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第2部2章

09 生き残るための温もり◇

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「――ん、んん……」


 ぴちゃん、ぽちょん……と、水が滴るような音で、目が覚める。なんだか肌寒いな、と身体を起こせば、そこに広がっていたのは洞窟のような空間だった。水の音の正体は、上から落ちてきていた水滴で、さっきまでいた場所よりも寒さを感じる。


「ここ……は」


 起き上がれば、また水の音だ。暗くてよく見えないけれど、真っ暗ではないのが不思議だ。


「起きたか、公女」
「で、殿下!?」
「何だ。まるで幽霊でも見たような顔は」
「い、いえ……お怪我は?」
「少し背中をぶったくらいだ。あとは、腕か」
「み、見せてください!」
「大丈夫だ。これくらい、かすり傷だ」


 声のする方向を見れば、上半身が裸な殿下の姿があった。見慣れた、そのたくましい筋肉には、見慣れない、あざが数か所あり、私は目を細める。私をかばうようにして抱きしめたため、殿下が、あの落下の最中体を強打したのだろうと。


「……すみません」
「公女が謝ることは何もない。公女は、怪我は?」
「殿下のおかげでとくには」
「ならよかった。お前が無事なら、俺はそれでいい」


と、優しく微笑む殿下に、ドクンと心臓が脈打つ。自分の体の痛みよりも、私の身体のことを心配してくれた殿下に私は心が温かくなった。

 それと同時に、自分はこのままずっと守られる側なのではないかとも自覚した。殿下を助けられる力が欲しい、いざとなった時、自分の身は自分で守れる、殿下のことも守れる力が欲しいと切実に思った。けれど、どう力をつければいいか分からなかった。
 複雑な思いを抱えながら、私は、とにかく今は状況を把握するのが先だと、殿下に訪ねることにする。


「ここは……?」
「上から落ちてきた。かなり深いところまでな。落ちたところが、水がたまった池のような場所だったから、軽傷で済んだが……あの神殿の下には、もともと空洞があって、洞窟の上に作ったんだろうな。地震で床が抜けるほどもろかったのか、それとも地震の規模が大きかったのか。まあ、どっちでもいいが、落ちてからかなり時間がたっているからな。今日は動かない方がいい」


と、殿下は一通り説明し終えると、ため息をついた。

 どうやら、私たちは底の見えない亀裂の下に落ちたらしく、その下は洞窟に繋がっていて、運よく水のたまり場に落ちたと。
 体中擦り傷と切り傷だらけだったが、それは落下のさい、当たった小石等によってついた傷なのだろう。骨折はしていないし、打撲もないようだった。
 落ちてきた天井を見上げても穴から漏れる光は見えず、地上に戻ることは難しそうなので、ひとまず脱出することを諦めた。


「どうするんですか。これから」
「日が昇ったら動くとしよう。それまでは、眠って時間を費やそう」
「その、日が出るとかでないとか以前に、真っ暗なんですが?」


 殿下が付けてくれたのだろう、目の前には薪の炎が燃えていたが、その光が及ばないところはかなり真っ暗だった。見えないわけではないが、むやみやたらに動くと危険だ。


「体感的に分かる。そこは問題ない。それに、マルティンも捜しに来るだろうしな」
「救助待ちですか……くしゅんっ」
「寒いだろう。もっとこっちによれ。濡れたからな、服は脱がさせてもらったが……」
「何ですか。視線をそらして」
「いや……怒ると思ったんだが」
「はあ……それくらい、理解しています。幼稚じゃないので。水に濡れたままの服を着ていたら、体温奪われますしね、それに、何度も互いに裸は見ているので、今更下着一枚……」
「こ、公女何か怒っているのか?」
「いえ、別に。寒いのでそっちによらせてもらいますね」


