みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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番外編SS

この世界にそんなものがあったなんて破廉恥な

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「最近の閨教育は進んでいるな」
「ふぁっ!? せ、せせせせせせ、セシルいきなりどうしたの!?」


 公爵邸のほうに泊まりに来ていたセシルが、いきなりそんなことを言い出したので、俺は声が裏返るどころの騒ぎじゃない奇声を発してしまった。
 セシルは俺を心配そうに見ていたが、何度か咳払いをして、ごまかせないものをごまかしてみた。気持ちだけ。
 ベッドに腰を掛けて、そろそろ寝るか、というときにそんなことを言い出したので、若干そういうことかなーと期待したのは俺は悪くないだろう。だが、セシルはきょとんとした顔で俺を見ているので、俺の早とちりだったかもしれないと、顔がぽっぽっと熱くなる。


「何を驚いてるんだ。ニル。今さら閨教育の話で驚いて」
「いや、そうだけど……何をいきなり言い出すかと思ったら、その。驚くじゃん」
「そうか?」
「そうなの! で、閨教育が何」
「ネーベルの閨教育が始まったらしくてな」
「ネーベル殿下の? でも、早くない?」


 ネーベル殿下は、セシルの血のつながった弟である。

 でも、年の差はあるし、そんなネーベル殿下がもう閨教育を受けるのか、と感慨深い気持ちになる。俺たちが受けたのはいつだったか。
 閨教育を受ける理由はまあ多くあるわけだが、一つは間違いを犯さないためだろう。そして、皇族や貴族として子孫を残すため。


「年々、皇族や貴族の閨教育は早くなっている。早いうちから教えこませることで、無知なまま不埒な行為に手を染めさせないためでもあるし、巻き込まれないようにするためでもある」
「まあ、早いほうがいいのは分かるけど」


 俺の前世でも、性教育は子供のうちから……と年々その傾向が早まっていた。命を授かる行為にもなるし、何より互いの心や体を傷つける可能性もある行為だ。早めに教育を受けたほうが、後々間違いを犯すことがないだろうと。正しいとは思う。
 正しい知識があれば、いざとなったとき相手を気遣えるし、満足させられる。パートナーとなる人を大切にするために教育は受けるべきだろう。下手に誰かから聞いた信ぴょう性もない話をうのみにするよりかは、教育として受けるほうがいい。

 ――で、セシルの言いたかったことは果たしてそれだけだろうか。


「それで? こんな話を俺にして、何が聞きたかったの?」
「聞きたかったというかな……先ほど進んでいるといっただろ」
「閨教育が」
「ああ。それに伴って……というよりかは、今はこんなものがあるのだと思って」


 と、セシルは少し待っていてくれ、と腰かけていたベッドから立ち上がって部屋の隅に置いてあった自分の鞄を持って帰ってきた。

 俺はいったい何が入っているのだと覗こうとすれば、セシルはベッドの上に鞄の中身をぶちまけた。


「えっ……!!」


 えっちだ。

 その言葉が、口に出なかっただけよかった。
 ベッドの上には、大人の玩具だと思われる道具が無造作に散らばった。この世界にもこんなものがあるのか、と驚きもありつつ、興味もあって、俺は思わず手で顔をふさいでしまったがちらりと指の隙間からそれらを見た。
 俺たちのときの閨教育でもそういったものがある、と言っていたがあのときよりも確実に俺が前世で見たときのものと造形が近くなっている。というか、魔法石が埋め込まれているので特殊な動きをするのだろうとも予想ができた。


(せ、セシルって、けっこうむっつりだよね……)


 いや、その言葉があっているのかはわからない。ただ興味があって拝借してきた可能性もあるわけだ。
 ここは、心を乱したほうが負けな気がする。ううん、俺の負けはすでに決まっていた。


「すごいぞ、ニル。これは魔法石で動くらしい」
「……や、やめてよ。セシル。そんな目を輝かせて」
「面白いだろ?」
「あまり、面白いとか言っちゃだめだと思う……いや、普通の反応かもだけど」


