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第1章 夜明けの一等星

13 おい、説明しろ

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「おい、説明しろ」
「何にを?」
「俺が体操服で、お前におぶられていることをだ」



 目が覚めれば、ゆさゆさと揺さぶられて……ああ、変な意味じゃなくて、不規則でありつつも一定のリズムで揺られているなあ、と目を開けてみれば朔蒔の背中の上。そして、また、この間みたいに体操服。
 ああ、そういえば……と、思い出そうとしたが、これ以上思い出したらまた顔から火が出る……此奴を殴ってしまうといけないので必死に記憶に蓋をした。
 そして、そのまま俺は朔蒔に背負われて。俺の鞄は朔蒔が持っている。



「腹上死したかと思って焦ったわ」
「やめろ、縁起でも無い」
「そんな風にサラって流せるって事は、大分なれた? 俺とのせ……」
「言うな、バカ!」



 暴れんなって、落とすぞ。と、ケタケタ笑う朔蒔。何が面白いんだか俺には分からないが、朔蒔にとっては戯れ程度のことなんだろう。これも、あれも。



(はあ……また流された。俺って、意識弱いのか? このままじゃまた、流されるだろ)



 此奴のことを少し知った気になっていた。だから、そんな発言が出てくる。でも、何もまだ知らないのだ。



「なあ、星埜の家って何処?」
「教えるわけ無いだろ」
「じゃあ、このままラブホに向かっていい?」
「いいわけあるか!? 何で、そこでラブホなんだよ。お前の家っていう選択肢はないのかよ!」



と、俺が背中で騒げば、今度はピタリと朔蒔は動きを止めた。

 まさか、地雷を踏んだんじゃと、身体が硬直する。それは、きっと彼奴とであった日、殴られたからだろう。暴力という物は身体に刻まれるもので、暴力は恐怖の記憶として頭に残るから。



「さ、くま?」
「ンや、俺の家せめェし。声が聞かれたくない星埜にとってしてみれば、嫌だろうなーって思って」
「お、おう……」



(ヤケに素直というか、俺に気遣った?)



 そんな此奴に、そんな気遣いなんて出来るのか? と失礼極まりないことを思いながら、俺は朔蒔を見る。と言っても、背中からだし、顔は見え無い。どんな顔で言ったのとか、一瞬止った理由は本当にそれだったのか。踏み込めば良いのに、俺は踏み込むことをしなかった。どうでもイイと思ってしまったんだ。
 だって、こんなの此奴の気まぐれで、きっと俺なんて飽きたらポイってされるんじゃないかって。



(あの時俺が、あそこで出会って、殴られても抵抗しなくて……それで、そんなの初めてだって朔蒔が俺に興味持っただけの話)



 ――――それだけだろ? 



(虚しくなってきた……何でだろ)



 俺は此奴のことを何て思ってるんだ? 2度抱かれたからって、肩入れしすぎなんじゃないのか? って。自分なりに答えを出そうと考えたが、どれも不発に終わってしまった。



「そンで、星埜の家って何処なの?」
「だから、良いって。俺歩いて帰れるし」
「え~ンなこと言って、腰大丈夫?立てないんじゃないの~♥」
「うっざ……たてるっつうの」



 そう言いながらも、俺はまだ朔蒔の背中の上で、降ろす気配もない。
 朔蒔はというと、じゃあ家まで送っていくと、そのまま歩き始めた。
 そして、俺は朔蒔の背中で揺られ続けた。その間、会話らしい会話もなく。ただ朔蒔の一方通行で。でも、俺が家の場所を教えないからマジで繁華街の方に向かっていこうとしたので、俺は朔蒔の髪を引っ張った。



「いってェ。さすがに、いってェって。髪抜ける~」
「お前、本気でラブホに行こうとしてただろ。分かってんだからな」
「だって、星埜が家教えてくれないから~」
「教えたら、お前来るだろ」
「いくだろうな」
「矢っ張りそうだ。だから、嫌なんだって」



 此奴に家なんて教えたら、毎日押しかけられて、大変なことになる未来が見えている。
 俺の平穏が此奴に脅かされてたまるかと、俺は絶対に此奴に家を知られたくなかった。教えたくなかった。
 だからといって、このままラブホに連れて行かれたらどうなるか……そっちも恐怖で仕方がない。



(早く、何かいい案を……)


 てか、此奴のことだからてっきり家にお持ち帰りだと思っていた。頭の中、性欲で一杯な此奴の事だから。家で……って、彼奴にも家族がいるよな。と改めて思った。でも、朔蒔に友達なんていなさそうだし、だからこそ、家に友達を連れてきたら、驚いて、逆に上がって上がって何て言われたら……と、妄想が膨らむ。



(それとも、家に上げたくない理由があるとか?)



 そんな風に、朔蒔の背中で揺られながらだんだんネオンの光に包まれていくと、目の前から見知った男性が歩いてくるのが見えた。



「朔蒔、ストップ」
「は? ンなこと言ったって、星埜が家教えなかったらこのまま……」
「星埜、こんな時間にここで何をしてる?」



 低い声。
 怒ってるのか、もうそれすら分からないし、顔を合わせるのも怖いけれど。



「とう……さん」



 最悪のタイミングで、見られたくないところを見られたと、俺は一気に体温が下がっていくような感覚を覚えた。


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