 殿下が付けてくれた薪の隣に腰を下ろすと、彼も少し間を空けて腰掛ける。近くに来いと言っておきながら、何で遠ざかるんだと思ったけれど、寒くなってきたので私からくっつかせてもらった。なぜか、挙動不審で、いつもの調子はどこに行ったんだと彼の顔を見たが、目を合わせてくれなかった。確かに、薪の近くで服は乾かされているけれど、まだ当分乾く感じはしなかった。
 真っ暗闇の中で二人きりだが、不思議と怖くなかった。
 それはきっと、殿下がいるからだ。一人だったら、心細くて死んでしまったかもしれない。そんなにやわではないとは思うが、高い位置から落下して、気を失っていたんだ。怖くないわけがない。
 私は膝を抱えて座り直すと目を閉じた。するとすぐに眠気が襲ってきてうとうとしだすが、隣からの熱を感じて意識が戻る。


「殿下、顔合わせてくれないんですか?」
「見たら怒るだろう。いつも、公女は怒る」
「いつもは怒っていません。その、寒いのでくっついてください」
「……それは、その」
「抱きしめてください。寒いです」
「わがままだな……わかった」


 殿下は、私の要望に応え、私の背後に回ると、自分の足の間に私を挟み、そして後ろから包み込むようにして抱きしめた。ドクンドクン、と少し早い心臓の音が背中越しに伝わってくる。硬い筋肉、たくましい胸筋……少し傷のある腕が視界に入ると、その逞しい腕に触れたくなって、手を伸ばす。


「公女?」
「あ……いえ」
「なんだ? 何かあるのか?」
「……なんでも、ないです」


と言いつつ、私は殿下の手を取って、自分の頬に押し当てると、すりっと頬ずりをした。しばらくそうしてくっつき合っていれば、次第に互いの体温が上がってきたのを感じた。


(あたたかい……このまま、眠っちゃいそう……)


 うとうとと、ぬくもりに包まれていれば、ふいに、腰に硬く熱いものが擦りつけられているような感覚を覚え、私の意識は覚醒する。


「で、殿下!」
「…………公女が悪い。不可抗力だ」


 ゴリッとあてられたのは殿下の……あれだった。硬くて、熱い熱の塊が何かすぐに察した私は、ボッと火が出そうなほど顔を熱くさせる。


「私のせいにしないでください! 態度がよそよそしかったのは、そのせいですね!?」
「仕方がないだろう! 公女の身体を見たら……その。透けている下着姿など、反応しないわけがないだろう!」
「もう、飽きるほど見ましたよね。私の身体!? それも、こんな緊急事態に……何を考えているんですか! 殿下のえっち、変態!」
「公女、暴れるな。よけいに、興奮する」
「ひぃっ!?」


 耳元で囁かれた言葉にドキリとする。そして、そのまま耳に口づけられると、私の体はぴくんっと震えた。その反応に気をよくしたのか、彼はさらに耳を舌でなぞり始め、もう我慢できないと、殿下は自身の腕の中から私を逃がす気はないと言った感じに、水で濡れた下着の中に手を滑り込ませた。
 いきなり敏感なところを刺激されたため、声が漏れ、それがまた殿下と、私自身の興奮材料になる。


「んぁっ、やぁ……で、殿下っ! こんなところでっ!」
「いいだろう。さらに、温かくなるんじゃないか? 肌と肌をくっつければ……」
「そういう問題ではありません……んっ」


 ピンと、胸の先を指ではじかれれば、ますます彼を求めてしまう自分がいることに戸惑いつつも、彼を何度も受け入れた身体は、すぐに熱を持ち、もっとと、ねだってしまう。胸を覆っていた下着はたくしあげられ、むき出しになった私の胸を後ろから鷲掴みにされる。胸に伸ばされた手によってその胸が形を変えるほど強く揉まれれば、私の口からさらに高い声が漏れる。
 こんな身体に作り替えられてしまい、私は、その元凶である殿下を涙目で睨みつけることしかできなかった。


