みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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第3部1章 死にキャラとひと肌恋しい季節

10 借り物競争

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 午後の種目も始まり、白組が午後一発目の種目で勝ち越し、白組が紅組を追い抜いた。しかし、点数で言えば僅差であり、次の種目で同点に追いつかれる。接戦を繰り広げ、どちらが勝つか勝負は分からなくなってきた。

 ちなみに、俺は午後の種目では大縄跳びに出たし、アルチュールは綱引きに出ていたので、どちらも今後の種目の参加権はない。出た種目に関しては、玉入れ以外は白組の勝ちに持ち越せた。

 あとは、午前の種目が終わった後、どこかに行ってしまったゼラフの姿も見かけた。やはり、ゼラフが出ると、場の空気が変わるというか、誰も彼に話しかけはしなかったが、ゼラフが出ている種目は確定で紅組の勝利だった。
 ゼラフは、魔法科だけど剣魔大会では騎士科枠で出て、騎士科の生徒を圧倒するほどのフィジカルも技術もあるし、魔法に関してはもう言うまでもなくレベルが高い。そんなゼラフが出たら、他の人が勝てるわけもなく、手も足も出ないような勝負になって面白味はなかった。
 ゼラフ自身、楽しんでいる感じがしなかったのはなんだかさみしく思ったけど。

 俺とアルチュールは、出場権がないので大人しく席に座って試合を眺めていた。ちょうど、玉転がしが終わって、最後の種目の準備が始まったところだ。


「次が最後の種目ですね。借り物競争……? って、何ですか。ニーくん」
「ええっと……選んだ紙に書かれているものを借りて、ゴールを目指すっていうシンプルな競技なんだけど。これは、多分任意参加だから、出ようと思えば出れるよ?」
「そうなんですか? 今からでも参加は可能だと」
「で、出るの? やめておいたほうがいいよ。これ、見世物競技だし……」


 俺がそういうとアルチュールはそわそわとし始めたが、何か思うところがあったのか、席に座りなおした。
 先ほどまで、バチバチに試合を繰り広げていたため、最後に娯楽競技でしめるのはなんだかな、と俺は思う。でも、学生からしたら、この借り物競争はすごく盛り上がるし、何ならリレーや、玉入れよりも盛り上がる。
 アルチュールに言ったように任意参加なので、今から参加しようと思ってもできる。三回種目に出てしまった学生も対象内なので、参加はできるのだが、毎年参加人数が多くて収拾がつかなくなる。俺は、一年生のころ一回参加したことがあるが、あれはひどかったなあーと思い出し、それ以降参加はしないと決めている。
 それと、借り物競争は、白組、紅組関係なく、誰が先にゴールできるか、みたいな種目だから参加人数も制限がない。ただ、毎年変なお題ばかり出されるため、競技中に帰ってこれない学生も多々いた。


「じゃあ、楽しく見物させてもらいます。その、お題? でしたっけ。紙に書かれているもののは、例えば何があるんですか?」
「うーん、去年は飛竜の卵とか、騎士科の教師の臭い靴下とか?」
「面白そうですね!」
「あ……アルチュール、すっごく楽しそうだけど、出場選手は命がけなんだからね?」


 アルチュールがいつも以上に声をはずませていうので、こういうの好きなんだ、と学生らしい一面を見た気がした。
 だって飛竜の卵なんて、竜舎小屋まで走らないといけないし、そもそも飛竜が卵を産んでいるなんて珍しすぎるし。卵を産んでいたとしてそれを盗もうものなら、激高した飛竜に追いかけまわされることになるから大変だ。
 騎士科の教師の靴下だって、失神する人が続出するくらいの匂いだし、結局それを引き当てた人は医務室に運ばれてゴールできなかったし、まさに命がけの借り物競争だ。
 もちろん、お題はそれだけじゃない。


(BLゲームのためだけに作られたといっても過言じゃない種目だし。本来なら、アルチュールも参加するんだけど……)


 ゲームのシナリオから外れているため、アルチュールは不参加ということだろうか。

 あと、この借り物競争は、他に障害物競走を混ぜたような仕組みになっていて、髪に書かれているお題を持ってきた人を妨害してもいいことになっているし。攻撃魔法の部類を発動したら、その地点で反則負けだけど。


