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1章 魔神引っ越し

第9話 地の底散歩

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「出発だ!」

 むっちり美人の女戦士にして我が町のギルドマスター、ダウィシエさんが元気に出陣の声をあげる。
 その暴力的なまでの破壊力を持った胸部を雑に揺らしながら。

「エフィルアさん。その揺れに集中している場合ではありませんよ?」
 平穏で上品な胸部をたずさえたロアさんにたしなめられる。

「ロアさん。なんの事でしょうか」

 ロアさんは感が鋭い。
 そんなにジロジロと見たりはしていなかったと思うのだが。
 あれである、なんとなく目がいってしまうだけなのである。

 実際のところ、俺の意識がついそちらに向かってしまったのも無理がない話なのだ。この世界の人間の装備品は肌色成分が多すぎる。男女問わずな。

 単純に金が無くてまともな装備がなくて薄着な俺とは違い、彼らの装備には結界機能が付与されているから、機動力を損なわない軽量性と、高い防御性能を両立している。

 流石にもうこちらに来てから長いから、そんな肌色問題もあまり気にならなくはなったが、ギルマスのわがままボディは一際めだつ。戦士というよりはアマゾネスと呼びたくなる。
 

 そんなギルマスとロアさん、そして俺。この3人が今日のダンジョン探索を共にするパーティーメンバーとなっている。

 俺はついさっき探索の話を受けたばかりなのだが、あれから1時間もしないうちにもう出陣。
 どうやらギルマスはかなりの脳筋なのかもしれない。
 町の西門を出てダンジョンへ。

 ダウィシエさんは脳筋戦士、ロアさんは斥候せっこう職、俺は…… なんだろう? 今のスキル的には魔法戦士か? 

 ヒーラーはいない。本当はほしいのだがLVが見合う人がいないのだとさ。
 この町では俺達3人のLVが突出しているようだ。

 昨日まではロアさんも表立って実力を見せる事はさけていたので、ギルマスとしては孤軍奮闘で大変だったらしい。久しぶりの同レベル帯PTで喜んでいる。

 道中、いくつか現状の説明を受ける。
 ふむ。実はこの話を聞いた聖女エルリカも探索メンバーに志願したそうだ。
 俺を殺しかけた事をまるっきり気にも留めていない様子のあの聖女様だ。

 もし聖女様がこのパーティーに加入していたら、そら恐ろしい事だ。
 だけど彼女は結局加入をお断りされたらしい。
 当たり前だが、LV的にも実戦経験的にも無理だという事だそうだ。

 客観的に見れば無理だと分かりきってる事なのだが、聖女からしてみれば、俺の事を格下に見てるのだから納得できないだろう。

 町の人々の中にも同じような考えをする者も多いようで、“ギルマスがエフィルアの事をダンジョン探索中に抹殺しようとしてるのだから邪魔をするな!”、などという流言を流す輩までいる始末である。

「はっはっは、私にエフィルア殿をどうこう出来るとも思えんがなっ」
 ギルマスが大口を開けて笑う。
 元気いっぱいだな。

 それはさておき、俺達以外にもいくつかのパーティーがダンジョン探索に向かう事になっているという。

 そのうちの1つが聖女チーム。
 念願かなって探索だけはさせてもらえるようだ。

 さくっと奥まで行ってしまえばついてはこれないだろうから、おそらく顔を合わせる事はないだろうが。
 
 幸先良く、俺達のパーティーは一番乗りでダンジョンの入り口へ到着する。
 もとからウチが先陣を切ってある程度の安全を確保するまでは、他のパーティーは入らない事にはなっているのだけどね。
 とにかくギルマスの行動はやたらに早い。
 
「エフィルア殿、剣の具合はどうだ?」
 ダンジョン前の架設駐屯所で最終準備をしていると、ギルマスから声がかかる。

「ええ、使えるとは思います」
 俺はギルマスから1本の剣を借りている。
 むろん、俺が丸腰で出陣しようとしたからなのだが、正直言ってありがた迷惑だった。

 これって、壊しちゃったら弁償だろう? 
 俺、お金ないのですが。
 出来るだけ丈夫で頑丈で壊れないやつをお願いしたのだが、たぶんこれでももたないだろう気がする。

 などと考えていたら、この剣はくれるらしい。
 どちらにしても壊したくはないので慎重に優しく扱おう。いざというときには剣をしまって拳だな。

「それでは行こう。エフィルア殿、ロア君」

 あ、あともう1匹。例の綺麗なトカゲ殿もついてきている。
 結局、家を出てからもずっと俺の肩だの頭だのに乗っかりっぱなしなのだった。
 戦闘の時は大丈夫だろうか? 硬そうだからある程度は平気そうだが。

 3名と1匹は、昨日ぶち破った壁を抜けて地下へと降りていく。

「エフィルアさん、もう“ライト”増やして良いですよ」
 ここまで来れば外にいる兵士達からは見えない。
 ロアさんに言われ、昨日のように光球を増やしていく。 
 100ヶまではいらないかな?

