虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月

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20 試し切り

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 それではトカマル先生、武器合成をお願いいたします。
 不帰の大槍 + 血魔の霊刀 + 魔鋼の長剣+3 ―― ――


 そしてトカマル君の体内から取り出されたのは、こんな武器だった。

【呪法刃の短刀】
 装備中は回復不可+流血ダメージ。使用者の血液と魔力を吸収し、それに応じた刀身を生成。刀身の形状は自在。魔神エフィルア及びその眷属専用武器。

 そんな感じの短刀だった。
 見た目は小さいが、それに反してかなりの重量があるようだ。
 呪いは見事に2種類とも健在。つまり、使っている間ずっと使用者にダメージがあり、それを回復させられないという凶悪な呪いに進化したのだ。
 こんなもの、俺以外に使おうとする物好きがいるだろうか。

 肝心の強度のほうはどうなのやら。これで貧弱だったら強烈なゴミである。試してみよう。
 ふむふむ。手に持った感じは良さそうだ……
 おお? 本気で素振りをしても大丈夫そう。

 魔力をほとんど流し込まずに試し切りしてみると、木は切れるが石は無理そうか。割と普通だな。ちょっぴり魔力を流し込み、小石を切ってみる。ズッパリ余裕で切断。

 よしよし、良さげな感じである。あとは強度と魔力の許容量がどれほどあるかだが……
 
 体感的には5%も魔力をこめていないのだが、そこで限界が近そうな反応を示し始めた。キーンと鳴って震え始めたのだ。
 ほんの一瞬であれば10%程度までは耐えたが、そこまでだな。
 最後にもう1つ。刀身の形状は俺の意思にあわせて変化させられる事も確認できた。長くしたり短くしたり自由自在。これは便利。

 なるほどなぁ…… かなり良さげなのでは?

 魔力吸収5%の状態を、ステータス値で確認するとこんな具合である。

  【H P】756
  【M P】345158
Up  【攻撃力】611→ 17870
  【防御力】712
Down【魔 力】345158→ 325700
  【速 度】576

 魔力が約5%減少していて、ほぼその値と同じ分だけ攻撃力が上昇している。
 俺の場合もともとの【攻撃力】が【魔力】に比べて低いから、かなりの上昇効果があるように見える。

 血液に関しては今どれくらいの量が刀に吸われているのかは正確には分からない。
 ただ、体感としてはほとんど感じないかな? ダメージも感じないが?

 おそらくだが、もともと元気で丈夫な俺の身体は自然回復速度がバケモノじみているため、損耗している量よりも自然回復している量のほうが勝っているように思える。

 ちなみにこの世界のHPというのは、地球世界のゲームよりもずっとアバウトで、だいたいの感じしか分からない。最大値が表示されているだけで、ダメージを受けた状態の数値は分からないのだ。
 1ポイントだけでも残っていれば元気に活動できるというような仕様でもない。


 それにしても、思っていたよりもずっと素晴らしい品に出会う事が出来た。
 これなら実用になるのではなかろうか?
 
「どうですかエフィルア様? どうですか?」
 つぶらなトカゲ目が俺を見上げている。

「素晴らしいよトカマル君。今手に入る中では最高の出来だよきっと」
「良かった~~。それじゃ試し切りに行きましょうよ、エフィルア様っ」

 そうだな。実践での使い勝手も見ておいた方が良いか。
 おっとその前に、いくつか回復薬も買っておかなくては。
 俺が使う事はあまりないかもしれないが、トカマル君には必要だろうし。 

 他にも鍋やフライパン、包丁と食器と、その他諸々の生活雑貨をインベントリに収納した。今までは本当に何も家財道具がなかったけれど、少しはお金も入ったからね。なにせ今晩は百合根の灰汁抜きにも再チャレンジするのだし。

 俺達は大屋さんに別れを告げて、町の外へと向かう。

「エフィルア様、はやくはやくっ」
 元気一杯で駆けてゆくトカマル君。
 ちょっと待ってほしい。未だに俺はステータス値の上昇に慣れていなくて、それなりに慎重に動かないと転んだり事故を起こしたりしそうなのだよ。

 免許取立ての自動車運転みたいなものである。それも、いきなりモンスターマシンに乗せられてしまったような。

 もう少し身体を慣らす目的もかねて、今日も百合根狩りのポイントに行ってみようかな。それから早めに帰宅して、今晩こそ美味しく調理してみせよう。

 百合根×4 オーク×6 魔狼×25

 武器の試し切りがてら森の境界線を探索してみると、なんと今日は百合根を4つも手に入れることが出来た。
 やはり、昨日のゴタゴタで習得した【魔力探知】というスキルが役立っている。

 周囲にどんな魔物や人間がいるのかが大まかに分かるのだ。
 おそろしく便利な技である。

 そして肝心の新装備。呪法刃の短刀の使い勝手はどうかといえば、それはもう、素晴らしい切れ味だと表現する他にはないだろう。
 魔狼だろうと、オークの分厚い脂肪だろうと、レッサートレントの太い幹だろうと、一刀両断に出来ない物はなかった。大きい物を切るときには意識して刀身を長く伸ばせる。手近にあるものには全て刃が通った。

 大きな岩を切ってみても、まるで豆腐を切断するかのように滑らかに簡単に。
 思わず豆腐が食べたくなってしまう。豆腐どころか大豆もない世界だというのに困ったものである。

 トカマル君も得意満面。嬉しそうに俺の頭の上にのって、ふんふんと鼻息も荒く胸を張っている。
 
 さて、ついでがもうひとつ。
 攻撃魔法も練習してみようかなと思っている。【魔弾】というやつだ。
 シンプルに魔素の塊を弾丸にして飛ばすという攻撃のようだ。 
 すでにスキル欄には載っているがグレイアウトしていて、まだ未修得状態の魔法である。
 
 威力も射程も効果範囲も分からなかったので、まずは空に向けて練習開始。
 これは今までの魔法の中では最も簡単だった。すぐにピコンッと閃きの感覚が湧き上がってきて、ドンっと発射。威力調整もしやすい。
 射程については…… かなり遠くまで届くという事しか分からなかった。見える範囲ではどこまでも遠くに飛ばせそうだった。
 そうして何度か試してから、最終的には魔物に対しての実践練習で締めくくる。

 魔力値は30万以上にもなっているから、調整には苦労するかとも思ったのだけど、意外とコントロールは難しくなかったのだ。これよりは身体の動きに慣れるまでのほうがずっと苦戦した。

 今は魔法のコントロールがすこぶる簡単だ。ふうむ、思い当たる理由も1つある。この常時発動スキルの効果である。

【始原の魔力】
  魔力、MP、魔力操作 +54000%

 これである。魔力、MPと一緒に、魔力操作という能力にもプラス補正が5.4万パーセント付いている。
 たんに魔力が膨れ上がっただけでなく、同時に操作する力も上昇しているというお得さ。なんて便利なスキルだろうか。

 魔弾も素晴らしく使いやすい魔法攻撃だと思う。くせのない純粋な破壊魔法だ。
ひとつ問題点を挙げれば、クリーンヒットさせると敵が木っ端微塵に爆散してしまうことだろうか。最弱で撃ってもそうなるのだ。
 これでは倒すだけなら問題ないが素材の回収は不可能だ。魔石も獲れなかった。
 まだまだ改善の必要がありそうだな。
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