実らなかった啜を

安馬川 隠

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絶胎の格子

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 「それでは、ただいまより鎌田颯天、サイン会ならびにツーショット会を開始させて頂きます!
 呼ばれた方は、スタッフの案内の下ツーショットを行いサインを貰ってから出口へとお願い致します。
逆走、周回行為は厳しく対応させて頂きますのでどうかお辞めください」


 遂に動き出した、ゆっくりでありながら確かに一歩ずつ近付いている。
 ちゃんと言えるだろうか、そんな不安を掻き消すように目の前で遠野があたふたし始める。


 「遠野よかったな、ちゃんと言いたいこと言ってから出ろよ?」

 「先輩優しすぎる…背中を支えられてる感強い…」


 遠野を励ますように自分に渇も入れている。
もう戻れないのなら、行ききってやるのも一興だろう。


 「四十六番の方、どうぞ~」

 「では、先輩行ってくるです!」


 遠野は何を話すのだろう。
応援してきたこと?、それとも今の鎌田を見た感想?
それとも自分のことかもしれない。


 さっき読んだ雑誌の答えが、どうしても足を引っ張る。
 昔ファンに言われたことがあるという

 「…アイドルという世界然りだが、他者の為に苦手な事でも笑顔でそつなくこなしている姿を馬鹿にする人間はいない。そういう言葉を言えるのは余程の外道だけ」

 これは、自分でも言ったことを覚えている。
男性アイドルというだけで批判する者も多い、イベントにスーツ姿で、事務的な挨拶しか出来ない巡にとっては君達は否定される側ではなくて胸を張って肯定されるべき存在だと伝えたかった。
 自分はアンチや悪口を言いに来たわけではないと言い訳染みたことを考えながら話した。


 これを覚えているということは、始まりはきっと。


 「…四十七番の方、どうぞ~」


 用意されたパネル越しから、鎌田を数日ぶりに視界めいっぱいに入れる。
 たった数日なのに色白の肌は血色を失い、隈を隠すためのメイクが濃いことも素人ですらわかる。

 地面に向いた瞳が巡と瞳と会った時。
鎌田はその立場、現状ある世界全てを投げ捨てたようにその場で膝から崩れ落ち、大粒の涙を溢れさせ声を押し殺し泣いたのだ。


 「…鎌田さんが急遽体調不良の為、休憩を入れさせて頂きたく思います!
お客様には申し訳御座いませんが、少しお時間頂けますと幸いです」


 泣き崩れた鎌田をマネージャーさんが頭から上着を被せ、抱き抱えるように控え室に連れていこうとする。
 「もし、良ければ謝らせて頂きたい」そう言ったマネージャーさんの切羽詰まった顔を見ては、見捨てて帰ることは出来なかった。

 遠野に、悪い所用で少し動くから一人で動いてほしいと連絡を入れれば即座に大丈夫です!友達を召喚します!と元気な文面が届く。


 安心して携帯をオフにし、涙を溢れさせながら巡の服の端を握りしめる男に向き合えば鎌田は「めぐぅさん」と舌足らずな言葉で呼びながら意識を飛ばした。


 「…やっと寝た。………初めまして、ですよね。
申し訳ない、こんな状況になるまで放置して挨拶も出来ず仕舞いで。
マネージャーをしております、栗須 章太朗といいます。
 貴方がコイツの言うメグルさんなんですね。
…貴方を無理矢理、同意無しで…本当に御迷惑をお掛けしました。あの日から寝てないの知ってたのに止められず、今日は助かりました。

 率直に聞きます、貴方は鎌田を訴えますか?」
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