「おお、これが先ほど言っていたものか。いや、見事だな」
 今日も今日とて、ダンジョン探索の雰囲気を台無しにする明るさだ。
 ちなみにダウィシエさんからは俺の能力について詮索も他言もしないから、好きに動いてくれと言われている。

 俺としても出し惜しみするのも面倒だし、2人にはもう既に気づかれているわけだし、まあいいやの精神でいこうと思う。

 ギルマスは半公務員ではあるが、元々は一般の冒険者。日々相手にするのも荒くれた冒険者たち。清濁併せ呑むような豪気さが彼女にはある。
 
「では私の“ライト”は消してしまおう。馬鹿らしいのでな」
「そうですね。私も消します」 

「まあ良いですけど。ロアさん、気配探知のほうはどうですか?」
「たいした相手はいませんね。このあたりの魔物は後から来るパーティーに任せても良いと思います」

「そうか、ならばさっさと進んでしまおう」
 そう言うとダウィシエさんは剣を抜き、ダンジョンの奥へと前進した。
 適当についていく俺。
 出会い頭に敵を軽く粉砕するダウィシエさん。
 適当についていく俺。

 ロアさんは探知スキルで罠や魔物、それから道順なんかまで調べてくれる。
 いやー、さすが2人とも素晴らしい。
 俺も念のために、ところどころ“魔導視”でチェックしながら進む。
 敵が見えたらとりあえず爆散させながら。
 ギルマスも張り切っていて、暴れまわっている。

 数時間が過ぎた頃、俺達は16階層の手前まで降りてきていた。
 ダウィシエさんが足を止める。

「さすがだなエフィルア殿。まるで小虫を潰すように魔物を倒していく。あっというまにこれほど奥まで来てしまった」

 俺達の眼前には自然石を並べた急階段のような地形。
 ロアさんの見立てでは地下16層へと続く道のようだ。

「ダウィシエさんも大暴れでしたよ。俺はただついて来た程度です」
 下層を覗き込みながら答える。

「ギルマス、エフィルアさん。お二人ともまだまだ余裕はあると思いますが、一度ここで小休止にするべきかと。ここから先の魔物は様子が少し違います」

 ロアさんの忠告に従ってダウィシエさんが食料を運搬袋から取り出す。
 ギルマスの所有物だけあって上等な運搬袋だ。
 体積も質量も大幅に減らす魔法がかかっていて、容量もデカイ。
 
 この袋は俺達がこれほど早くダンジョンに潜れた理由でもある。
 ギルマスは常にこの中に遠征の道具を準備しているらしく、何かあればこれだけを持ってすぐに飛び出せるようになっているそうだ。

 干し肉とパン。それからコップに“ウォーター”のスキルで出した水を注いで食事を始める。俺は適当にそこらへんに腰を下ろして食べ始める。

「ギルマスもエフィルアさんも余裕そうですが、 階層を進むほどに魔物も強くなっていきますね」


 3階層くらいまではスライムだのスケルトンだのゾンビだの、その程度。 
 魔狼と同じようなLVのモンスターしか出なかった。

 特徴としてはアンデッド系が多いというくらいだろうか。
 魔狼と比べると、動きは遅いが遥かにタフ。
 ゾンビは胴体を爆散させても上半身だけで動くし、ほんとタフだ。

 それ以降はだんだん敵も強くなっていった。
 ゾンビの上位種であるワイトはエナジードレインを使ってきた。
 ウィルオーザウィスプは火の玉みたいな魔物。物理攻撃が若干あたりにくかった。
 食屍鬼グールは四ツ足の獣に変身して、素早い動きをするのが特徴。
 レブナントもゾンビっぽいけど知力が高めで動きがトリッキー。武器も持っているし動きも早い。

 とまあ、色々な魔物が出てきた。結局どれも一撃爆散だったけど。
 ギルマスの話では15階層までなら、LV20前後の冒険者6人パーティーが適正な難易度らしい。
 LV20はルーキーが数年間修行したくらいの強さだ。
 そのLVまでなら、たいていの人は努力しだいで上げられるといわれている。

 今のロアさんはLV32、ダウィシエさんが38。
 後半は俺もたくさん敵を倒したおかげで、LVが2つ上昇してLV38になった。
 LVの面でもギルマスであるダウィシエさんに並びましたよ。

 ダウィシエさんも、ロアさんもLVは上がってないみたい。
 俺の成長速度は魔素吸収率けいけんち上昇の効果があってのものだと思う。SS級スキルは伊達じゃないみたいだ。

 それと、道中に“魔導視”で観察したスキルをいくつか習得できた。
 軽い戦いだったから、観察できた新スキルの練習をしながら進んできた。

 まずロアさんの探知スキルを真似してみたけど、これは習得には至らなかった。
 さすがユニークスキルというだけあって、何か特殊なもののようだ。

 習得した中で一番当たりだったのは、やっぱりワイトのエナジードレインだろう。
 敵から生気を吸い取って、こちらの体力や傷を回復させるというアレ。
 闇属性魔法なので、めっちゃくちゃ相性が良いです。なじみます。使いやすい。

 ウィスプからは“鬼火”をゲット。
 初の炎属性ゲット!
 しかも闇属性も混ざった炎属性魔法なので、これまた俺には使いやすかった。
 精神と肉体の両方を焼き焦がす火の玉を生み出し、一定確立で敵を恐慌状態に落とし込む。
 
 その他にはダウィシエさんから解析したスキルがいくつか追加されている。
 覚えたてなのでどれもLVは1。 

戦技
 マナコート-斬:D-LV1 マナコート-衛:D-LV1
  一刀両断:C-LV1 剣技一閃:C-LV1

 どれも自分の武器や防具に高密度なマナをまとわせる系統のスキルか。
 “剣技一閃”は、そこから少し応用してマナを斬撃で飛ばす技だった。
 どのスキルもダウィシエさんが使っている分には良いのだが、俺がこのまま使うには微妙だった。

 俺は武具に纏わせるより自分の身体に直接魔力を流すほうが向いてるようなのだ。
 少し自分用にカスタマイズしてみれば、なにか使い道もあるかもしれないが。

 スキルというのはすぐに使わないものても、覚えておいて損はない。
 上位スキルの多くは、下位のスキルを複数習得する事で覚えられるものも少なくないのだ。


「それにしてもこのダンジョン、どこまで先があるんでしょうね」
 
 覗き込んだ下層から風が吹きあがる。
 ふと、風の音に名を呼ばれた気がした。


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