「ハッ、その目……煽っているのか?」
「どこが! も、もう、もう……殿下、だめです。本当に」
「なぜダメなんだ? シたくなるからか?」
「……ばか」


 殿下の片手は、私の胸を揉みしだき、もう片方の手は私の下半身へと伸びていく。そして、足の付け根あたりを指で上下になぞり始めると、そこはすぐに濡れて水とは違う粘着質な音を立てた。


「っ……ぁ、あ……んんっ」
「公女も、期待していたんだろ? もう、こんなになってる……」


 冷たい空気にふれた秘裂からは、次々と蜜が零れ落ちてきていた。そこを殿下は指で弄り始めるものだから、私は腰が抜けて彼に寄りかかりながら小さく喘いだ。
 腰も揺れ始めれば、この洞窟に響くのは二人の声だけになる。洞窟の中に響く、自分の喘ぎ声が、大きくて、恥ずかしくて、唇を噛めば、殿下にもっと声を出せと、口に指を突っ込まれた。


「んぁっ、ふぅっ……あっ」
「我慢するな。どうせ誰も来ないし、俺しか聞いていない。聞かせろ、ロルベーアの声を」
「やっ、で、でも……んんぅっ!」


 殿下の指が中に入ってきたのが分かった。何度経験しても慣れないこの圧迫感に息を詰めるが、それも一瞬ですぐに馴染んでしまった自分の膣は彼を奥へ奥へと招こうと吸い付くように彼の指を締め付けた。いつの間にか膝から下ろされていた足のせいで重力に逆らえなくなった私は、岩を背にしたまましゃがみ込みそうになる。


「このまましてもいいが、ロルベーアも、体制がきついだろ。ところどころ、石が出っ張っているしな。いつもの体制は……公女、俺の上に乗れるか?」
「へ?」


 よっこらせ、とまるでおじいちゃんのようにゆっくりと声を漏らしながら、殿下は自身の膝の上に向き合うように私をのせると、その熱くなった自身を、私のお尻の割れ目に摺り寄せた。ぬちゃり、と粘着質な、それが、今にも私の中に入ろうと上下する。


「で、殿下……!」
「ロルベーア。そのまま、腰を下ろせ」
「まって、ください。こ、こんな……っ」


 いわゆる騎乗位という体勢に私は戸惑っていた。いつもするときは、殿下が動きやすいようにと正常位がおおく、されるがままになっていたが、洞窟という、もっといえば外で、足場が悪いところでそんな体位でやれば、私の背中は血だらけになってしまうだろう。それを考慮してのことなのだろうが、自ら腰を下ろせ、など命令され、私はふるふると、首を横に振るしかなかった。


「で、できません」
「やってみろ。早くしないと、思いっきり突き刺すからな?」
「お、脅しているんですか?」
「さあ? だが、ロルベーアは、激しいのも好きだろ?」
「……わ、分かったやります」
「やる気になったか。フッ、見ものだな」


 余裕そうな顔が憎たらしかった。その顔を、ぐちゃぐちゃにしたい、そんな加虐心も生まれつつ、
私はドキドキと高鳴る胸を押さえながら、ゆっくりと腰を下ろしていく。


「ん……ぁ」


 ぬるり、と殿下のそれが私の秘裂をなぞって、そしてそのまま中へ入ってこようとする。が、やはり足場が悪いためかなかなかうまく入らない。したこともないし、怖くて、足が震えている。
 私がちんたらしていると、殿下がしびれを切らしたようにピクリと眉を動かし、私の腰に手を回した。


「ロルベーア、もっと腰を下ろせ。こんなふうにッ!」
「――ぁっ!?」  


 どちゅんっと、殿下のものが一気に最奥まで入ってきて、その刺激に私は耐え切れず首を後ろに仰け反らせる。そして、今度はゆっくりと引き抜き始めた殿下が私の腰を強く掴むと激しく下から突き上げてきた。
 ガンガンと響く音に加え、洞窟中に響く衝撃音と自分の甲高い喘ぎ声に頭がおかしくなりそうだった。まるで拷問のようなこの体勢で私を求める殿下もどうかと思うが、それを受け入れて喘ぐ私もかなりおかしい。


