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§ それは、ホントに不可抗力で。
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暇に任せて気まぐれに資料をめくり、こっそり家から持ち込んだ自前のマシンでのんびり内職ができるはずだった倉庫勤務は、予想外というか、まったくの期待外れ。
まず、大沢。
あいつ、本当に仕事をしているのか、と、思うほど、足繁く通ってくる。
なにが心配だ、なにがひとりでは寂しいだろうと思っただ。そんなどうでもいいことを口実に擦り寄られても、喜ばないのは口と態度で明白なのに、懲りることがない。
そして、総務の面々。
美香、エリカ、楓の三人は、ここを給湯室かなにかと勘違いしているのではなかろうか。ドリンクやおやつ片手に毎日やってくる。
茶飲み話といえば、他人の噂と仕事の愚痴。
私が抜けたために仕事の分担が増え大変だと、ブツブツ文句を言われても、上の命令だからどうしようもないし、元はといえば自分たちの仕事ではなかったか。所詮、サボる時間がなくなっただけだろう。噂話にいたっては、正直聞きたくもないが、おかげでひとり地下倉庫に閉じこもっているのに、社内事情の精通具合は、上にいた頃以上になった。
もちろん、私の噂も、さらに尾ひれが付いて、ひとり歩きをしている。
あの怖ろしい大魔王、小林統括に戦いを挑んだ命知らずの関口歩夢はついに、全社員が支持する勇者になったらしい。
一度、篠塚課長に呼ばれ、総務課へ顔を出したが、エレベーターや廊下ですれ違う視線の痛いことといったら。こんなふうでは、おちおち休憩もできないと、ミーティングルームでのランチは早々に諦めた。
挙げ句、どういう風の吹き回しか、江崎までもがやってくる。江崎の場合、一応は正当な理由を付けた上でのことではあるが。ただ、用事が済んだらすぐに引き上げれば良いものを、なぜか対面に座り込み、しげしげと人の顔を眺めたあと、ひとくさり嫌みを言う。
これがまあなんとも、グサグサと遠慮なく刺さる。
忙しなさにどうにも耐えきれず、コピー用紙に大きく『不要の者入室を禁ず』と書き、ドアに張り出してはみたものの、効果のほどは……。
せめてもの救いは、佳恵がまだ出張中で、何も知らないこと。週が明け、佳恵が戻ってきた後を考えると怖ろしい。異動を断り、倉庫番にされたなんて、正座説教二時間コースは免れない。
しかし、それもこれもすべて、あいつのせい。
尊が権限を武器に、あんな公私混同の異動を目論まなければ、いまも平和に総務のお仕事に勤しんでいたはずなのに。
まあいいや。帰宅してまで、イヤなことは考えたくない。ましてや今日は、自分への月に一度のご褒美である『豪華お取り寄せ決定日』だ。
「さてっと、今月の売り上げは、どのくらいになったかな?」
ブラウザを立ち上げ、先ずはログイン画面でキーボードを叩き、二、三度クリック操作を繰り返す。
「おおっ! 今月は過去最高です! まことに素晴らしい売り上げで。ありがとうございます!」
数字を確認し、モニタに向かって頭を下げた。
まず、大沢。
あいつ、本当に仕事をしているのか、と、思うほど、足繁く通ってくる。
なにが心配だ、なにがひとりでは寂しいだろうと思っただ。そんなどうでもいいことを口実に擦り寄られても、喜ばないのは口と態度で明白なのに、懲りることがない。
そして、総務の面々。
美香、エリカ、楓の三人は、ここを給湯室かなにかと勘違いしているのではなかろうか。ドリンクやおやつ片手に毎日やってくる。
茶飲み話といえば、他人の噂と仕事の愚痴。
私が抜けたために仕事の分担が増え大変だと、ブツブツ文句を言われても、上の命令だからどうしようもないし、元はといえば自分たちの仕事ではなかったか。所詮、サボる時間がなくなっただけだろう。噂話にいたっては、正直聞きたくもないが、おかげでひとり地下倉庫に閉じこもっているのに、社内事情の精通具合は、上にいた頃以上になった。
もちろん、私の噂も、さらに尾ひれが付いて、ひとり歩きをしている。
あの怖ろしい大魔王、小林統括に戦いを挑んだ命知らずの関口歩夢はついに、全社員が支持する勇者になったらしい。
一度、篠塚課長に呼ばれ、総務課へ顔を出したが、エレベーターや廊下ですれ違う視線の痛いことといったら。こんなふうでは、おちおち休憩もできないと、ミーティングルームでのランチは早々に諦めた。
挙げ句、どういう風の吹き回しか、江崎までもがやってくる。江崎の場合、一応は正当な理由を付けた上でのことではあるが。ただ、用事が済んだらすぐに引き上げれば良いものを、なぜか対面に座り込み、しげしげと人の顔を眺めたあと、ひとくさり嫌みを言う。
これがまあなんとも、グサグサと遠慮なく刺さる。
忙しなさにどうにも耐えきれず、コピー用紙に大きく『不要の者入室を禁ず』と書き、ドアに張り出してはみたものの、効果のほどは……。
せめてもの救いは、佳恵がまだ出張中で、何も知らないこと。週が明け、佳恵が戻ってきた後を考えると怖ろしい。異動を断り、倉庫番にされたなんて、正座説教二時間コースは免れない。
しかし、それもこれもすべて、あいつのせい。
尊が権限を武器に、あんな公私混同の異動を目論まなければ、いまも平和に総務のお仕事に勤しんでいたはずなのに。
まあいいや。帰宅してまで、イヤなことは考えたくない。ましてや今日は、自分への月に一度のご褒美である『豪華お取り寄せ決定日』だ。
「さてっと、今月の売り上げは、どのくらいになったかな?」
ブラウザを立ち上げ、先ずはログイン画面でキーボードを叩き、二、三度クリック操作を繰り返す。
「おおっ! 今月は過去最高です! まことに素晴らしい売り上げで。ありがとうございます!」
数字を確認し、モニタに向かって頭を下げた。
応援ありがとうございます!
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