幸福奇譚

安馬川 隠

文字の大きさ
24 / 30
本編

24

しおりを挟む

 重東に仕事が入った。という連絡が叶真に入ったということは、叶真にも仕事だ、出てこいという合図で、詳細を電話を代わりスピーカーを切った上で話す。

 する話など業務的であっという間に終わるのだが、今回だけは上手く話が終わらなかった。というのも、先に重東から、仕事が誰かを抱くものと聞かされた以上、宏臣が我慢できないのだ。

『僕も一緒に』と電話越しに叶真に交渉する音が聞こえる。
流石に汚れ仕事を宏臣に見せるわけにもいかない。ただ、不安が残る部屋に一人で居させるのも気が引ける。


 ただ本当に仕事を見られるのが、幻滅されるのではと恐怖もあって中々オーケーと返事が出来ない。


 しかし、心のなかでは初めて宏臣がねだっているという事実への嬉しさが勝りそうで。


「…………叶真と車で待機が出来るというのなら、一緒に来ると良いよ。仕事をする場所は叶真も入れないから」


 最大限、宏臣には甘い重東を電話越しに叶真はあり得ないことだと、心底驚く。
鬼だなんだと言われていた若が、喜ぶとは思っていたがまさか仕事にくることを許可するなんて。


「恋愛ってやっぱ恐ろしいな」と心から叶真は思った。



 重東にとっての仕事場は、榊組のシマの中でもクラブやキャバクラ、ホストなどが並ぶ歓楽街。
ここでの騒ぎは榊組にダイレクトに伝わるとして、この辺りに棲む人間は決して揉め事を起こさない。
 それはキャストにも同じことが言える。

 今回、豪我に連絡がいったキャストは、入って数ヶ月になるはずであったが、売り上げに目が眩んだか、それとも。


 宏臣を乗せた車は、榊組の事務所付近で重東と合流し、クラブの付近まで重東を送る。
車内では、車に乗った重東の腕をガッチリと掴む宏臣に、悶える重東の珍しい姿を見ることが出来た。

 クラブ付近まで来れば、誕生日パーティーでもやっているのか客が普段よりも賑わいを見せ、キャストの何人かが客を見送るために外に出ていた。


 豪我から言われていたキャストは外に出ていない事を確認すると、重東は宏臣に優しく「ちょっと仕事を始めるから、我慢してて欲しいな」と腕を離すように説得を始めた。
 宏臣はまるで欲しいおもちゃを買って貰えなかった小さい子のように頬を膨らませ、自分は今不機嫌なのだということを全面にアピールして見せたが、重東からすれば可愛い子を離したくなくなる最高の攻撃に感じた。


 しかし、負けていては仕事が出来ない。
心を鬼にして「帰ってきたら言うこと聞くって約束で、今は仕事させてくれるかな」と提案したが、宏臣の腕は離れようとはしなかった。
 重東の本心は「嬉しい」と「可愛い」に侵食されたが、重東達が乗る車に気付き近づいてきた一人の女の気配で重東は宏臣には見せることの無い冷たい表情になり、その表情に臆した宏臣は掴んでいた腕をほどいた。


 女は車の横に立ち頭を軽く下げると、「榊組さんですよね、組長さんにお世話になっております」と挨拶をした。
組長に世話になっている。この言葉だけで、下に仕える重東、叶真は車から降りちゃんと挨拶をする義務が生まれる。


 決して下に見られることがないように重東は頭を下げる事を控えるが、その分叶真は「お世話になっております」という重東の言葉に合わせて深々と頭を下げた。

 女は「このクラブのママをしております、三枝月と申します」と丁寧に挨拶をし、叶真が「榊組舎弟、四条と申します。こちらは」と言った後重東は「若頭、重と申します。本日は組長より直々に『お相手を』とのことで」と挨拶をした。


 車内には籠った音しか届かないが、確かに重東が重東とではなく重という別の名前で挨拶したことに違和感を覚えていた。
けれど宏臣からしたら本名を教えてトラブルになるのを控えたいのかな、程度にしか考えられず話が終わり落ち着くまでは静かに車内で待機していよう。と内心穏やかであった。



 キャスト達を中に戻し、帰る客達に頭を下げながらも、三枝月は「まだその子は来ていなくて。今日はその子の誕生日イベントなんですけど、太客との同伴と言ったまま約束の時間を過ぎていまして……」と申し訳なさそうに頭を下げた。


「今の話を伺った上で、なぜママが頭を下げるのか俺には理解が出来かねます。
落ち度があるのも、直々に俺を指名した時点から全ての損害ならびに落ち度はその女一人が背負うものであり、ママが背負うものではないと思います。

 キャストの話もある程度はうかがっていますが、今日を最後に出勤することがなくなりますが、本当に宜しかったので?ここまで人を集める以上売り上げにヒビが入るのは覚悟の上と?」


 重東は純粋に理解できないといった表情でママには悪い点はないと断言した上で、店の売り上げなどの細かな点を問うた。
三枝月は少し俯いたが、すぐに重東に向き降りまっすぐな言葉で「当店では裏営業や枕は禁止と伝えてあります、再三伝えてあっても彼女は繰り返し、最近では『マオはしてくれるのにお前らはしないのか』と他の女の子にまで被害が生まれる一方」と話した上で、豪我に話を持ちかけた時点で覚悟は決まっています。とはっきり言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

処理中です...