神様の縁結び〜台灣で挑む月下老人のおいしいミッション〜

樹沙都

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§ 魯肉飯

戀情の一

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「あたしは納得できないわ」

 アマンダが、学校の図書室で勉強していた篠塚さんを拉致して近くのカフェへ連れ込み、ひんやり甘いタピオカミルクティーを前に、熱く問い詰めている。

 わたしもそれに付き合わされているのだけれど。

「ねえ、アマンダ。それ、篠塚さんに言っても……当人同士の問題だし」
「小鈴。ちょっと黙ってて」

 うっ、と、口をつぐむ。アマンダ、怖い。

「アマンダ。君が心配してくれる気持ちはうれしいけど、これは、もう決めたことなんだよ」
「決めたって? まだはじまってもいないのに、なにを決めたの? なぜはじまる前から無理だって結論になっちゃうの? 無理かどうかなんて付き合ってみなきゃわからないじゃない?」

 篠塚さんは、曉慧と同じ言葉をわたしたちに聞かせた。

 大人の恋愛は、気持ちだけではうまくいくものではない。
 お互いに仕事も生活もあるのだから、片方が譲らなければ、もう片方が犠牲になる以外に道がないような障害の大きい交際は、双方の負担になるだけだ。
 せっかく縁あってお付き合いをするのなら、互いに似た環境にあり、将来を約束できる相手のほうがいい。
 だから、無理をするくらいなら友だちでいようと、ふたりで話し合い、結論を出したのだ、と。

 アマンダが納得できない気持ちは、わからなくはない。
 わたしだって応援したいし、できるものならこのまま終わってほしくないとも思っている。
 でも、アマンダが口出ししたところで、所詮これは、曉慧と篠塚さんの問題なのだ。
 ふたりのなかで結論が出てしまったものを、いまさら覆すことなんてできるのか。どうなんだろう。

「アマンダ。何度も言うけど、僕はもう三十歳だ。若いころのように気持ちだけで突っ走れる年齢じゃないんだよ」

 篠塚さんが眉を下げ、苦い顔で微かに笑う。

「そんなことはわかってるわよ。でも、修は曉慧のこと、好きなんでしょう?」
「もう止めなよ。アマンダってば……」

 これでは堂々巡りだ。もういいよとアマンダの横腹へ肘を突いたが、避けられた。

 困り顔の篠塚さんが、大丈夫だからとわたしに頷き、小さくため息をつく。

「仕方ないな。本当は黙っていようと思ってたんだけど。君たちだから、本当のことを言うよ」
「本当のこと?」
「まだなにかあるの?」

 これはふたりだけの話で、曉慧も話していないようだし、僕も誰にも話すつもりはなかったのだがと前置きをして、篠塚さんが話しはじめた内容に、すっかり驚いてしまった。

「うん。じつはこれ……僕じゃなくて、曉慧が言い出したんだよ」
「え? 曉慧が?」
「うそ?」
「僕は、曉慧が好きだ。もちろん、けっして浮ついた気持ちじゃない。だから、将来——つまり、結婚も視野に入れて彼女に交際を申し込んだんだよね」
「結婚……」
「曉慧がどんな子か、君たちもよく知っているだろう?」

 曉慧のお兄さんは、結婚後仕事の都合もあり、実家を離れている。兄嫁さんは、母ひとり子ひとり。あちらのお母さんは、いまはまだ元気で働いているが、将来的には同居して老後の面倒を看ることになるだろう。

 篠塚さんがもうしばらくしたら日本へ呼び戻されるのは、決定事項。ただ、仕事の性質上、そのまま日本での勤務になるより、他国の支社へ転勤になる可能性が高いらしい。
 一時的な遠距離恋愛であれば、まだいい。だが、一時的なことで済むかどうか、それは疑問だ。

 さらに、曉慧が篠塚さんと結婚したならば、ふたりは日本、あるいは別の国で暮らし、曉慧のご両親は、ふたりだけで台北に残されることになる。
 いまはまだふたりとも若く元気だから心配はないが、将来を考え不安になるのは無理も無い。

 仕事だってそう。夢を実現させるべく着実に計画を立てて努力し、やっといまの職に就くことができた曉慧が、篠塚さんについて行くということはすなわち、せっかく実現した夢を手放すこと。家庭も仕事も。曉慧が失うものは大きい。

 自分の家庭や、積み上げてきたものを捨てられない。だから、篠塚さんへの気持ちはあるけれど、お付き合いはできない。
 曉慧を誰よりも大切に思い、彼女の意思を尊重した篠塚さんは、その選択を受け入れる決断をしたのだ。

 だが、本当にそうだろうか。

 曉慧は言っていたではないか。修哥の負担にだけはなりたくない。と。

 曉慧は、篠塚さんが好きだ。それがどれだけ真剣な想いなのかは、わたしもわかっているつもり。

 篠塚さんと添い遂げたいと決断すれば、曉慧は喜んで新しい生活へ飛び込んでいくだろうし、これまで以上に努力をするだろう。
 もちろん、小父さんや小母さんだって、負担とも犠牲とも思わず、応援するに決まっている。

 しかし、そのことが原因で、篠塚さんが負い目や義務感をもってしまったら。それこそ曉慧の本意ではない。
 そのうえ、篠塚さんが曉慧のために、人生の方向転換を強いられるような未来があるとすれば。

 曉慧は、自分を後回しにしても他人を思いやる優しい子だ。自分の想いを貫いた結果を描き、黙って身を引く決断をしたのだと、わたしは思った。

「曉慧ってさ、ほん——っとに、ばかだよね」

 篠塚さんが立ち去ったあとのカフェで、すっかり温くなってしまったタピオカミルクティーのタピオカを啜り、キュウキュウと咀嚼しながらアマンダが毒づく。

「うん」
「ここまでわかってて、このまんまってわけにはいかないよね?」
「うん」
「でもさ、どうすればいいと思う? あたしたちがなんか言ったって、曉慧が聞くと思えないし」
「それなんだよねー。いい方法があればいいんだけど」

 わたしもズルズルとグラスの底に残るタピオカを啜った。

「いい方法なんて——あああーっ、もうっ!」

 アマンダがテーブルに突っ伏して頭を抱え、うーうーと呻いている。

 わたしだって、呻きたい。


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