 初めてアダルトグッズを見た男子学生のそれだ。
 そういうお年頃なのはわかるし、テンションが上がるのも分からないでもない。
 ただ、セシルの手元でうにょうにょと動くそれを見ていると、目もあけていられないっていうか。恥ずかしいっていう気持ちが膨らんでいく。
 セシルが今手に持っているものは、いわゆるディルドと呼ばれるやつだろう。この世界でそんな呼ばれ方をしているのかはわからないが。明らかに男性器を模した形状をしており、それは埋め込まれた魔法石に触れることによって生き物のように動いている。音が出ないのが斬新で、魔法石に再度触れることで動きが変化するらしい。ご丁寧に取っ手付きで、色も透明と動きは卑猥だがそこまでエッチな色じゃないのがポイントが高い。
 ベッドの上には他にもいろいろとあり、球体が連続してつながっているものや、スライムのようなものが詰められている立方体なんかもあった。そしてセシルが好きそうな拘束具まであって、俺はさすがにそこで何に使うのか想像するのをやめた。


「ニル」
「わかった。言いたいことは分かった。ダメ」
「まだ何も言っていないだろ」
「だから、わかったっていったの! さっきの! ネーベル殿下の前置きが長かった!」
「ダメか」
「ダメっていったじゃん。聞いてなかったの?」


 俺が怒ると、ディルドを持ったままシュン、となってしまったセシル。
 俺が何でもかんでも許すと思ったら大間違いだ。
 まさか、却下されるとは思っていなかったのか、セシルはベッドに散らけた物を見て黙ってしまった。それを見ていると、なんだかかわいそうな気もするが、あれを使われるのは俺である。自分の身のため、今回は致し方がないのだ。


「……いつも同じだと、マンネリ化すると思った」
「勝手に決めんなよ……いつものでも十分、俺は、きもち……きもちいい、から」
「かわいいな、ニルは」
「なんか開き直った!?」


 かわいいといえばいいと思っているのだろうか。
 その一言で、胸がぞわぞわっとするから本当にやめてほしい。真剣な顔で、かわいいなんて言われて、何も感じないほうがもうおかしいのだ。
 俺は、これもセシルの作戦の一部なのではないかと考え、グッと堪え、きっぱりノーだという。
 それでセシルはようやく諦めてくれたのか、カバンの中に大人の玩具を片づけ始めた。
 まあ、今度気が乗ったら試してあげないこともない。


「そんなに嫌か?」
「あきらめたんじゃなかったの?」
「あきらめきれない部分はある」
「うん、ダメ」
「理由を聞いてもいいか?」


 と、セシルはダメの一押し俺に聞いてきた。

 ここで俺がノーと彼に突き出せる頑固たる理由が出てこればいいが、パッと思いつかなかった。しばらくして思いついた理由も、彼を納得させられるものかどうか怪しい。一か八かいってみるしかないか。


「……せ、セシルはきっと、玩具使ったら、玩具に嫉妬するから」
「どんな言い訳だ」


 ぴしゃりと言葉が返ってきたが、俺もそりゃそうだよなーという気持ちもあって、すぐには反論しなかった。
 セシルが玩具に嫉妬するってどんな状況だよ、と自分でも言いたい。でも、セシルは何にでも嫉妬するし、俺が玩具でよがったら、自分のほうが気持ちよくさせられるのに! とか躍起になりそうだし。ここまでは俺の妄想なんだけど、実際やってみたらどれくらい妄想があっているだろうか。
 セシルは「俺が、玩具ごときに嫉妬……」と、何故か信じられないことを聞いたように復唱していた。そこまで真剣に悩まれると、さすがの俺も撤回しづらくなる。


「ほら、俺がもしセシルのより玩具がいいーっていったら、セシル嫌でしょ?」
「当たり前だ! 玩具なんかに俺が負けるはずもない」
「ふーん。でも、さっきのそれ、いい動きしてたよね。セシルができない動きじゃない?」
「なっ……そんなことはない」


 ディルドを指さして言ってやれば、セシルは、カッとなってディルドを手で握った。ミシミシ、と透明なペニスが悲鳴を上げているように見える。セシルのバカ力じゃ、壊しそうなんだよなーと、俺は他人事のように思い、どうなの? と再度訪ねてみる。
 セシルは、ディルドト俺を交互に見て悩まし気に俺のほうを見た。