「はあ~~~~やっぱ、こういう行事ごとは苦手だわ」
「ぜ、ゼラフ!?」


 どかっと、俺の隣に座った赤い髪の男に、俺は思わず立ち上がってしまった。
 アルチュールも俺がいきなり立ち上がったので、ビクッと肩を震わせており、なんか申し訳ない気持ちになってきた。
 事の原因であるゼラフは俺のほうを見ると、ニヤニヤと笑って、膝に肘を置き、頬杖をつく。


「何びっくりしてんだよ。ニル」
「びっくりするでしょ。いきなり現れて……気配消してたみたいだし」
「護衛騎士様なのに、いいのか~? そんなに隙だらけで」
「……うるさいな。で、ゼラフは出ないわけ?」
「俺があんなもんに出るわけないだろ? みせもんになるのはごめんだぜ」


 肩をすくめた後、やれやれと首を横に振る。
 ゼラフも出ないのか、と俺はじゃあ誰が出るんだと競技が行われる会場に目を移す。そこに、銀色を見つけ、勢いよく立ち上がってしまった。


「セシル!?」
「ニル、声がでけえぞ」
「いや、だって、セシルが出てるんだけど!? ゼラフが出ないんだったら、セシルも出ないって思ってたのに」
「なんで俺が出なかったら、あいつが出ないことになるんだよ。じゃんけんで俺に負けたからあいつが出るんだぜ?」
「はあ!?」


 面白いだろ、といわんばかりにこっちを見てきた、ゼラフに俺は声を荒げてしまう。
 ゼラフ曰く、借り物競争に出ないかとゼラフが冗談で言ったところ、セシルは出ないと答えたらしい。だが、煽り耐性の低いセシルは、ゼラフの挑発に乗ってじゃんけんで負けたほうが参加するという勝負にのってしまったらしい。そして、結果は見ての通りというわけだ。

 本当に人の見ていないところで、セシルは……と、心配になってくるし、してやったりというようなゼラフの表情もなんかうざい。
 とにかく、攻略キャラの中で出るのはセシルと、目立つ黄色のフィリップだけだった。しかも、見た感じフィリップはセシルにちょっかいかけに行っているみたいだし。

 俺は、観客席で、アルチュールとゼラフに挟まれて逃げることすらかなわない。とは言いつつも、かなりいい席であり、席の中では一番セシルに近い席かもしれない。


「皇太子殿下が何引くか楽しみだな」
「なんで、ゼラフが楽しみにしてるのさ。セシルのこと見世物みたいに」
「皇太子殿下がこんな庶民的な競技に参加するんだぜ? そりゃ楽しみだろ」
「性格が悪い……」


 といいつつも、ゲーム内ではかなり胸キュン展開があったイベントでもあったので、少しワクワクしているのも確かだった。

 好感度が高いキャラが、お題に書いてあった”借り物”を探し、主人公とゴールする。そんなスチル絵を思い出して、現実を見る。
 この時点でもし、アイネがセシルを攻略していたのであれば、アイネがセシルが引いたお題によって一緒に走ることになるが、そんな未来は来ないものと考える。となると、そもそもセシルが何のお題を引くかもわからない。
 ゼラフの言う通り、見世物になるのだけは、俺は避けたいが、こればかりは運である。
 ワクワクした気持ちは、段々たと潮が引くように引いていき、変わりに不安というか、ハラハラ感が押し寄せてくる。
 セシルが出場するからか、女子学生の歓声が大きくなる。女子学生だけじゃなくて、セシルに魅せられている男子学生も、セシルを応援しているみたいだった。どうやら、お題の中に彼らを駆り立てる何かが書かれているお題があるらしい。

 ゲームを知っているから、だいたい何が書かれているか知っているが、それを惹くとは限らないだろうし。


(セシル、お願いだから、変なお題だけはひかないでね……)


 祈ることしかできないのがつらい。

 それと、セシルは、なぜ自分がこんな競技に出なければならないのだ、しかも一人で、と不満ありありといった表情をしていて、俺の視線にも気づいていないようだった。セシルに絡みに行くのは、同じ攻略キャラのフィリップぐらいだし……

