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第2章 真昼の一等星

06 俺を挟むな!

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「うわ、これ座れるか?」


 夕方ということもあって、かなりフードコートは込んでいた。見る限り三人が座れそうなスペースはなくて、どうしようかと思っていると、楓音が俺の手を引いた。そして、俺達は空いている席を見つけるとそこに座り込むことができた。それも運良くソファ席。


「朔蒔、お前が椅子座れよ。何で2人とも俺を挟んで座るんだよ」
「僕は、星埜くんの隣が良いの」
「お前が譲れって。お邪魔虫」


 お邪魔虫じゃないもん、と楓音は反論しつつ、僕と隣が良いよね? とキラキラとした大きな青い瞳で見てくる楓音。上目遣いになっていて、男と分かっていてもドキリとしてしまう。そこら辺の女の子よりも可愛く感じてしまう。いいや、このさい性別とかはあまり関係ない。


「そうやって、色目使うのやめろって。俺の星埜なんだけど?」
「いや、お前のじゃねえし。というか、誰のものでも無いけど、俺」


 朔蒔がふくれっ面で文句を言っている横で、俺は楓音の方に体を寄せる。すると、楓音も同じように俺の方へ体を寄せてきて、俺の腕を組む。それを見て、朔蒔のこめかみがピクリと動く。
 このままでは、朔蒔がまたキレ散らかしてしまうのでは無いかと思い、そんなことになったら一般客にも被害が及ぶのではないかと俺は立ち上がった。朔蒔の沸点が未だに分からないから、下手に動いて刺激するよりも距離をとったほうがいいと。


「じゃあ、俺が椅子に座るから、楓音と朔蒔がソファ使いなよ」
「僕は星埜くんの隣が良いの!」
「俺の隣に星埜がいて欲しいんだよ!」
「ええ……」


 二人は譲れないといった感じで見てきたため、俺は困って何て言えば良いか分からなかった。二人の気持ちも分かるが、俺としてはどちらも遠慮したい。どちらかをとれば、どちらかの機嫌が悪くなるのは見えていたためだ。どっちを選んでも正解じゃない。なら、俺は、一人でいい。そう思って一人椅子で座っていれば、朔蒔が立ち上がり俺の隣に陣取った。行動してしまえばこっちのもんだといわんばかりに朔蒔はニヤリと口角を上げる。


(この野郎……)


 だが、ここで達ああって楓音の方にいけば、朔蒔がどんな行動をとるか分からないため、俺は渋々朔蒔の隣に、そして楓音に謝った。楓音は不満そうに頬を膨らましていたが、今回は譲る、と諦めてくれた。
 それから、夕ご飯もかねて食べようという話になり各々好きなものを買うことになった。といっても、そんな豪華なものは頼めないし、いってもフードコートだ。学生に手軽な値段のものを頼むことにしたのだが……


「朔蒔くんその量で足りるの?」
「んァ? まあ、別に」 


 楓音の問いかけに答えつつ、朔蒔はずずっとコーラを啜った。楓音のいったとおり朔蒔が頼んだのはポテトのMサイズとコーラだけだった。朔蒔は大食いのイメージだったので、呆気にとられる。小食でその体格とかいわれても信じられなかったから。
 だが、朔蒔はいつも通りとでもいうように、ポテトを抓んでいた。


(本当に意味分かんねえ……)


 弁当はカツアゲすればいい。そして実際学校に持ってきているものはラムネだけ。可笑しい話だった。此奴の家庭環境がどうなっているか気になるところだが、この間の反応を見る限り、突っ込まない方が良いようだ。
 それでも気になってしまうが。


「あっ、星埜くん僕の天ぷら一個食べる?」
「え、ああ、いいよ。何か、悪いし」
「そう言わずに、あーん」


と、楓音が箸で摘まんで俺の口元に差し出してきた。それを拒むことは出来ず、そのままパクりと口に含むと、サクッとした衣の感触と共にエビの味が広がる。

 楓音は嬉しそうにはしゃいでいた。可愛いなあと思わず微笑んでしまう。あーん、と食べさせられたことに関しては恥ずかしいが、楓音がそれで喜んでくれているならそれでいいと、俺は咀嚼しながら思った。だが、それをよく思っていないのが、隣にいる。


「楓音ちゃんそれ、ずるくね?」
「ずるいって何が?」
「俺も、星埜にあーんされたい」
「いや、俺は別にあーんしてねえし」


 嫉妬をむき出しにした朔蒔が、少し的外れなことをいうので、ついツッコんでしまった。
 朔蒔はそれでも諦めきれないように、俺が食べているラーメンを一口くれとせがむ。ラーメンをあーんとか聞いたことない、と思ったが朔蒔はどうしてもそうやって食べさせて欲しいようで俺は仕方なしに、本当に仕方なしに一口麺を掬うと、朔蒔の口へと運ぶ。


「ほら」
「あーんっていって、星埜♥」
「……あ、あーん」


 何で、言わないといけないんだと思いつつ、拒否権はなかった。それなら、早くすませて方が良いと、俺はしどろもどろになりながらいう。すると、朔蒔は大人しく口を開けた。つるっと朔蒔の口に麵が吸い込まれていく。あっさり味のラーメンを頼んだが、そのつゆが豪快に飛び散る。もっと、上品に食べられないものかと、朔蒔には無理だろう高望みをする。
 だが、俺のラーメンを食べた朔蒔は幸せそうな顔をした。それは、まるで子供のように無邪気で、不覚にもドキリとする。


(あ、れ? 今、ドキッてしなかったか?)


 一瞬自分の心臓がおかしくなったのかと心配になったが、気のせいだと思うことにした。たまに見せる、朔蒔の純粋な無邪気な子供の笑顔には、どうも惹かれるものがある。惹かれるというか、そんな顔出来るんだっていう、そういう発見というか。
 そんなことを考えている間に、皆完食し、俺もスープまでしっかりと平らげた。静かに合掌し、次の目的地に向かうために席を立つ。ガタンと相変わらず大きな音を立てる朔蒔。


「んじゃ、次はカラオケだな」


と、仕切りだして、浮かれているのが伝わってきた。

 まあ、まだ時間はあるし二時間……三時間は歌えるだろうな、と俺はぼんやり考えながら食器を店の方まで戻しに行った。


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