神様の縁結び〜台灣で挑む月下老人のおいしいミッション〜

樹沙都

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§ 一家人

小寶貝の二

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 病院の正面玄関前に車を横づけした陳さんは、停車させると同時にドアを開け、一目散になかへ。間髪を入れず複数の看護師が車椅子を転がしこちらへ走ってくる。

 あれよあれよという間に、芙蓉姐は車椅子に乗せられ、産科の診察室へ運び込まれた。これ以上は役立たずのわたしたちは、目の前でドアを閉められてしまえば、待つしかない。

「俺、姐と詠健に電話してくるわ」

 バタバタと走っていく陳さんの背を見送り、ホッと息をつく。よかった。これで一安心だ。

 並べてある長椅子にでも座ろうかと振り返ると、そこには、カイくんが横たわっていた。

「カイくん?」

 慌てて駆け寄って跪き、顔を覗き込む。疲労の色がありありと浮かぶその白い顔に、棺に横たわっていたあのときの姿を思い出し、恐怖を覚えた。

 まさか、このまま消えてしまうなんてことは、ないよね?

 ゆっくりと瞼を開けたカイくんが、怯えるわたしに口角だけで力なく微笑んだ。

「大丈夫。ちょっと疲れただけだから」

 そうは言われても、小さな物を落としたり、音を立てたりするのとはわけが違う。一人前の幽霊としての研修も受けていないいまのカイくんが、人ひとり支えて歩くのは、かなりの負担であることは間違いない。

「ばーか。心配すんなって。休めば戻る」
「うん」
 ——でも。

 心配しないなんて無理だ。せめてタイムリミットだけでも無事に迎えさせてほしい。カイくんを消さないで、と、心のなかで神様に祈った。


 産声を聞くまでの待ち時間は、長い。
 遅れて駆けつけた詠哥は、まるで熊だ。難しい顔をしてぶつぶつなにかを言いながら、分娩室へ続く自動ドアの前を行ったり来たりしている。

 林媽媽は、台南からこちらへ向かっているとのこと。出産までどれくらいの時間を要するのかわからないが、間に合ってくれるといい。

 運転手に連絡係と大活躍の陳さんは、いま現在も活躍中。入院手続きやらなにやらで、大忙しだ。

 休息を取り無事復活したカイくんは、わたしの隣に座っている。
 詠哥がそばにいるので、お喋りはできないが、カイくんがポツポツと語る言葉に耳を傾け、小さく相槌を打つ。

「男の子かな? 女の子かな? 姐の奴、事前に聞いてなかったのかよ?」
「まさか立ち会えるとは思わなかったな」
「姐、大丈夫かな? どっちでもいいから、無事に産まれてほしい」
「まだかな。いったいいつまで待てばいいんだよ……」

 苛立ってきたその様子に、カイくんまで詠哥と一緒に歩き出すのかと呆れたそのとき、ドアが開いた。分娩室から出てきた医師の笑顔に、詠哥の顔が綻んだ。

「おめでとうございます。元気な男の子ですよ。出産は順調で、母子ともに健康です」

 感激で顔を真っ赤にし、目を潤ませた笑顔の詠哥と一緒に、医師からの説明を聞く。初産にしては軽いお産で、時間もかからず出血も少なかったとの医師の説明を聞き、よくわからないながらも胸を撫で下ろす。引き続き、看護師からもその後のケアなどの説明を受けた。

 芙蓉姐と赤ちゃんに会えるまでには、もうしばらく時間がかかるとのこと。待ちきれない詠哥はまた熊に戻ってしまった。
 お父さんになったのだから、少しは落ち着いて座っていればいいのにとは思うけれど、詠哥の喜びようもわかる。

 まるで夢みたいだ。

 ひとつの命が、産声を上げ、周囲の人々に愛され育っていく。家族が増える喜び。わたしにもいつか、そんなときが訪れるのだろうか。

 でもいまはそんな不確かな未来よりも、産まれたばかりの彼の成長を、わたしも見守っていきたいと思う。

 ここにいたい。この家族と一緒に。

 そう簡単に諦められるものではないんだな、と、カイくんの目を盗んで苦笑した。


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