 スタート位置について、約三十人ほどの学生が目の前に見える机を見据えていた。机の上には人数以上の紙が置かれており、どれをとるか皆、獲物を狙う獣のような目で見ている。
 そして、スタートの合図と同時に駆け出し、紙に手を伸ばす。それはもう争奪戦で、一度掴んでみたものは返却できない。紙を広げて、絶望するものや、内容が簡単なものでガッツポーズしているものもちらほらと見かけた。そして、お題に書かれているものを探しに、会場中に散らばっていく。
 ただ、紙を広げたセシルだけその場で固まり、会場中をぐるりと見渡していた。


「皇太子殿下は、いったい何をひいたんだろうな~」
「ねえ、俺に絡んでくるのやめてよ。ゼラフ。あと、腕重いからやめて」
「もしかするとお題は、『高位貴族の令嬢』かもしれないぜ? あいつ、女性に触れたことすらないんじゃないか? だから、固まったとか?」
「……ゼラフ。君は、セシルのことなんだと思ってるの」


 俺の肩に肘を乗せ、うりうりと俺の頬をつついてくるゼラフに俺は突っ込むのも面倒になってきた。ただ、重いので離れてほしい気持ちはあって、冷たい言葉で対抗するが、全く離れてくれる気配はない。
 隣で、楽しそうに観戦しているアルチュールを見守ってほしいくらいだ。


(セシルのお題、なんだったんだろ……すごく迷ってるようだけど……)


 鉄板はやはり『好きな人』とかだろうか。そうだったとしたら、セシルが迷うはずもない……いや、迷うのか。
 俺のことを好きだといって一緒にゴールしたら、俺たちの関係はバレてしまう。セシルはそれを避けたいだろうし、となるとそもそもゴールすることが困難になる。かといって、セシルが突っ立ったままというのも、周りからしたら面白くないし、都合のいい人を選んだら選んだで、好きな人を誤解されてしまう。そんな負のループ。

 あくまでセシルがそんなお題を引いていたら、の話だが実際どうなのだろうか。

 俺は、ごくりとつばを飲み込んで、セシルを見ていると、少し遠い位置からその夜色の瞳と目があった。ドクンと心臓が脈打ったと同時に、セシルは何か覚悟したようにこちらに向かって走ってくる。
 後ろの女子学生たちの黄色い歓声が飛ぶ。


「皇太子殿下がこちらに来るわ」
「もしかして、皇太子殿下が引いたお題って!?」
「何でもいいから、皇太子殿下に選ばれて、ゴールまで一緒に走りたいわ」


 と、キャーキャーと後ろで盛り上がっている。

 セシルに限ってそんなことは、なんて思うのは俺だけだろうか。セシルが他の女子と手をつないで走っている姿は想像がつかない。一応BLゲームだし、男子と……でも、それは主人公のアイネ限定だったし。
 まあ、セシルが見世物にならないことを願いつつセシルを他人のように見ていると、観客席の柵を飛び越えてセシルが俺の前まで来た。
 後ろで、え、と大きな声が聞こえ、歓声も止まってしまう。
 夜色の瞳を持った彼は、俺を見ていた。


「セシル?」
「ニル、一緒にきてくれないか?」


 前言撤回。
 これは予想外。


(待って、待って、待て!? 一緒にきてくれないかって、お題、お題何!?)


 真剣な目で見つめられ、まるでプロポーズのように、俺を選べと手を出しているセシルを俺は見て、かたまるしかなかった。後ろに下がろうにも椅子があって、隣にはゼラフとアルチュールがいる。逃げ場なんてないし、周りにいる人たちの視線が刺さっていたい。
 セシルは、そんなこと気にも留めていないが俺がいたたまれない。


「セシル、お題なんだったのさ」
「あとで教える。今は、一刻も早くゴールすることが重要だ」
「勝負事好きだね。いいよ、でもちゃんと教えてくれなきゃ怒るからね?」
「ああ」


