みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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番外編SS

セシルside

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 据え膳とはこういうことを言うのだろうな。

 隣で、小さな寝息を立て、俺の腕に絡みついて寝ている恋人を起こさないようにと息をひそめているが、それも我慢の限界だった。
 俺の腰に足を絡ませ、頬にその可愛らしい唇が当たる距離まで抱き着いた俺の恋人は、その距離で耳元で俺の名前を囁く。


「せしぅ……」
「~~~~~~っ!?」
「へへ……」


 はにかむように笑うが、これも寝言である。
 こんなにもふにゃふにゃとしたニルは、寝ているときか俺に抱かれて何度も達した後くらいにしか見えない。ニルが知らない、俺だけが知る表情の一つだ。
 ちなみに、ニルは抱き始めたときは恥ずかしさから顔や声を隠しがちだが、段々と気持ちよくなっていくと、俺を離さまいと抱き着いてくるし、生理的に浮かんだ涙を潤ませ、小さくて形のよい口からは垂れ流すのがもったいないくらいの甘いよだれを垂らしている。とろんと溶けた目はあまりにも股間に響く。そんな溶け切った表情でせがまれ、達した後は、さらにふにゃふにゃと、幼少期に戻ったときのようなあどけない笑みを見せる。


(う、思い出しただけで、下半身が痛い……)


 思い出すだけでも股間にダメージが響く。起こしたらいけない。俺が眠っているニルを襲うなんて、そんなことあってはいけない。
 さすがに、というか百パーセント幻滅される!
 ここは耐えねば、と俺は収まれ、収まれ、と思いながら隣で眠るニルを見る。
 長いまつ毛の下にあの美しい空色の瞳が閉じ込められていると思うと、今すぐにその瞳を開いて俺を見てほしいのだが、そんな野暮なことはしない。眠っている姿も、その顔も本当にかわいいのだ。それこそ、俺が閉じ込めておきたいくらいに。
 だが、やはりこの顔を見ていたら理性をつなぐ糸がぐちゃぐちゃになっていく。


(クソ、先ほどしたばかりだろ……)


 最も、俺が耐えなければいけない理由はもう一つある。

 それは、先ほどもニルを散々抱いてしまった後だからだ。

 あと一回といいながら俺は、三回ほど続けてしまったし、最後にはニルはもう右も左もわからないと俺に抱き着く力もなくなっていた。そこまで抱くつもりはなかったが、ニルのナカが俺を離してくれなかったし、もうムリといいながらも俺が引き抜けば「やだ」と弱々しく足を絡ませてきた。
 そんなことを愛しの恋人にされれば我慢なんてするほうがバカバカしいだろう。
 そして、俺はニルの身体を考えつつも、最後は頭から抜けて抱きつぶしてしまったわけで……その後、ちゃんと後処理はしたし、先ほど俺のシャツをニルに着せたばかりだ。しっかりとナカに出したものもかきだして、シーツもきれいにして。よし寝るぞと、ベッドに寝るために横になったのだが、ニルが寝始めて三十分もしないうちにこれだ。


(無理だ。朝まで眠れそうにない!)


 しかし、ニルが俺が寝ていないことに気づけば心配するだろうし、隠そうとしてもそういうことには目ざといニルは気づいてしまうだろう。だから、俺は寝て、そしてニルより先に起きなければならない。
 俺は、ニルにとって理想の恋人でいたいのだ!


「ぅんん……」
「ニル、頼むから動かないでくれ……クソ……今度眠る前に、寝ているうちに襲っていいか許可をとるか……いや、倫理的に……倫理的にそれはいけない気がする!」


 超えてはいけない壁というものは存在する。それは、例え恋人であってもだ。
 どれだけ、ニルが寛大な心を持っているとしても、さすがに眠っている無抵抗のかわいいかわいい恋人を睡眠姦することは許されない。もし、俺がそんなことに手を染めるようであれば、エヴィヘット公爵邸を出禁にしてもらってもいい。何なら、学園の寮での部屋を別々にしてもらっても――


(いや、それは俺が困る! 困るからこそ、しなければいい話だが、だが――!)


