってのほかだろう。さすがにそれは、お試しの域を超えすぎている。
 二人は恋人になったというが、それ以上に変わった様子がないし、幼なじみから恋人にステータスが変わるだけなんじゃないかとも思ってしまった。

 でも、知りたい。
 付き合うということも含めて、恋を知りたい。
 

「じゃ、じゃあ、凪。俺と夏休みが終わるまで、つ、付き合ってみる……って、この誘いかた、変かな?」
「変じゃない」
「ぅん……」


 俺の声は裏返り、部屋の中に変な空気が流れ始める。
 この流れは、夏休みまで凪と俺が付き合うという感じでいいのだろうか。
 涼と昊を見ると、「言質とった」と嬉しそうに親指を立てており、これはもう、俺たちが追お試しで付き合うという流れになってしまったということだろう。


(こんな軽い感じでいいのかな……)


 もっと、お付き合いって真剣にするものだと思っていた。
 二人がどうだったかは知らないけど、軽いノリで付き合う? とかいうものじゃないと思う。

 けれども、告白なんてしたことがないから分からない。
 俺は、改めて凪と向き合った。


「凪、いいの?」
「いい。男に二言はない」


 凪はそうはっきりといった。眼が座っていて、ガチのやつだと俺はつばを飲み込む。
 俺が「お付き合いはじめます」って言ったら、その瞬間から期限付きの恋人になる。
 凪は、見慣れた学校指定の青いジャージ姿で、俺もTシャツ一枚。今から告白するのだが、あまりに似つかわしくない服装と空気勘が漂っている。
 しかも、二人の前でとか後悔告白みたいで恥ずかしい。


(いや、でも付き合うって決めたんだし……)


 凪も言ったが男に二言はない。
 それでも、俺はどうやって始めればいいかわからなくて、とりあえず凪に向かって手を出した。


「あ、改めて凪。俺と期限付きの恋人になってください」
「こちらこそよろしく、夏芽」


 俺の出した手を凪は握り返し、そのまま自分の側に俺の手を引っ張る。俺は、バランスを崩して彼の胸へと飛び込んでしまった。


「……っ!?」


 少しふかふかとした胸筋が俺の頬にぶつかる。凪は鍛えているタイプだっただろうか。彼は確か帰宅部だったはずだけど。
 そんなことを思いながら顔を上げると、いつも通りのはずなのに少しキラキラと輝いた凪の顔があった。


(あ、あれ? 何、これ。恋人フィルターみたいなのかかっちゃった?)


 凪ってこんなにかっこよかったっけ? と俺は思わず瞬きした。俺があまりに緊張しているせいで、そう見えるだけなのかもしれない。
 俺たちの関係は一時的に恋人になったが、変わったのはそれだけだ。
 それなのに、凪が途端にかっこよく見えるのは、俺が意識しすぎているからだろうか。


(心臓うるさいなあ……)


 一瞬前までただの幼なじみだったのに、今はもう恋人だ。何の境界線も超えたわけじゃないのに、俺の心臓はバクバクとうるさかった。
 まだ何も始まっていないのに、俺は『凪の恋人』になったという事実に少し浮かれていた。
 二人は、俺たちが期限付きの恋人になったことを祝してか、ヒューヒューと拍手をしたり、口笛を鳴らしたりしていた。本当に人の気も知らないで、囃し立てている。こういうのは凪が嫌いなやつだ、と凪のほうを見るが終始無表情だった。


「凪、よかったの?」
「何がだ?」
「結局、二人に囃し立てられる形で、俺と付き合うこと……お試しだけど、期限付きの恋人になって」
「……ああ、問題ない。それに俺もそろそろ動こうと思ってたんだ」
「動く?」


 凪はそういった後、皿の上にとってあったタコ焼きを箸でつまみ、俺の口に持ってきた。
 俺は訳も分からず、また凪に餌付けされ、冷めたタコ焼きを口の中に入れる。そのタコ焼きには大きなタコと、大量の紅ショウガが入っており、俺は酸っぱさに思わずギュッと目を瞑った。


「すっぱ!」
「夏芽、今日から三か月は俺の恋人だ」
「う、うん」
「俺は、理想の恋人になるからな」
「うん……?」


 凪は、咀嚼している俺の頬をするりと撫でた。彼の指先が俺の輪郭をなぞる。
 俺は、その思わぬ行動に口からタコが出そうになったが飲み込んで凪を見る。
 凪の顔は真剣そのもので、覚悟が決まっていた。


(り、理想の恋人って何……?)


 普段の凪は、俺に甘えたで無口で、いつも俺にべったりで甘えてくる。
 大型犬みたいでかわいくて、俺がいないとだめなのが凪という男。

 でも、今の凪はひと味違うように見えた。


「無理しなくていいよ? 俺も、付き合うとか、恋人らしく振舞うとかよくわかんないし。二人で、それっぽくやっていこうよ」


 ね? といってみるが、凪は頑なに「ちゃんと恋人を執行する」といって聞かなかった。
 凪は頑固なところがあるから、俺が何を言っても聞かないんだろうなとあきらめることにした。

 そもそも、彼の言う理想の恋人とは何だろうか。少女漫画とかで出てくるいわゆる『スパダリ』というやつだろうか。
 俺は少しだけ、凪の言う理想の恋人が気になってしまった。
 目の前の二人はあいかわらず、タコ焼きを食べさせあいっこしているし、先ほどと何も変わらない。
 変わったのは、俺たちが一時的に恋人になったことだけ。でも、まだその実感は薄い。


「夏芽」
「何? 凪」
「覚悟しておいてほしい」
「な、何を?」
「俺と恋人として過ごす三か月をだ。かならず……いや、何でもない」


 凪はそれだけ言うと、また俺にタコ焼きを進めてきた。
 俺は、それをお腹いっぱいといって断り、苦笑いを浮かべることしかできなかった。

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