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 午前三時を回ったところ、時計がカチカチと時を刻む。
夜番はせっせと仕事をしながら、夜が更けるのを待つ。
当主が帰還するまでの緊張感はいまや存在を薄くした。ただ、失くなった訳ではなく見られているという別の緊張感が生まれただけとも言えるが、どちらにせよ多くの者は使命感に燃えていた。

 そんな緊張から唯一抜け出せる睡眠の時間にその音は鳴り響いた。
使用人が使う部屋全てに各一ずつ配置してある緊急用ベル。本当に緊急以外で鳴ることはなく、人によっては働いてから一度も鳴ったことを知らぬものもいるほどのものが突如として鳴れば流石に飛び起きる。
更に焦らせるようにキディ達が「使用人は応接間に」と声掛けしながら走れば目も覚め身体は急いで動ける支度をする。

 職業病ともいえる準備の速さと向かうスピードは部屋を繋いでいるの通路で呼び掛けをしているキディ達も感嘆の声を漏らす程だった。


 キディ、リュド公国公主のアウスが信頼に置けると設立した機関『シックス』の一人。
名の通り六名によって成立しているが、仲間内の仲の悪さと各々が自由奔放であるという本質から殆ど表舞台に出ることはない。
 キディの他に、ユル、シザー、ネスタがおり各々特化した仕事を徹底的にやりながら生活しているが後の二人は四人も名前も姿も知らぬほど出ることがない。

 シザーはアウスの命により、また疲れで眠ってしまったラウリーを運びラムルと共に守護する任務で居ない。
ユルとネスタは応接間で入ってきた人数の把握、出ようとするものの制止などの雑務に追われていた。
 キディはとても楽しそうに「断罪ショーだァ」と笑いながらまだ部屋にいるもの達を急かして回った。



 集められたメイドや使用人達は己の行動を思い返しなぜ呼ばれたかに思案を巡らせた。呼ばれた理由の不透明さと時間があまりにであったからこそピリピリした空気が流れる。
そんな空気を割るように部屋に入ってきたとても長い腰辺りまで伸びた髪を肩の辺りで結ってある穏やかな雰囲気の女性を見るなり周りの使用人達は姿勢を改める。

「公主様の番様への殺人未遂が起こった為召集がかかったわ。本日の夜番は左側に部屋で休んでいた者は右側にて整列。番様付の今日の担当は誰?」

「め、メイド長……きょ、今日はノバが担当です……」

「わかったわ、で?そのノバは何処にいるの。呼び出しはおろか番様のお部屋にも居なかったわ」

「……それは……」


 ラウリーの部屋の専属に配置されたメイドは名の上がったノバ以外に二人、エリにムンヒがいてその二人ともが応接間にいる。
ノバの扱いに理不尽さを感じていても反論は愚か指摘すら出来ない二人はノバの居場所に心当たりがあっても言うことができなかった。

 そんな二人にメイド長であるデフィーネははぁと呆れた声を出し「言わないなら同罪にて拘束のみよ」と強い言葉で威嚇した。気の弱いでは済まされぬ話もあるのだ。
二人はとても動揺したようにオロオロと視線と身体を動かしたが、ムンヒが意を決したように「近くの賭場だと」と言ったのと同時にアウスが応接間に入室した。

 瞬間で把握できたことを聞き、指で合図を送ればシックス達が頭を下げて探しに行き始めた。

 途端に緊張感が増す場にて、洗濯等の裏係のリーダーであるユクススが当主に向かい「申し訳ございません、ラムルという子が一人まだ……」と声を出した。
アウスは大丈夫だ、彼女には別に仕事を渡している。此処に居ないのも了承済みだと伝えると、あの子は良い子ですから、と裏係のもの達は一つの重荷を降ろせたような表情をした。
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