 もそもそと、ニルは動き、さらに俺に密着してきた。俺よりも薄い胸板をぴたりと充てて、俺の足にニルのが当たっている。もちろん、勃ってはいないのだが、それをするつけられていると思うと、下半身に熱が集まってくるのだ。
 シャツは俺の匂いがするが、俺の匂いとニルの匂いが混ざったそれが香ってきて、鼻腔を刺激して脳に響く。俺と、ニルの匂いが混ざるとどうしてこんなにも官能的なものになるのだろうか。細胞を活性化させるような、そんな匂いだ。
 ニルだけの匂いも好きなのに、そこに俺が混じって溶け合っているという事実。これはクるものがある。


「せしる、すき」
「……っ、起きていないのだろ。ニル。やめてくれ」
「んー」


 一瞬見えたニルの顔は、まるでキスをせがんでくるような顔だった。俺からのキスを待っている顔……それにしか見えなかった。
 だが、キスであっても寝ている人間にできない、してはいけないと、俺の中の倫理観がしっかりと暴走しそうな俺をつなぎとめる。
 しっかりと、倫理観が動いてくれているのはありがたいが、そのせいで余計に胸の中をぐちゃぐちゃとかき回されている気がして気持ちが悪い。ここは、起こさないようにそっとベッドから降りて、禁止されてはいるが稽古場で素振りをするべきか。
 しかし、それを実行しようにも、ニルの身体は俺を離してくれない。
 ニルの体温は依然として高いままだ。俺の精を受け取って行為のあとは少しだけ体温が高くなるが、その後は急激に下落する。今だって、こんなにも冷たいのに、一人になんてできない。しちゃいけないと思うのだ。


「はあ……」


 悩ましいため息が出るのも許してほしい。
 この世界に、こんなにかわいい恋人をもって、その恋人の寝顔をみれて、襲ってはいけない、襲いたいと葛藤している人間がどれほどいるだろうか。きっと俺だけだ、こんな幸せ者は。
 まあ、そんな自己肯定感の高さはどうだっていいのだが。


「……ニル」


 この薄明かりでも、ニルの顔ははっきりと見えている。もしも、見えなくて、存在だけを感じているのではあれば、きっと俺はここまで興奮して眠れない……なんていう事態にならなかっただろ。
 見えてしまう、感じてしまう。
 それと、近くに感じているニルが、眠っている間にどこかに行ってしまったら……そう考えると眠れなくもなる。

 寝ているニルの顎を優しく掴み、そして親指で彼の唇をなぞる。何度もキスしたせいか、まだしっとりとしており、少しぷっくりと膨れた下唇はとてもさわり心地がよかった。何度かその下唇をなぞっていれば、ニルの口がかぱっと開き、あろうことか俺の親指を口に咥え始めたのだ。
 ちゅ、ちゅぱっと、まるで舐めるように、寝ているはずのニルは俺の親指を唾液で濡らしていく。
 何かおいしいものを食べる夢でも見ているのだろうか。心なしか、俺の指をしゃぶるニルの表情がやわらかい。幸せそうに甘噛みしてくるニルは、時々俺の名前をつぶやいている。いったいどんな夢をみているのだろうか。
 俺は、ニルに吸い込まれた指先をゆっくりと動かし、ニルの歯並びのよい歯を一本一本なぞってみた。ニルは、口も小さいし、顎も小さいので歯の一本一本もかわいらしいサイズだ。奥歯から前歯へなぞっていけば、さすがに違和感を覚えたのか、かじっと唇の先で噛んでいた俺の指に歯を突き立てる。


「……おいちぃ」


 歯を突き立てたところを、今度はチロチロと舐めだして、また唇で挟み込むようにして甘噛みし始めた。
 もう、そんな愛らしい顔を見ていたらさすがの俺も抑えが利かなかった。