 人の目もある。そして、その目から逃れるために俺は手を取った。
 この場でお題を教えてくれないということは、そういうお題なのだろうか。だが、恥ずかしげもなく、本当にまっすぐにこっちに走ってきたものだから、もしかしたら違うお題なのかもしれない。
 何よりも、セシルに選ばれたことを喜ぶべきなのだが、俺は自分の冷たい手がセシルの熱すぎる手に触れたときやけどしそうで痛かった。セシルに選ばれた以上一緒に走るが、後ろから刺さる視線は少し怖かった。令嬢たちの嫉妬は恐ろしい。
 俺はセシルに手を引かれながらコースを走った。そして、目の前には先を走るフィリップとアイネの姿がある。


「少しスピード上げる?」
「そうだな、ついてこれるか? ニル」
「あったりまえじゃん。俺のこと見くびらないでよ」


 セシルがスピードを上げ、俺はそれについていく。主君に置いていかれるようなやわな護衛じゃない。それを見せつけるためにも走った。だが、前を走っていたフィリップが、こちらを振り向いたかと思うと、詠唱を唱え、次の瞬間下から岩がボコりと飛び出した。
 間一髪それをよけることができたものの、二発目はあろうことかセシルの足元に現れ、俺は迷わずそれに飛び込んだ。


「セシル……!」
「ニル!? ……っ」


 突き出た岩に足が擦れ、じくんと足首が痛んだ。俺は、セシルを押し倒すようにその場に倒れてしまい、どうにか体を起こそうとしたが、足が思った以上に痛んで奥歯をかみしめる。


「セシル、大丈夫?」
「ああ……だが、それを聞くのはこっちだ。ニル」
「ごめん、俺のせいで一番にゴールできないかも」


 本当に、フィリップはこういう妨害行為になれている。こざかしいなあ、と一年生相手に思いつつ、俺はセシルの上から退いて、どうにか立とうとした。だが、やっぱり足が痛んで起き上がれない。
 後ろから、お題をもってきた選手たちが次々に走ってくる。このままじゃ、ドべになるかもしれない。
 もっと、いい避け方があったんじゃないかと自分を責めていると、セシルが大丈夫だ、と俺に優しく微笑みかけた。何が大丈夫なんだ、と思っているとひょいと体が跳ねになったように軽々と持ち上げられてしまう。


「ちょ、セシル。みんなが見てるのに!」
「まだ、追いつけるぞ。一番は譲らない」
「負けず嫌い……おんぶでいいのに」
「いや、こっちのほうが走りやすい」


 いわゆるお姫様抱っこをして、セシルは走り出す。
 先ほどよりもスピードが落ちたかと思ったが、彼の腕の中で切る風は、先ほどよりも早い気がした。ひゅぅんと風の音が耳を通り過ぎていく。どう考えても、俺という重みを抱いて走れるスピードじゃない。
 俺も筋肉がつきにくいとはいえ平均体重だと思うし、そんな俺を抱きかかえて通常通りに走れるセシルってなんだ、と俺は彼を見上げる。セシルは前しか見ていなかった。そして、あっという間にフィリップに追いつくが、また彼はスピードを緩めて、俺たちに妨害魔法を仕掛けようとした。
 セシルは、どうにかよける体勢をとったが、減速すれば今度こそ追いつけなくなる。一位を逃してしまう。


「……っ、な。徒花先輩、魔法使うなーって周りから言われてるんじゃないんすか!?」
「主君が負けるところ見るくらいなら、魔法だって使うさ。それに、禁止されてないし。ね?」


 俺は詠唱を唱え、フィリップの足元めがけて氷魔法を発動した。彼の足は氷漬けになってその場に縫い付けられる。俺が魔法を使うことは予期していなかったらしく、フィリップは、焦ったように叫んでいた。アイネは心配して、彼の魔法を解こうとしたが、俺の魔法がそう簡単に解けるわけもない。
 セシルは、そんなフィリップとアイネの横を問答無用で通り抜けた。
 俺は、通りすがりざま、ごめん、と口にする。そして、通り過ぎて彼らに背中を見せたところで、心臓がぎゅぅっと痛んだ。


(……っ、たいけど。でも、これで、勝てる)


「ニル、何故魔法を使った」
「さっきも言ったでしょ? セシルが負ける姿は見たくないの。お題がなんだかわかんないけど、セシルを一位にしたいし。俺を選んでくれたんだから、君の一位に貢献するよ」
「……そうか。だが、魔法を使ったことだけは許さないからな。後で、魔力供給してやる」
「お手柔らかに」


