神様の縁結び〜台灣で挑む月下老人のおいしいミッション〜

樹沙都

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§ 一家人

和解の二

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 涙も涸れ、いつのまにかウトウトしていたらしい。ぼーっとした頭に、わたしを呼ぶ声が聞こえた。

「リンリン……」

 ハッと目を開き、じっと耳を澄ませた。

「リンリン……ごめん」

 もう一度、その声が聞こえた。もう二度と聞くことはないと思っていた、耳慣れた、カイくんの声だ。もぞもぞと体を起こすと、壁際にカイくんがいる。

 呼吸も忘れ、その姿に見入った。カイくんは、わたしを見つめたままゆっくりと近づき、音もなくベッドに腰を下ろした。

「リンリン、ごめん。間違ってたのは、オレのほうだ」

 わたしの姿を映さないカイくんの黒い瞳を、覗き込んだ。

「ごめんなさい……わたし……」
「謝るのはオレだよ。オレのほうこそ、ごめん。リンリンはずっとオレのために頑張ってくれたのにな。オレは、一方的に気持ちを押しつけて、リンリンを傷つけてたんだな」
「そんなことないよ。カイくんは——」
「オレ……霊魂のオレがいつまでもくっついているより、消えちまったほうが、リンリンのためだと思ってたんだよ。だから月さんのミッションにだって反対したし——本当は失敗すればいいとも思ってた」

「カイくん……」
「リンリンがそんなにまでオレと一緒にいたいと思ってくれてるなんて考えもしなくて。ホント……ばかだよな、オレ」

 わたしも、カイくんも、それぞれ勝手に相手を思いそれを押しつけていただけだった。
 もし、お互いの考えを言葉にしていたら、辿り着いた結果は、違っていたのかも知れない。いまさらもう遅いけれど。

「ううん。違うよ。わたしこそカイくんの気持ちも考えずに、勝手なことばっかり……」

 目が熱くて痛い。涸れ果てたはずの涙が、また頬を伝う。

「リンリン、一緒にいられなくて、ごめんな。オレもずっとリンリンのそばにいたかった。本音を言えば——消滅なんてしたくない。だけど……」

 言葉を紡ぐカイくんの目から溢れる滴が落ちるたび、キラキラと光っては消えていく。

「リンリン。ありがとう。楽しかったよ」

 わたしたちが一緒にいられる残り時間は、あと僅かだ。

「わたしも、ありがとう。カイくんと出会えて、一緒にいられて楽しかった」

 わたしたちの別れは、カイくんが死んでしまったあの日、すでに決まったこと。その後の時間は、おまけみたいなものだったのだ。

 ここで別れるのがオレたちふたりの縁。辛く悲しいけれどもオレたちらしく、最後の瞬間まで笑っていよう。そして、オレが消えたあとは、わたしに前を向いて新しい人生を生きてほしい、と、カイくんが言った。

 触れることのできないわたしたちは、お互いの顔を見合わせ、止まらない涙をそのままに、笑った。

「写真くらい撮っときゃよかったな」

 携帯電話の写真アプリをスクロールしながら、気がついた。
 あちらこちらへと遊びに行くたびにたくさん写真は撮ったけれど、人物はどれもすべて集合写真で、ほかは、景色や食べ物。カイくんとのツーショットが、なぜかひとつもないのだ。

「撮ってみるか?」
「え? いま? カイくん、実体がないんだから無理でしょ?」
「わかんないぞ? 撮れるかも知れない」
「それって……心霊写真?」
「心霊写真ってなんだよ?」

 なんと。カイくんは心霊写真を知らなかった。
 心霊現象、超常現象なんてものに一切興味のなかったカイくんは、その手の情報に触れることもまったくなかったらしい。さすがは理系男子と言うべきか。

「心霊写真っていうのはね、たとえば、写真に写った人物の肩に、ないはずの手が映り込んでるとか、集合写真にいないはずの人が混ざってるとか、空中に人の顔が浮かんでるとか——」
「そんなのあるわけないだろ?」
「あるんだよそれが……実物は見たことないけど、テレビとかで見たことあるもん」

 なにかがおかしい。

 いま、カイくんとツーショットが撮れたとしたら、それを心霊写真と言うんだよ?


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