「すまない、ニル……っ」


 先ほど、何度もニルの中で放ってからになったはずのモノは、熱を取り戻し、主張するようにいきり立っていた。
 それを取り出し俺はニルにバレないよう扱く。最近は、自分で処理していないため、自身が感じるところを徹底的に弄ってもなかなか射精までには至らない。
 両手を使ってみるかと思ったが、片手はニルが咥えているので引き抜こうにも引き抜けない。
 こんなことしているのがバレたら、また幻滅されそうだ。


「ニル……はぁ、ニルっ……っ」


 寝ているニルにキスをしたい。もし、キスをして起きたら……と、ニルが前に一度恥ずかしがりながらも教えてくれたおとぎ話を思い出す。
 深い眠りについた姫を、真実の愛のキスで起こすというシチュエーション。現実に起こり得たら、それこそロマンチックだと思うのだ。しかし、ニルの眠りを邪魔したいわけじゃない。先ほど俺がさんざん、ニルの中を突き立て、喘がせたので、今は眠っていてほしいのだ。
 かといって、この熱を発散できないままでは俺も眠りにつけない。すでに、先走りで濡れた手をかえたばかりのシーツに擦り付けるわけにもいかなかった。
 俺は、ニルの肩に鼻を埋め、ニルの匂いを胸いっぱいに取り込む。俺の銀色の髪と、ニルの黒髪が混ざり、絡みあう。
 ニルは寝ている間にオカズにされていることなんて気づくはずもなく、夢をみながら俺の指を咥えている。
 罪悪感もあり、興奮もあり、自身のモノを扱く手が早くなる。もし、射精できたとして、これだけ密着していると、いくら手で受け止めようとも、ニルにかかってしまうのではないかと頭の端のほうで考えた。


「好きだ、好きだ。ニル。かわいい、かわいい……はぁっ、俺だけの、ニル」


 昔からずっと不思議だった。

 子供のころから何度も同じベッドで寝た。だが、ニルは体力が俺よりもなくすぐに眠ってしまう。そんなニルの寝顔を見ながら、逆に俺がニルを見守りながら夜を過ごした。ニルと一緒に寝ていると、不思議と睡魔が襲って、一人で眠るときよりも何倍も早く眠ることができた。
 そのときから、ずっと特別だった。
 恋だと気づいたのは、ちょうど一年前だがずっと誰にも渡したくなかった。ニルの新しい表情を見るたびに、俺以外には見せていないよな? という不安と、嫉妬心が芽生えた。なぜ、親友のその表情を見て、他者の目を気にしていたのか、昔は分からなかった。それが、恋心からくるものだったなんて、もっと早く気付けばよかったとすら思う。
 俺は、親友というその特別な枠に満足していた。それ以上を、考えなかった。ニルが、親友である俺を好いていてくれたから。

 でも、今は違う。
 黒い嫉妬に気づいてからは抑えが利かない。誰にも渡したくない、その気持ちが強くなりすぎた。
 今だって、一瞬たりとも目を離さずに、ずっと見ていたい。そして、俺で汚したい――


「ニル……っ!!」
「セシル……?」


 はっきりとした声だった。
 ハッと、俺がニルから顔を離すと、暗闇の中で、真昼の空が俺を捉えていた。とろんとしていて、今にも瞼が落ちそうだが、眠そうにしながらも俺を見ている。
 モゾりと体を動かして、掛布の下の熱に多分無意識だろうが手が伸びた。俺のモノにニルの冷たい指先が当たる。
 ニルは、俺の指を口から引き抜いて、よだれで濡れた口で再度「セシル?」と俺の名前を呼んだ。
 そこで、少しだけ熱が引き、俺はしまったと、手を止めた。


「ニル、これはだな……」
「まだ足りない?」
「……に」


 少し首を傾け、ニルは俺に問いかけてきた。
 頭は覚醒していないのだろう。それでも、俺が今までやっていたことに気づいたようで、するっと俺のモノを指先でなぞった。身体は正直なもので、少し萎えたかと思えば、ニルの指先でいとも簡単に熱を取り戻す。冷たいはずの指先から与えられる刺激に、ビキビキと反応している。
 それでも、罪悪感はあり、俺は「一人で処理する、すまない」とニルにいって片づけようとする。すると、ニルは「もー」とでもいうように、背を俺に向け自身の尻の間に俺のモノを挟んだ。