 一位が確定したっていうのに、俺のこと心配して怒っているセシルは、やっぱりセシルだなあ、と胸が温かくなる。この寒さも、彼の腕の中で少しだけ緩和されるのだ。
 障害はすべてとっぱられて、セシルはゴールテープをとらえ、そしてそのテープを無事走り抜けた。

 ゴール!! と、審判の声と、大きな歓声、拍手が鳴り響く。

 ゴールから少ししたところで、俺はようやくセシルの腕の中から解放され、走って息が上がっているセシルの肩をつついた。


「それで? お題は何だったのさ」
「……言わなければならないか?」
「もちろん。だって、そういう約束だったでしょ?」


 俺がそういうと、セシルは汗をぬぐいながらそっぽを向いた。だが、俺が詰め寄れば観念したように手を上げる。


「……一番かわいいと思っている人、だった。お題は」
「い、一番かわいい人って。それ、俺他の令嬢たちに刺されない?」
「お前以外、かわいいとは思えない。きれいだとは思えたとしても、俺が心からかわいいと思うのはニルだけだ」
「なんか恥ずかしすぎる。そのお題で俺が選ばれるってことが、恥かしいし、真剣に言われてるってこの状況も恥ずかしい」


 俺が走ったわけじゃないのに、顔が熱くなる。


「………………本当は一番大切な人だがな」
「なんか言った? セシル?」
「何も言っていない。ただ、この一位は、お前の貢献あっての一位だ。ニル」


 俺の頬に触れ、そしてもう片方の手は俺の手を握る。指先が冷たくなっていることに気づき、セシルは指先をきゅっと握った。セシルの手は、いつだって熱い。


「楽しかった? 体育祭」
「ん? まだ終わっていないが……そうだな。楽しかったぞ。お前と違う組だったが、敵として見るニルの顔も、珍しくてよかった。戦っているお前の姿は、誰よりも輝いている。好きだ」
「ちょっと、誰が聞いてるかわかんないのに、そんな……セシル、だって、すごい注目されてたし」


 セシルが出場するたび、会場の熱気はそれはもう熱中症になるのではないかと思うくらい熱かった。
 セシルは、普段人を寄せ付けないが、やっぱり皇太子としてか、それとも目立つ強者としてか、みんなに期待されているんだなと分かって、誇らしかった。
 ただ、セシルが他の人に見られているっていう誇らしくも、独り占めしたいのにという気持ちも同時に生まれて。


(でも、かっこいいセシルを見るの、好きだし。一生懸命なセシルはかっこいいよ)


 俺は、セシルの額の汗に手を伸ばし拭ってやると、セシルは試合中のかっこいい表情ではなく、柔らかな愛おしいものに向ける特別な表情を浮かべてくれる。そのギャップに、俺は胸を貫かれてしまう。


「やっぱり、セシルが注目されるのやかも。俺だけのセシルなのに」
「かわいいこと言ってくれるな。ニル」
「うっさい。セシルの中でかわいい堂々の一位の俺がかわいくなわけないじゃん。バーカ、バカセシル」
「何をしてもかわいいだけだぞ。ニル。本当に、お前は、最高に愛おしい」


 恥ずかしげもなくそういって、もう一度俺の頬を撫でる。
 熱い手が俺の頬を溶かしていくように、セシルは周りの歓声も賞賛の声もすべてを無視して、ただ俺だけを見つめていた。
 彼の視線を釘付けできるのも、彼に一途に思われるのも俺だけの特権なんだと、俺は、足の痛みを忘れ、彼と同じように愛しいものの表情を見て笑みがこぼれたのだった。
 体育祭が終わるアナウンスが入る。俺は、後から合流したアルチュールに肩を貸してもらい歩き、白組の席へと戻る。
 今年の結果は、紅組の勝ちだった。もちろん、僅差だったが、優勝トロフィーを抱えていたセシルを見ていると、来年は同じ組で、同じ勝利をかみしめたいなと思った。

 来年も、またこの熱を一緒に――

 晴れ晴れとした秋空は、体育祭が終わるころにはすっかりと燃えるオレンジ色に染まっていた。
 祝賀会に誘われていたくせに俺のほうに真っ先に歩いてきたセシルと共に寮に戻るのだった。


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