「あ、アインっ、だめ、こし、お願いっ! そんな、激しくしないで!」
「ハッ、どっちが腰を振っていると? 公女だろう。俺を求めて、腰を振っているのは」
「ちがっ! ぁ、あっ、だめ……も、もう!」
「イきそうか? だが、もう少し付き合ってくれ、ロルベーア。まだ、食い足りない!」
「も、もう……っ! アインの、ばかぁっ!」
「ああ。そうだな。ロルベーアを前にすると、俺は馬鹿になる」


 そんなやり取りをしながら、殿下は私を何度も突き上げる。そのたびに私は甲高い声を上げながら達しそうになるが、彼はまだだと私の腰を掴んで離そうとしなかった。そして、また激しく下から突かれては、休む暇もなく刺激を与えられ続ける。水滴なのか、汗なのか、火照った身体は、これ以上の熱はいらないと、拒絶するのに、心が、内に潜む欲望が、殿下を離さなかった。
 殿下の上で乱れる私は、さぞ滑稽だろうが、一緒になって乱れる、私をむさぼる殿下も、また周りから見れば滑稽だろう。
 下から突き上げられ、いつも以上に深く刺さり、足はがくがくと震え、愛液か、彼の先走りかわからない水の音が結合部からぐちゃ、ぬちゅと響く。


「アインっ、あ、あ、っ、きもちい? アインもぉっ、あんっ、あったかい?」
「ああ、最高だ」
「……うれ、し……いぁああっ!」


 さらに激しく下から突き上げられれば、私は限界が近かった。身体が小刻みに震えだし、口が閉じれずに半開きになり涎を垂らす。身体を支えられず、前のめりになりながらも、腰だけはゆるゆると動いていた。それでも殿下は私を離さず何度も腰を振り続け、そしてついに私の身体は限界を迎えた。


「出すぞ、ロルベーアッ……っ!」
「ひっ、やあああっ!」


 絶叫とともに弓なりになる体と、耐えきれない快楽が全身を襲った。秘裂からはとめどなく蜜が溢れだし、殿下の熱をぎゅうぎゅうに締め付ける。達したことでくたりと力が入らなくなった体は、殿下のほうへ倒れてしまう。


「あ、いん……」
「……っ。悪いが、公女……! もう少しだけ付き合ってくれ!」
「へ? ……っ! あ、やっ! まっ!?」


 どこでスイッチが入ったのか、休憩もそこそこに殿下はまた私の腰を掴むと下から突き上げ始めた。達したばかりの敏感になっている私には酷すぎる刺激で、頭がぐちゃぐちゃになる。頭の中が真っ白になって何も考えられない。
 先ほどよりも激しくなる抽挿に、私は涙を流しながら耐えるしかなかった。気持ちいいが止まらない。殿下も、私の中で爆ぜるたびドクッドクッと脈打ち熱いものが放たれるのを感じながら、舌を突き出し何度も達してしまう。その余韻に浸っている余裕もなく、腰をつかまれ上下に揺さぶられれば私もまた腰を動かしてしまう。
 もうお腹には収まりきらないほどの熱を放たれても、それでもまだ私たちは求めあった。


「んぁっ、はぁっ……も、もう……むりっ」
「ハッ、く……っ、これで、最後にしておいてやる! ロルベーア」
「ひゃ、ぁあんっ!」


 最後、彼は私の身体を強く抱きしめ、そのまま子宮の奥に熱いものをたたきつけた。ドクドクと脈打つそれに私はまたビクビクっと体を震わせながら達してしまう。最後にちゅっと口付けられてから解放されたとき、私はとうとう力尽きて殿下の胸板に寄りかかった。


「温かくなったな、ロルベーア」
「……はあ…………はあ、アイン……」
「いい。後は寝てろ。全部済ませておいてやる」
「……そうじゃなきゃ困ります……ん」


 チュッと、優しいリップ音を最後に、火照った私の身体は、くたりと殿下に寄りかかり、そのままふっと意識を失った。

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