「じゃあ、セシルはセシル以外のが、俺のあ……後ろ、犯してもいいっていうの? 挿入ってもいいっていうの?」
「ダメだ!」
「でしょ?」
「うっ……」
「うっ、じゃないし。想像してからそういうの持ち出してよ」


 わかった、と蚊の鳴くような声で言って、セシルはしぶしぶといった感じで鞄にすべてを片づけた。
 俺は内心ふー、と大きく息を吐いて乗り切ったと胸をなでおろした。
 こんな理由でも切り抜けられるんだという新たな発見もあったし、セシルがたまに見せるあきらめの良さに感謝しなければと思った。まあ、正直気にならないわけじゃなかったけど、口にしたように、セシル以外のをここにいれたらなんだか裏切りになるような気がしたのだ。
 そう宣言した以上は、俺も使わない。たとえ、セシルが俺にかまってくれなくても、お尻は弄らない。


「せっかく持ってきたのにな」
「お泊り道具に、そんなもの持ってくる人初めてだよ」
「まあ、いずれ使うかもしれないからな。大切にとっておく」
「怖いなあーそのいつか、来ないでほしい。今は、セシルだけで十分だよ」
「だけでってどういう意味だ」
「ごめん、訂正。セシルだけがいいってこと。セシル以外はいらないってことだよ」
「俺以外もという意味だったら憤死していたかもしれない」
「またまた~怒らない、怒らない」


 俺が子供をあやすように宥めれば、セシルはちょっといじけたように「ニルは意地悪だ」とむすくれた。
 セシル以外いらないのは事実だ。でも、セシルだったら何でもいい。
 例えば、セシルが二人になるとか?
 さすがにそれはファンタジーすぎるか。
 機嫌を直してもらうために、俺は片づけを終えたセシルを横から抱きしめた。すると、セシルは分かりやすく心臓をはねさせ、俺の手にそっと触れる。


「セシルがいいんだよ。俺は。これからもずっと……マンネリとか考えなくていいよ。君から与えられるものはいつも新鮮だから」
「ニル……」
「セシル。する?」
「ああ……」


 セシルが、俺に飽きられるんじゃないかって不安になっているなら、俺も俺で誘い文句のバリエーションを増やそうと思った。そしたら、少しは彼の不安を解消できるかもしれない。
 飽きることなんて絶対にないのに。
 まあ、かくいう俺も、飽きられないかって心配だけど。


「俺のこと、抱いてポイってしないでね」
「するわけがないだろう。手放す気はないと、何度言わせる」
「そうだったね。ごめん、ごめん」
「軽いぞ、ニル」


 と、怒られて俺はむにゅっと頬を引っ張られた。地味に痛いのでやめてほしいが、そんなことを言える立場じゃない。

 それから、しばらくの沈黙の後、セシルは引っ張った部分を撫でてこつんと額を当ててきた。夜色の瞳は熱を帯びている。今すぐにでも俺を貪りたいっていう獣の顔。


「――俺に抱かれてくれるか。ニル?」
「セシルに抱かれたい。うん、おんなじ気持ち」


 俺の同意を確認したのち、セシルは俺をベッドに押し倒した。もっと性急でもいいのに、スマートというか、ちょっとロマンチックだ。
 ベッドに倒れ込んで、俺たちはフッと笑う。
 今からそういうことをするのに、まったくそんな気配がない。まだ、そういうことを知らない純粋な学生同士の恋のようだ。でも、俺たちは熱を知っている。


「今日もニルを気持ちよくさせるからな。覚悟してくれ」
「えぇ、気持ちよくなかったらどうするの?」
「そんなことは絶対にない。お前を快楽に弱くしたのは俺だからな」
「嫌な自信……しょうがないな。じゃあ、セシルに俺を気持ちよくさせる権利をあげよう」
「フッ、ではその権利をもらうとしよう」


 見つめあって、キスをした。それを合図に、セシルは俺の服に手をかける。
 夜はまだ長い、始まったばかりだ。


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