「な、な、な、ニル……っ、な、にを」
「使っていいよ。でも、俺、眠いから……途中でねおちちゃったらごめん。でも、好きにして」
「だが、ニル。これはっ……!」


 先ほど、許可をとるべきかと邪な考えを頭に浮かべたことは反省した。だが、それが許可されてしまい、俺は困惑した。
 いいのか?
 いや、しかし、寝ている相手をそんな……
 理性や倫理観が俺を止める。ニルがいくらいいとはいえ、俺に付き合わせるのは。


「ん……動いてもいいのに? 萎えちゃった?」
「まさかっ、だが、ニル。眠いのだろう。つき合わせるのも悪い。ベッドから降りて、一人で処理する」
「セシルのせーえきもったいないじゃん」


 ニルはそう言って、後孔に俺の先端を食いこませ、腰を動かした。俺は、情けなくも、あ、と声が漏れ、あっという間にニルのナカに埋まってしまう。温かくて、ふかふかしているニルのナカは、先ほど口で甘噛みしてくれていた時のように、きゅうきゅうと締め付ける。その絶妙な締め付け具合に、油断するとすぐに出てしまいそうだ。
 だが、待て、先ほどニルは何といった?


(『セシルのせーせきもったいないじゃん』だと……?)


 ニルがそんな卑猥でかわいらしい言葉を!
 寝言で俺の名前を呼び、そして俺の指を咥え。最後に、おぜん立てまでしてくれた。自ら俺をナカへ招き入れ、好きにしてと。
 すでに本人はすやすやと小さな寝息を立てており、ほんの少し残った理性がやめろというが、ここまできて何もしないほうがいけないんじゃないかと都合よく解釈してしまった。
 据え膳だ。


「ニル……っ、起きたら存分に怒ってくれていい。だから、すまない」
「……せしる」
「……っ、~~~~~~っ!! やはり、ダメだ!」


 後ろからニルをぎゅっと抱きしめ、俺は密着するように彼の腰に腕を回した。
 今すぐにでも動いてめちゃくちゃにしたい。だが、やはりダメだと思うのだ。寝ている恋人に無茶苦茶するのは。
 反応がないのは楽しくない。俺だけな気がしてならない。ニルが、俺でよがって、喘いで、ぎゅっとしてくれないと、俺は満足できない。

 我ながらめんどくさい性格だなと思った。
 ニルの許可を得ても、ニルが寝ていればそれは同意もクソもないと。
 だが、この暖かさから抜け出すことはできず、起きたら抜くか、と俺はニルを抱きしめたまま眠ることにした。まだ、下半身は痛い。けれども、寝ぼけてぽやぽやしたニルからかわいらしい言葉はいくつも聞けた。きっと、ニルは覚えていないだろうから、俺だけが知っているニルの秘密として胸の奥にしまっておこう。

 そして、次の日、下半身に違和感を覚え目を覚ました。朝から、聞こえるはずもないぬちゅ、ずちゅといった卑猥な音と、下半身に伝わる熱。ニルの色っぽい声。
 バレないように細く目を開けてみてみると、先に起きていたらしいニルが、懸命に俺のを抜こうと、いや、俺ので自慰をしているところだった。もう、そこからは言うまでもないだろう。朝一発目から行為に及び、抜かずの三回。その後、いれっぱなしで起られたのも言うまでもない。まあ、今回の場合どっちが悪いかという問題ではなく、どっちも悪いと収拾がついたが……


(ほんとうに、何も覚えていないんだな。ニルは)


 かわいらしいニルの姿も言葉も覚えているのは俺だけでいい。
 最高の朝だったな、と俺は生涯忘れないでいようと心に刻んだのだった。

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