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番外編SS
捨てた指輪の件について
しおりを挟む「――全く分かりません。殿下が選んでください」
「寂しいことをいうな。そもそも、公女が指輪を捨てたのが原因だろう」
「私のせいだといいたいんですか」
「そうではないのか?」
「……」
言い返せない。
変装魔法を施し、宝石店に来ていた私達は、ショーケースの前でいつものように言い合っていた。番として、そして婚約者としての座を確立し、私達は前よりも仲が深まった……のだが、調子としてはこんな感じだし、殿下は変わらず私をからかって意地悪してくる。しかし、殿下もあの一件以来私に甘くなり、口にするとゾッとするが、私を溺愛、するようになった。ことあるごとに、束縛のようなことをして、離れたら癇癪を起こすと、マルティンに言われ、手を焼いている。勿論、思いが通じ合ったことも、彼からの愛を貰えることも、求めて貰うことも嬉しいのだが、あからさますぎるというか、おおっぴらすぎるというか。とにかく、恥ずかしかったのだ。
そうして今日は、私が不安定だったときに捨ててしまった指輪の代替え品……ではなく、改めて結婚指輪を買いに来ていた。
どうやら、殿下は私が指輪を捨てたことについて引きずっているらしく、何度も私に謝り、その後私を怒鳴りつけた。情緒が不安定で見ていて心配になるな、と思いつつも、彼が変わったという事実にとりあえず喜ぶべきなのだろう。
「仕方ないじゃないですか、あの時は色々あったので」
「色々で、大切な指輪を捨てるヤツがあるか。俺は肌に離さず持っているというのに」
「じゃあ買わなくて良いんですね」
「買う」
こんな言い合いをかれこれ三〇分ほど続けている。店員さんには白い目で見られるし、確実に、皇太子と公爵令嬢だとバレているだろう。そもそも、変装魔法をしていたとしても、滲み出る魔力までをしっかり隠せるわけじゃないし、宝石店にお金のない人は来ないだろう。
殿下は、左手の薬指にはめている指輪を見せつけながら私に夕焼けの瞳を向けた。
「……私が悪かったです。なので、さっさと選んで帰りましょう」
「帰ったら、また書類の山と睨み合わなければならない」
「殿下がためた仕事でしょう? 自業自得です」
「終わったら前みたいに褒美をこれないのか?」
「……っ、私の身体はそんなに安くないです。それに、そんなご褒美につられて仕事をするようじゃ、これから先どうするんですか」
確かに、そんなときもあった。
殿下があまりにも癇癪を起こして、仕事をしないから……私も欲求不満だったし、情緒がまだ安定していなかったから、彼を求める言い訳として、彼が仕事を終えたら抱いて欲しい、抱かせてあげるといったが、今はそれも落ち着いて。求められることが嫌いなわけじゃないけれど、それでも毎度だったら私の身体が持たない。
私がそうきっぱり言えば、殿下はまたムスッとした顔で私を見てきた。そんな顔されても困る。ここで折れたら殿下は私の弱みにつけ込んで、毎度強請ってくるだろうし。その負の連鎖を経ちきらなければならないと思った。
「ほら、選びましょう。一人で選ぶのは寂しいです」
「そうだな、ペアリングだしな」
「今はめているものはどうするんですか?」
「チェーンでも通して肌に離さず持っておくことにする。捨てるなどはしない。公女のようにな」
「いちいち嫌味を入れてくるのやめてくれませんかね」
「ハハッ、意地悪したいだけだ」
「口に出して、意地悪とか言わないで下さい。分かってるのに」
意地悪。
大分慣れたし、こういう男であると言うことは分かっているのでそれ以上はいわない。私はショーケースに目を移し、白い箱の中に飾られている数多の指輪を見ていた。私の髪のような、銀色のものもあれば、殿下の瞳のような黄金の指輪もある。店員さんに、名前を刻めますよ、といわれたので刻むつもりではいるが、外す予定は殆どないし……と思うが、それは気持ち次第だろう。埋め込まれている宝石は小さくも、その存在感を放ち照明の光を一身に受けて光輝いている。
「やっぱり……赤がいい」
「俺はこれだ」
「嫌です。どうせ、私の瞳の色っていうんでしょう」
「よく分かったな公女」
「私は、殿下の髪の色の宝石がいいです。ルビー……でも、殿下の髪の毛の方が綺麗で」
「公女……っ!」
「今のなしです。で、どれにするんですか」
恥ずかしいことを言った自覚があったので、すぐに顔を逸らした。でも多分私よりも彼のほうがその頬はゆるゆるになっているに違いない。ああ、失敗した。いうんじゃなかった。調子のってる、絶対。と、顔を合わせることが出来ず、私はどぎまぎしながら、殿下の答えを待った。殿下はよそお通り、私が選んだ指輪をチョイスした。本当によかったのか、殿下が折れるなんて……よっぽど私のことが好きなんだな、と思うと同時に、その好意を素直に受け取っている自分がいた。
「愛している、公女」
「……っ、外でいうのはやめてください」
「何故だ? 伝えなければロルベーアはまた不安になってしまうだろう? 指輪を捨てるくらいに――」
「ああ! もう、その話したら、口利きませんから。もう、時効です、時効」
「何が時効なんだ……まあ、いいだろう。新しい指輪も買えたんだ。今度は外さないでくれよ?」
と、殿下は答え、私の左手を取ってそこにキスを落とした。少し高圧的ながらも優しく、愛に満ちた瞳。そこに映っている自分に安堵感を覚える。
(いわれなくても捨てるわけないじゃない……)
こんなに愛している人を、こんなに愛してくれている人からのプレゼントを捨てるわけがないのだ。愛の証をみすみす捨てるようなこと、もうしない。私にそんな不安はもうないからだ。
私は、殿下に微笑んで「ええ」と答える。殿下はそれを見て、フッと世界一幸せそうな顔をした。
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